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22 ファミリー?

 湊川や白石から見て、有情の生活形態は非常に変わったものに見えた。まず、友人の数が何人くらいいるのかがわからなかった。以前にフライフィッシングに友人と一緒行くと言っていたので、全くいないわけではないでもなさそうだった。それでも、最近誰それと会ったというような話は聞いたことがなかったし、湊川がミナミの酒場であったときも一人で川面を見ながらニヤニヤしながら飲んでいた。射撃にしても誰かと射撃場でどんな話をしたかといったことも、誰かと誘い会わせて行っているというのも聞いたことがなかった。


 自分たちのこと以外で話に出てくるのはたいてい息子の利太や主税、そして前妻、娘の香澄や妻の話ぐらいだった。しかも、それらの人物が全て有情と友好的な関係にあり、また、それぞれの間でも交流があること自体奇妙だった。その上、今の妻も湊川の存在を知っていて、それが有情から話したので知ったというのも理解できなかった。有情は単身赴任であり、黙っていれば全くと言ってもいいほど発覚の恐れはないはずだった。そのようなことはなさそうに思えたが、もし仮に宇都美と白石が結婚後にどちらかがいわゆる不倫の関係を持って、それが発覚したら大問題になるだろう。


 もちろん、誰かが不満に思っていることもあるかもしれないが、このような複雑、かつ常軌を逸した関係をどうやって維持しているか不思議で仕方なかった。しかし、それを聞いたところで「そうなんだから仕方ない」とか「妻に文句を言われた方がいいのか」とか、あるいは「それは自分のファミリーだから」などと言うだけで詳しい事情が聞けるとも思えなかった。


 有情はスマホを持っていたが、湊川と一緒にいるときにLINEが来たり、電話がかかってきたりすることはほとんどなく、あっても普通にLINEを返したり(大抵はすぐに終わった)、電話で話すときに後ろで湊川や白石の話し声がしても気にする様子すらなかった。明らかに仕事の電話とわかるものに関してはあまりうるさいところで話すのは嫌なようで場所を変えることはあったが、それは稀だった。もちろんずっと一緒にいるわけではないので、その時に電話をかけていることは考えられたが、わざわざ相手全員に「今湊川と一緒にいるからかけないでくれ」などと言っている訳もなかった。一度「なぜスマホを持っているのか?」と聞いたことがあったが、「公共交通機関で移動する際に音楽を聴くのとシャーロットの写真を撮るのにこっちの方が便利だから」と言われ、実際に写真フォルダーを見せてもらったら、本当にほとんどシャーロットが座っていたり、転がっていたりする写真であり「ファミリー」の写真、釣りと射撃の写真がちらほらある程度だった。途中からはその写真の中に湊川の写真も混じるようになっていた。そのことに関しては「自分がファミリーの一員になった」と思えて少し嬉しかった。


 この結束の強い「ファミリー」に何か特殊な秘密があるのかという不安もあった。普段の有情を見ている限りではそれに対しては否定的で、ただの怠け者にしか見えなかった。よく言っても趣味人程度に思えた。他の「ファミリー」のメンバーも、写真で見る限り、ごく普通のどちらかといえば人の良さそうな人たちであった。特殊な秘密があったとしても自分からは言わないだろうが、湊川が真剣に聞けば教えてくれるかもしれない。聞いてしまえばそれ自体ごくつまらないことということもあり得る。もし他所で明らかにできないような反社会的な内容ならどうするだろうか。そうだったとしても「他所では言わないほうがいい」と言うくらいに思えた。あるいはその内容を湊川自身が受け入れられないようなことならどうだろうか。今の自分ならそれでも受け入れる覚悟はできていた。ひとつ気になることがあるとすれば、有情が動物や魚、害虫であるはずのハエなどの虫に対しても命を大事にするにも拘らず、人間に対しては冷淡とも言える態度を取ることがあることだった。怪我をした動物がいたら必ず保護し、回復したら、また放してやり、それが死んでしまえば裏山に埋めて弔ったりする。ハエでさえ家の中にいれば殺虫剤で殺したりはせず追い出そうとした。確かにハンティングをしたり、釣りをしたりはしたが、決してその獲物を苦しめるようなことはなかったし、もし失敗しそうなときは決して手を下すことはなかった。だが、凍えそうな夜に酔っ払いが倒れていても全く知らないような顔をして通り過ぎる。関わりたくないというのもあるだろうが、生きているかくらいは確認してもよさそうに思えた。おそらく目の前で交通事故が起こって人が跳ねられたとしても、そのまま何もなかったような顔をして通り過ぎるだろう。面倒を避けたいと言うのとはまた違うようにも感じた。ただ、湊川自身が跳ねられそうになったら、おそらく身を挺して庇ってくれるという妙な自信はあった。それは旅行の時や普段出かけている時に直感的に感じていた。


 自分は自分で「ファミリー」の一員として自覚さえ持っていればなんでも乗り切れる気がした。実際、有情との付き合いが始まってから仕事も全て順調に進んでいたし、プライベートでもトラブルが起きたこともなかった。


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