21 秘密(ひみつ)
A国から帰ったあと、湊川はなんとかしてクリスマス・ラムを冷凍ではなく、チルドで輸入することはできないものだろうかと腐心していた。しかしながら、 N国からの輸入肉は一部を除き冷凍で輸入されていたし、アメリカからは多くの牛肉がチルドで輸入されてはいたものの、ラムとなるとまず全部が冷凍であった。そもそも熟成期間の違いもあった。ビーフはだいたい三、四週間、ラムでは十日から長くても二週間以内である。屠畜してからすぐに出荷し、輸送、通関をしてしまわなければならなかった。肉類を冷凍すると固体化し体積が増加する(一般的に物質は気体、液体、個体に変化すると体積が小さくなる)という水の奇妙な物理的特性で、細胞内の膨張した水により含水細胞の細胞膜が破壊され肉質が劣化する。加えてマスタートンから届く予定の日本人向けのWagyuも同時に乗せてこないことにはラムだけでは到底元が取れなかった。Wagyu自体は普通に持ってきても熟成の期間が長いので、多少時間がかかっても問題はなかったが、それにラムを乗せてくるとそっちが過熟成になってしまう。湊川はそのジレンマに陥っていた。
有情にそんな話をしても「そうなん?」と言われるだけの気がしていた。その上、八月下旬になるまでちょっと集中を要するとのことで結構まとまった有給休暇を取っていた上、あんまり家にもきて欲しくなさそうな雰囲気を醸し出していた。電話くらいいいだろうと思ってLINEで電話してもいいかと聞いて、せめて愚痴だけでも聞いてもらおうと電話してみた。有情に電話してさっきのことを全部話してみたが、案の定、「それは困ったね」とか、「いやぁ、海運のことは俺に言われてもなぁ」とか言うだけで、余計に気が滅入ってしまった。
いろいろ手は尽くしてみたものの、どうしようもなくとうとう季節は夏休みシーズンの八月に入ってしまった。そんなある日
、
「湊川さん、なんか外国の方が直接話をしたいと電話がかかってきています」
との連絡を受けた。
悪い予感しかなかったが、仕方なく電話に出ると非常に訛りの強い英語で
『A国からN国経由でI国に台湾やシンガポールなどの東南アジアを回って回航する貨物便があり、ご希望なら日本にも寄っても構わない』
と言われた。
湊川は初めどうせ高額な輸送量を取られると思い断ろうとしたが、一応、条件だけは聞いてみようと
『いくらで運んでくれるのか?』と聞いてみた。
『どうせ台湾にも寄るからコンテナの電気代にちょっと色をつけてくれれば良い』
とのことだった。
その「色」というのもN国からの日本便と比較しても、どうせ空きがあるからとずいぶん安い値段で、コンテナの積み下ろしの代金もその「色」の中に含まれていた。なぜI国の海運会社がそのような申し入れをしてくれたのか湊川には全くわからなかったが、渡りに舟の好条件であった。ついでにと思い
『運ぶコンテナの量が増えてもその条件でお願いできますか?』
と聞いてみた。
『膨大な量でなければそれでいい』とのことであった。
「膨大な量」という表現がどんぶり勘定だったため、その量を計りかねたが有利な申し入れであることに変わりはなかった。湊川は「私はついている」と感じざるを得なかった。
早速、有情に電話してみたが、すぐには出なかった。しばらくすると有情の方から電話がかかってきたので、それに出て経緯を話した。後ろからいつもの発砲音が聞こえていた。
「どや、すごいやろ」
と湊川が言ったら
「それがどれくらいすごいかはわからんけど、良かったな。今ちょっと忙しいから、後にしてもらえんか」
と言われた。
「なんで喜んでくれへんのよ」
「せやからよかったな言うてるがな。ちょっとルールが違うからややこしいねん。慣れるまでちょっと待ってくれへんか?」
「ルールが違うて何のルールよ?」
「そら射撃やがな」
「わかってるがな。何でいつものルールでせぇへんのよ?」
「それは俺に言われてもなぁ」
「歯切れ悪いな。まぁ、ええわ。代償は払てもらうからな」
そう言って電話を切った。
有情は普段なら一緒に喜んでくれるはずなのに、なぜ今に限ってそこまで実直に射撃に打ち込んでいるのかが不思議だった。もちろん、普段もちゃんとしているのはわかっていた。そうでなければ満射は出ないはずである。しかし、ルールというのはコロコロ変わるものだろうか、単に右と左の箱から飛び出してくるクレーピジョンを撃つだけではないのだろうかとも思った。二十二日が終われば絶対に聞き出してやろうと心に決めた。
八月二十二日に有情から電話があった。何だかとても疲れているようだった。「あぁ、疲れた」だの、「神経使った」だの、グズグズ言うだけで、あまり長話ができそうもなく、湊川の方からもあまり詳しく聞くことができなかった。湊川の方もそろそろI国の貨物船が入ってくる時期だったので、それが落ち着く九月の初めごろに最初に行った鉄板焼きが食べたいとだけ伝えた。それに対して有情は非常に乗り気で
「ほな、九月九日か、十日にしよ。ちょうど大阪で打ち合わせせないかんこともあるから梅田でどや?」
と言った。
疲れてはいるものの、機嫌は良さそうだった。梅田に行くなどと言うことなど滅多にないことであったことからもそれは推察された。
「うん、梅田でええよ。なんかええことでもあったんか?」
「取り立ててそんなことないよ」
「梅田行こ言うこと自体滅多にないやん」
「それはどないしてもしとかないかん用事があるんや」
「それはれなに関係する用事か?」
「いや、用事自体は関係あらへん。だいたい、関係あることやったら一緒に行くやろ。まぁ、詳しい日程は近こなってから決めよや」
疲れていることも、梅田に用事があるということも何か奇妙に思えたが、湊川は貨物船の入港、試食会とプレゼンなどに忙殺され忘れていた。
有情の次の電話は九月の終わりにかかってきた。
「れな、九日か十日か決めたか?」
「用事いうのはどっちの日ぃでもええんか?」
「おぅ、かまんで」
「ほな十日の方がええんやないか?」
「何でや?
」
「九日やったら仕事あるやろな?」
「そんなん、早退けしたらしまいやないか」
「せやけど、十日は余野行くやろな?」
「いや、ちょっと詰めていったから、その日はどっちでもええ」
「何や怪しいな」
「何がやねん?」
「その日に限って行かんいうのは変や。まずいことでもあるんか?」
「さしてまずいことなんてあらへん。俺にも都合いうもんもある」
確かにまずいことではなった。単に「時の人」になっていただけであった。八月二十七日にも行っていたが、国体の近畿予選で二十三、二十五、二十五、二十四のトータル九十七で優勝した人が北大阪にいるという話題で持ちきりであった。しかも、公式試合の出場経験の全くない選手だったという内容だった。ほとんど射撃場でも他の人と話はしない有情ではあったが、何といっても名前が目立ってしまう。バレたら誤魔化しようがない。ほとぼりが冷めるまでしばらくあまり行きたくなかった。
「れなは金曜の方が梅田におるから楽やけど」
「ほな、九日にしよや。用事はれなが仕事終わるまでに済ませとく。何時に終わる?」
「定時に終わると思うで」
「ほな5時半に新阪急ホテルのロビーで。楽しみにしてるで」
「うん、れなも」
九月九日、金曜日の午後3時半ごろ有情は梅田の宝石店に湊川のクリスマスプレゼントに贈るピアスをオーダーしに行った。そもそも装飾品に興味のない有情はその店しか知らなかった。大学時代に同級生に送ったリングを作ったのもその宝石店であり、いろいろ無理も聞いてもらえた上、それから四十年以上経っていたので、そこそこ名前は知れているだろうという推測だけでそこに頼むことにしていた。
「いらっしゃいませ。プレゼント用ですか?」
「まぁ、そうですが、今日の3時半にオーダーの予約をしていた有情と申します」
女性店員はノートを見て
「あっ、有情様ですね。お待ちしておりました。ダイアの3連のピアスをご希望とのことでしたが、それでよろしいですか?」
「はい、間違いありません。よろしくお願いします」
「かしこまりました。こちらが基本形になりますが」
と言って上から順に下に向かって小さくなっていくものを指した。
「背が高い女性なので上から下に向けて大きくなって、もう少し間が空いているものがいいです」
「間を開けるとどうしてもダイヤの大きさが小さく見えてしまいますよ」
「そうなんですか?でも本当に背が高いのである程度間隔があったほうがいいように思うんですが」
「失礼ですがどの程度身長がおありでしょうか?それとご年齢はいくつですか?どのような機会にお使いの予定ですか?」
「多分、180はないと思いますが、それに近いと思います。歳は30歳です。普段使いを考えています。会社につけていくとか」
「そうなんですね。かしこまりました。それですとやはりあまり長くない方がよろしいかと思います。あまり長いと引っかかったりして邪魔になると思いますが、予算はどの程度ですか?」
「予算は特に決めておりませんが、指輪ではなくピアスなのでカットやクラリティに関しては多少指輪用より劣っていても構いません」
と伝えた。
「少々、お待ちください。上のものを呼んできます」と言って、その場を離れていった。
しばらくすると少し年配の女性を連れて戻ってきた。
「お待たせしました。店長の山下です。立ち話も何ですから別室を用意させていただきました」
そう言って本当に応接間のようなところに通された。
「本当にそのサイズでお造りになりんですか?」
「そのつもりで来ましたが、先ほども申し上げましたように、特に予算は特に決めていませんので構わないですよ」
「それでしたらピアスを同一サイズで3連にして、大きなものはカットとクラリティを上げて指輪にした方が見栄えがするかと存じますが」
「あなたがもらうとしたらどっちがいいですか?」
「私なら断然後者です」
「そちらの方は?」
「私もそう思います。婚約指輪としても素晴らしいものになると思います」
「結婚をする予定はありませんが、それでもその方がいいと思いますか?」
「はい、一般的な婚約指輪のような縦爪にしなくても立派なものになると思います」
「クリスマスまでに間に合いますか?」
「大きいものだと探すのに少しお時間がかかるかもしれませんが、石そのものを強調するデザインの方が良いと思いますので、加工自体にさほどお時間をいただくことがないので十分可能です」
「ではそれでお願いします」
「それでは早速、デザインを検討していきましょう」
と話はとんとん拍子に進んだ。
「ところで支払いは現金でも構いませんか?」
「もちろん、大丈夫ですよ」
「ちなみに内金はいかほど入れたらいいですか?」
「三分の一から半分いただければ早速デザインに入らせていただきます」
「今後の打ち合わせはメールで可能ですか?」
「もちろん大丈夫ですが、奥さ・・失礼いたしました」
「構いませんよ。家族のようなものです」
「その方の指のサイズはわかりますか?」
「そこまではちょっとわからないですし、指輪をつけているところも見たことがありません」
「有情さんの指より細いですよね」
「いやぁ、長年弓道をやっていたのでさほど変わらないか、むしろ太いかもしれません」
「サイズはお直しできますので、とりあえず有情さんの指のサイズを測らせてもらってよろしいでしょうか?」
「いいですよ」
「きれいな指と爪をしておられますね。何か指を使うお仕事をおられるんですか?」
「以前は皮膚外科をしていました」
「左様ですか。指輪はどちらの手にされますか?」
「わかりません」
「では、とりあえず左手の薬指を測らせていただきます」
「ちょっと妙な質問をしますが、その指輪をしていて他の人との結婚に影響はないでしょうか?」
二人の販売員は顔を見合わせ
「あるに決まってるやろ。服装にもよるやろけど、こんなもんつけてる180cmもある三十歳の大女に気後れもせんと声かけれる男がおったら誉めたるわ。しかも、今まで指輪してたことないのに、いくらデザイン変えてもどう考えても婚約指輪にしか見えへんし。医者は変わり者が多いて聞くけど、こいつアホちゃう」
というようなことはおくびにも出さず
「恐らくないと思いますよ」
と言った。
いろいろな形や台座の金属の種類を決めるのに二時間近くかかってしまった。内金を支払い、デザインができたらメールするように伝えて店を出た。店を出てホテルのロビーに行くと湊川は既に来ており、喫茶店のショーケースでケーキを物色していた。細めのカーキ色のチノパンにTシャツ、着流しのPatagoniaのストライプの黄色のシャツが似合っていた。
「そんなもん食うたら肉食えんようになるぞ」
後ろから声をかけた。
「先生、久しぶり」
とハグしてきた。
「長いこと何してたんよ。寂しかったで」
「嘘つけ、仕事で方々回って忙しかったくせに」
「まぁな。先生は何しとったん?」
「俺は用事があったからその準備とあとは普段通りやな」
「その用事言うんは仕事がらみか?」
「なんでそんなことに貴重な時間かけなあかんねん。電話で言うたやろ。ちょっとちゃうルールの練習しとったんや」
「やっぱり、アホやな」
「動作IQが低なってもたから140ぐらいしかないけど」
「そら知っとるわ。早よ肉食いに行こ。そらそうと今日の用事はその格好で問題なかったんか?」
「なんでや?いつもこんなもんやないか」
有情はごく普通のアメリカ向けのリーバイス501に東洋の長袖のアロハを着て、G.H. Bassの茶色のローファーを履いていた。
「まぁ、コーディネートとしては足長いし、多少腰履き気味に履いても問題ない、アロハもよう似合とる。せやけど、501のボタン止め忘れてんのはいただけんな。よかったなぁ、アロハでシャツ出しとるから目立たんですんで」
「これはしょんべんしたかったから事前に開けとっただけや」
と言いながらボタンを止めた。
「有情様、いらっしゃいませ。先生のお好きな奥の席をご用意いたしましたよ」
「いつもありがとうございます。あそこが一番落ち着くんですよ」
「存じ上げております」
千里の店よりも行きつけのようだった。
「先生、ここよう来るんか?」
「前はな。もともと実家が宝塚沿線やったからな。ビールでええか?」
「うん」
「まず生二つください。あとはおいおい考えます」
「かしこまりました。お食事がお決まりになりましたらお伝えください」
「ありがとうございます。れな、何食うんや?またA5サーロインか?」
「いや、今日はこのAU国産のヒレにしとく」
「なんや、珍しいな。いつから倹約家になったんや?」
「私にも都合いうもんがあるんや」
「俺はA4のヒレにしょうかな」
「先生は好きなもん食べたらええよ」
「付け合わせはなんにするんや。海老か、鮑か?」
「付け合わせはやめとくわ」
「なんでや?」
「しゃあから私にも都合があるいうてるがな」
「まぁ、ええわ。すんません、このAU国産ヒレ200gのコースと私はA4ヒレ200gと車海老のコースでお願いします」
「あっ、待って私は100gのコースにしてください」
「なんや、ダイエットか?」
「ちゃうわ。ダイエットせなあかん体してるか?そもそもダイエットしてたら肉食いにけぇへんわ」
「まぁ、ええわ。あとで腹減ってもしらんぞ」
「大丈夫や」
「なんぞ食うてきたんか?」
「そんな失礼なこと先生にしたことあれへんやろ」
真意は図りかねたが、そうしたいのだろうと思って同意した。
「ほな先生、乾杯」
「乾杯。船の手配、うもいってよかったなぁ」
「おおきに。せやけど、あのI国人なんで船探してたん知ってたんやろ?しかもわざわざ大して儲けにもならへんのに向こうから電話かけてきたんや」
「そら俺はわからんわ。空荷で回航するよりマシやったんやないか?」
「いや、そらないと思う。荷下ろし見にいってんけど、結構な数のコンテナ乗ってたし、私のコンテナは船倉に入ってた」
「相変わらず鋭いのぅ。まぁ、うまい具合にいってよかったやないか」
「先生は何してたんよ?ルールが違うてどういう意味なん?」
「俺が普段撃ってるんはインターナショナル・ルールや。こないだはどないしても普段は撃たんジャパン・ルールで撃たなあかんかったんや」
「どっちにせよ右と左の箱からクレーピジョンが飛び出すだけやないんか?」
「そらまぁ、そや。他に飛び出すところないからな。順番と数が違うんや。例えば1番ならインターナショナル・ルールやったら3枚しか出んけど、ジャパン・ルールやったら4枚出てくるんや。それを自然に撃てるようになるまで慣れなあかんかったんや」
「なんでそこまでせなあかんかったんや?」
「俺にも都合いうもんがある」
「どんな都合や?」
「それは年末まで待っとき言うたやろ」
「そいでうまいこといったんかいな?」
「ぼちぼちやな」
二人はAU国旅行の反省会を始めた。いつも旅行に行ったあと、といっても今回でまだ三回目であったが、思い出話を兼ねて話し合いを持つようにしていた。
「二日目の初めてのハンティングの日に豚が襲てきときはびっくりしたで。まさかあんな速よ走る思てなかった」
「そらはじめに言うたはずや。ちゃんと言うこと聞かなあかんて」
「ちょっと慢心しとった」
「一発目で絶対当たる思てたやろ」
「うん、外す気がせんかった」
「当たる当たらんかはいろんな条件で変わってくるんや。せやなかったらなんぼ好きやいうても俺かて練習にはそうしょっちゅういかん。なんせ同じコースを飛んでくるクレーピジョンを同じ位置から同じ製品の弾で撃つんや、皆当たって当たり前や。体調によっても変わるし、気ぃの持ちようによっても変わるんや。特に気ぃが昂っとるときはそうや。周りが見えんようになってまうからな。それにアーチェリーみたいに飛翔体が大きかったら風がちょっと吹いたら、すぐ向きが変わってまう」
「二射目も外した」
「あれはしゃあない。動く(いのく)もん撃ったことないからな。三十三間堂で120m先のペットボトルの蓋撃てても、それはあくまで静止物で風もない」
「それでライフル射撃からクレー射撃に転向したんか?」
「いや、そらちゃうで。ライフル射撃は何とのぅ陰気くさいんや。それにあんな重装備で今はもう撃てん。服だけでも10kg近うあるし、銃もクレー射撃用の銃よりずっと重い」
湊川にはどちらも結構陰気くさいものに思えたが、それはまぁ、個人の主観と理解するしかなかった。
「二回目はどうやった?」
「あれはよかった。特に相手が動く可能性があるから、その場に留めておくために二発目を撃ったんが素晴らしかった」
「あれ、二発目撃たんかったらやっぱり逃げたやろか?」
「そればっかりは何とも言えんな。もしかしたらそのままこっち見てるだけやったかもしれんし、逃げたかもしれん。やっぱり二発目は撃っといて正解やと思うで」
「もし今度上から一発だけで仕留めるんならどないしたらええと思う?」
「せやなぁ、バックアップできる位置に俺がおって、れなが相手が気づいても見えんようなところで撃ったらいけるかもしれん。大事なんは起きた時に二人とも相手に見えんことやな。音だけで人の姿が見えんかったら豚も逃げん可能性が高いからな」
「何でや?」
「そらどこに逃げるのが安全か判断がつかんからや」
そのようなことを話しているうちに湊川は小さめのステーキをほとんど食べてしまっていた。
「すいません、そこのショーケースに入ってる二段目の左側の肉200g追加してもらえませんか」
と湊川は言った。
「なんや、結局霜降りにサーロイン食うんやないか。しかも一番良さそうな肉や。ほな最初からそれ頼んだ方が良かったんちゃうんか?」
「せやから、都合がある言うたやないか。あんまり酒が入らんうちにこっち食うときたかったんや」
「ようわからんけど、まぁええわ」
「それとバブル頼んでもええか」
「ええで。なんぞええことでもあったんか?」
「そらまた今度の楽しみにおいとき。後悔はさせへんから」
「まぁ、れながそういうんならそうなんやろ。」
その日の支払いは十万円を超えた。




