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17 フレッチ

 ダーウィンには昼過ぎに着いた。乾期の北AU国はあくまでも晴れ上がり、白かった。ダーウィンはAU国・ノーザンテリトリーの中心都市であり、北部観光の起点である。カカドゥ国立公園や「世界の中心で愛を叫ぶ」に出てきたエアーズロックへのツアーなどもここから移動していく。


 有情たちはハンティングをして、観光までする時間的余裕がないので、観光船に乗り昼寝するクロコダイルを見て、街中でアボリジニの民芸品を見たりする程度にとどめた。ホテルにチェックインし、夕食は海辺のシーフードレストランへ行って食べた。


「このバルメーン・バグってなんやろか?」


「おもしろそうやから頼んでみよ」


と頼んだら素焼きにしたウチワエビを半分に切ったものが山ほど出てきた。


おいしかった。次の日はカカドゥ国立公園の南端近くまで移動しなければならなかったので、控えめに飲んで早々にホテルに帰った。


 翌朝、朝食はホテルでとった。なぜかご飯と味噌汁まであった。時期が時期だけにあまり見かけはしなかったが、きっと日本人観光客もそれなりに来るのだろう。ただ、ご飯はともかく味噌汁は出汁を取っていなくて、具を入れて味噌を解いただけのものだったので食えたものではなかった。有情は、絶対時間通りには来ないからと、一旦部屋に戻り身支度をしてゆっくり降りていこうと思っていたが、湊川はさっさと用意を済ませて早めに行こうと言った。


「絶対遅れてくるから慌てんでええよ」


「せやかて待たせたら悪いやん」


「いや、100%遅れてくる」


という制止を聞かずに、湊川は待ち合わせ時間の9時ちょっと前に部屋を出た。


結局、10時ごろまで待つ結果になった。

 

 そもそもそれなりの高級ホテルの前であまりにもカジュアルな服装で、どう見ても銃器が入っていそうなケースを持って長時間待つのも気が引けた。まだ湊川はいい。SOFFEのダウンショルダーのTシャツにTRU-SPECのMULTICAMのカーゴパンツである。体型から見てもどこかの女性兵士が休暇で帰ってきたと言ってもおかしくない。有情もODのTシャツにカーキ色のBDUパンツではあったが、一般的に見て工事のおじさんにしか見えなかった。そこへやってきたのが湊川よりももっと背の高い、よく日に焼けた黒のTシャツとデザート・カモのパンツを履いた白人女性が運転する、同じくデザートカモのランドローバー・ディフェンダーであった。まだハンビーでないだけマシであった。女性兵士二人は運転席と助手席に座り、工事のおじさんは道具類を荷台に積み、後部座席に乗り込んだ。


 ランドローバーは一応、エアコンは付いていたものの乗り心地は最悪だった。スチュワート・ハイウェイを南下して行くとすぐに周りは灌木が生えただけの広い景色に変わった。前の二人は談笑しながら、ときに喚声を上げたりしているが、ロードノイズで後ろの席まで声が聞こえず、何を楽しんでいるのか全くわからなかった。たまに声をかけてはみたが、ガールズトークだと言ってあまり取り合ってくれなかった。


 途中、エメラルドスプリングス・ロードハウスというところで昼食を取った。有情は初めてここで一息つけた。三人はハンバーガー・アンド・チップスを二つ頼み、女性兵士たちは二人で分けて食べていた。工事のおじさんはビールを三缶買ってきてそれを三人で飲んだ。夜はあなた方のためにバービー(バーベキュー)を用意しあるからとやっとまともな会話ができたのも束の間、残りまだ三分の一くらいの距離がある。しかも、その半分は非舗装路になる。工事のおじさんはちょっとだけ前に乗せてくれと頼んだが、女性兵士たちはガールズトークの続きがあるからとあっさり断られた。途中カカドゥハイウェイの舗装路を走っているうちはまだ良かったが、非舗装路に入ると非常に大変だった。後部座席にはアシストグリップが付いていなかったので、頭を打たないようにするため、両手で天井を押さえなければならなかった。


 ステーションに到着するとオーナー夫婦が迎えてくれた。他に二組ハンターがいるらしかったが、その日は会うことはなかったし、全行程でもどこか別のところで野営しているようでチラッと見かけて情報交換するくらいだった。そもそも獲物が違うので探す場所も違っていた。他のハンターたちはロバや野牛を狩っているようだった。野牛は大きな家なら壁飾りにでもできるだろうが、ロバは今ひとつ理由がわからなかった。もしかしたら国内旅行者で持って帰って食べるのかもしれない。有情たちはワイルド・ボアを中心に狩りたいと伝えてあった。もちろん湊川はコロコロ気分が変わるので他のものも狩るかもしれないと付け加えてはいた。ダイニングエリアでビールと一本ずつ飲み、ロッジに荷物を運んでもらった。


 有情と湊川が少しうとうとしかけた頃に屋根のない四輪駆動車がやって来て、ちょっと練習がてら撃ってみて欲しいと言われた。アジア人は滅多に来ないから腕前をみたいとのことだった。疲れてはいたが、そう言われると仕方がないのでボウに照準器をつけて数本矢を持ってトラックに乗った。


『誰がメインで撃つのか?』


オーナーが聞いてきた。


『この女性だ』


有情は答えた。


有情はアーチェリーがあまり上手ではなかった。


『その代わりバックアップのためにオープンサイトの銃を貸して欲しい』


有情は隣の国のライセンスを見せて行った。


『それと機会があればこれでしたい』


と木製のスリーブから美しいダマスカス鋼の大きなナイフを出した。


『Oh, are you enough brave to do that?』(本当にそんな勇気があるのか)


とからかわれたが

『Yes, definitely!』(もちろん)


と答えた。


『銃は.308でいいか?』


と聞かれ


『なんでもいいよ』


と答えたらかなり短いルガー・ホークアイ・コンパクト・ライフルを持ってきた。


非常に使いやすい銃である。


 ヘイベールに15cmほどの紙を貼り付け、まず、それを湊川が大体30mの距離で撃った。相変わらずきれいな会である。1射目はほぼ真ん中に命中した。20mほど後ろにさがり2射、さらに20mほどさがり2射を撃った。矢は全部紙の上に当たり、無難にまとめたといった感じだった。ヘイベールのところに戻り、着弾を確認した。矢はちょうどサイコロの五の目のように当たっていた。

『Don’t be cute!』(生意気や)有情は言った。

『Stop beating around the bush! What’re you getting at?』(何がぁ?何言うてるん?)


『What’s the point of issue?』(どうかしたのか?)


何が起こっているかわからないオーナー夫婦や先程の白人女性兵士とその夫のガイドが聞いてきた。


『No problem. Rena’d just shot these arrows like five roll of the dice on purpose!』(問題があったわけや無いけど、れながサイコロの五の目みたいに矢を打ち分けた)


「先生、部屋に帰ってフレッチ(矢羽)つけなおしたかったん?なんなら撃ちなおそか?」


耳元で言われ、そのまま耳たぶを噛まれたので、ぐうの音も出なかった。


『It happens to be. Nothing much』(たまたまよ、たまたま)


そう言って湊川は有情にウインクした。


周りのオージーたちは今一つ状況がつかめていない様子だった。


 アーチェリーの矢には三枚か、四枚のフレッチがつけてある。それは矢を安定して飛ばすためと矢に回転を与えるためで、これがないと命中精度が下がる。回転させるために少し斜めに取り付ける必要があり、結構めんどうくさい作業である。確かに湊川の言うとおり、似たような位置に着弾させれば矢同士が接触しフレッチが外れてしまうことはあり得ない話ではないし、それを避けるためにわざと矢を離して着弾させたと言われては言い返す術はない。


 次は有情の番だった。有情が撃つのはアーチェリーではなくライフルである。レンガをヘイベールの前に四つ並べて、その上にビールの空き缶が並べられた。有情は一番左の缶だけ丸いマークが付いている面を手前に向け、後の三つは何かしら、ちょこっと触ってマークと関係ない向きに適当に並べているように見えた。湊川が二射目と三射目を撃った位置まで下がり、一番左の缶のマークの真ん中を狙って撃った。弾は命中し、ビールの空き缶は空中に飛んでいった。一旦銃を置きわざわざどこに当たったかを確認し、着弾がごくわずかであるが狙った場所の右上に当たることを確認して、1発目を撃った場所に戻ってきた。二つ目の缶はレンガの上から辛うじて下に落ちた。3発目は缶が揺れただけだった。4発目は大体2発目と同じように缶が転げ落ちた。湊川以外全員がなぜ有情が1発目だけ缶に命中させ、後の三個には命中させなかったのかがわからなかった。しかし、有情は満足そうにライフルのボルトを開いてオーナーに渡して、みんなで確認しに行こうと言った。湊川は


『Such a poser, you!』(ええかっこしい)


と言った。

『It’d happened to be』(たまたまやがな)


二つ目以降のビール缶はプルタブだけがなくなっていた。


 夕飯はバービーだと言われていたので、湊川は少し期待して食事に行った。オーストラリア人はよくバーベキューをする。多少、硬いかもしれないが大きな牛肉が載っていると思っていたからだ。セットの上には大きな黒い魚とソーセージ、何かよくわからない肉塊が乗っており、牛肉は全くなかった。


『このクロダイは今日妻が釣ってきた』


とオーナーは言った。


確かに「black bream」はクロダイではあるが、日本のそれとは全く違っていた。白身ではあったが、身の質はタイのそれと全く違った。しかも、鱗がついたまま調理されており、かなり生臭かった。しかし、妻がわざわざ釣ってきたと言うのだから食べない訳にもいかなかった。肉塊はワイルドボアで味はともかく、硬くて噛むのは大変だった。ソーセージはまぁ、それなりに美味しくはあった。ただし、これも固かった。有情はだいたい想像していたようで適当にビールで流し込んでいた。これも旅の醍醐味と諦めるしかなかった。ビールはたくさん飲んだ。そのうち舌も慣れてきて、それなりにたくさん食べた。オーナー夫婦は色々と興味があるようで、ハズバンドはどんな仕事をしているのかとか、あなたは何をしているのかとか聞いてきた。湊川は正直に答えていた。ご丁寧に隣国の「Confidential」と書かれていた書類の内容についても話しているようだった。まぁ、ここで話す分には無害ではあろうと思われたが、相手も一応、オセアニアの牧場オーナーなので少し心配になり、有情が射撃の話を始めた。湊川は有情の射撃の腕を褒めちぎったが、アーチェリーは自分の方が上手いといい、昼間に何が起こったかも説明していた。


 ダイニングからの帰り道、一つだけ大きな電灯が付いており、その周りには無数の虫が飛んでいた。その日はフクロウを見ることはなかった。


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