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12 弾痕(だんこん)

 GWも終わり5月後半から6月にかけては休祭日のない日が続く、有情は有給休暇がたくさん余っていたし、湊川はGWに出勤していたため代休が取れるというので合わせて休みをとり、どこか銃の撃てるところに行こうと有情は考えていた。ただ、湊川の企画が6月に迫っており3日しか連続して休みが取れないとのことだった。


 どこに行こうか迷ったが、関係の冷え込む韓国にはあまり行きたくはなかったし、タイに行くにしては時間が短すぎる。かといってフィリピンは治安が悪そうだ。それでやや値段ははるがグァムに行くことにした。自分の銃を持って行こうかとも思ったが、滞在期間が短い上、輸出入の許可が必要で、また入国審査で時間がかかっても嫌なので、N国の銃器免許と日本の許可証に英訳を添付したものだけを持って行くことにした。


 グァムは、以前、日本人観光客が一番近くにあるアメリカとして多く訪れていたが、最近はそれも下火になり日本人が少ないということも選択の基準になった。周りが日本人だらけなら景色は違ったとしても旅趣に欠く。5月15日に関空を発ち5月17日に帰ってくる短い旅であった。


 千里中央で待ち合わせをし、北急に乗り、新大阪で乗り換え、はるか、に乗った。連休明けで車内は空いていた。空港について軽く蕎麦を食べた。午前便であったので、向こうについてから少しはゆっくりする時間もあるだろう。やがて搭乗時間となり二人は機内の人となった。


 有情は妻子のいるN国に帰る時はビジネスクラスを利用するが、短時間のフライトであったのでエコノミーに乗っていた。3人がけの席に2人だったのでさほど窮屈さも感じず、飛行機自体も混んではいなかった。色々予定を話しているうちに二人とも寝てしまい気づくとグァムのアントニオ・B・ウォン・パット国際空港に着く直前だった。


 グァムに到着し無事通関も済ませホテルに着いたが、もっとも困ったことは射撃場選びであった。グァムには観光客向けの室内射撃場が山ほどあり、また、どの射撃場がスキートレンジやトラップレンジを備えているかが非常にわかりづらかった。コンセルジュに聞いてみたが、観光客向けの射撃場はよく知っていたものの、本格的な射撃場はあまり知らないようだった。たまたま、通りかかったフロントマンが自分も射撃をするということで、あまり観光客のいない射撃場を教えてくれた。そこで銃をレンタルできるかどうかがよくわからなかったが、さほどホテルから遠くはないので翌日の午前中そこに行ってみることにした。


 翌日、射撃場に着き受付で聞いてみたところライセンスは持っているかと聞かれ、N国のライセンスと日本の許可はあると言って見せたら、あまり細かいことを言われずに銃は貸してくれた。レミントンの自動銃だった。さすがは銃大国のアメリカだなと感心した。ただ、クレー射撃をするにはプーラーとして誰かを行かせなければならないからと言われて少し待たされた。クレー射撃場にはトラップ2面とスキート1面があり、今親子がトラップ射撃をしているからそれが終わるまでプーラーが空かないとのことであった。その間有情は基本的な銃の安全な取り扱いについて説明したり、射撃姿勢について説明をしたりした。取り扱いに関してはともかく姿勢については、フライフィッシングの時よりは動作自体が簡単なのでわからないでもなかったが、上手ではなかった。しばらくするとレンジが使えるようになったと連絡があり、二人は案内された方に歩いていくとちょうどトラップ射撃をしていたという親子とすれ違った。Hi thereなどと挨拶を交わし、スキートをするのかと珍しそうに見られた。アメリカではアメリカントラップという放出機が一台のトラップ射撃が盛んで、スキートをする人はさほど多くないらしい。ちなみにオリンピックトラップは放出機が射座と同じ5つある。トラップ射撃の放出機はいずれも15mほど先にあり、そこから遠方に向かって飛んでいくクレーピジョンを狙う。有情は乱視があり、歳とともにそれがひどくなってきたので、射座とクレーピジョンの近いスキート射撃に転向していた。ただ、距離が近い分素早い対応が必要になり、どちらかといえばトラップ射撃の方が初心者にはとっつき易くはあった。


 有情は湊川に耳栓をつけさせプーラーに許可をもらいセンターポール真正面の4番射座からちょうどポールの後ろ崖の上方にある岩を撃たせてみた。当たらないまでもそれほど大きく外すようなことはなかった。その後、二人は1番射座に入った。スキート射撃は基本的に国際ルールで行われるようで、1番射座では後方のプールから放出されるクレーピジョンをまず撃ち、次に2発の弾をこめてプールとマーク両方から放出される2個のクレーピジョンを撃つのであるが、湊川には2つ撃つのは絶対無理と思われたため、プーラーに頼んで2度目のダブルはそれぞれ声をかけてから放出してもらうようにしてもらった。タイミングも掛け声と同時に発射するよう頼んでおいた。


「先生が先にやってよ」


と湊川が言ったが


「やり始めると教えるのが疎かになる」


と湊川に先にさせることにした。


「どうせ教えるの下手やから一緒やん」


と言われた。


 湊川を射座にたたせセンターポールを腕で指して


「どの射座でもあの棒に45度くらいで肩幅かちょっと広いくらいのスタンスで。Pull言うたらクレー飛び出すから。まぁ、百聞は一見に如かずや」


そう言って射座を離れた。


あらかじめ弾は一発しか入れなくて良いとは教えてあった。湊川は言われた通りチャンバー(薬室)に弾を一発だけ入れ構えた瞬間、ポロッと弾が転げ落ちてきた。


「ああ、忘れてた」


と言って有情は駆け寄り弾を拾って再度チャンバーに入れ、装填ボタンを押した。チャンバーが閉鎖された。


「これで引き金引いたら弾出るから」


「もうええ加減やねんから」


そう言われ有情はまた射座を離れた。


「Pull」


湊川が声をかけると同時にプールからクレーピジョンが放出された。

1番射座では位置の関係から放出される瞬間が見えない。湊川がクレーピジョンを見つけたのはクレーピジョンが床面に当たって砕ける直前であった。


「Pull」


一旦脱包してから再装填し、湊川は声をかけた。


もう一度プールからクレーピジョンが放出されたが、また発砲することができなかった。


「Pull」


今度は前にあるマークからクレーピジョンが放出された。湊川は撃ったもののクレーピジョンの随分後ろを撃っていた。


「最初はクレーが飛び出すのが見えへんから仕方ないかな」


と言った。


加えて動く的を撃つのだから、その飛翔体自体を狙って撃っても当たらないから、見越しを取って先を撃たないといけないと言った。


「初めからそう言うてよ」


とぼやきながら湊川は2番射座に入った。


「ここもさっきと同じように出るから」


と有情は言い射座を離れた。

ここでも湊川は全弾発砲はしたものの全部外した。


「初めてやからしゃあない」


と有情に言われ3番射座に入った。


「ここも左、左、右から3つやで」


と言われたが当たる気がしなかった。


「プル」、バンッ、「ハァ」


「プル」、バンッ、「ハァ」



「プル」、バンッ、「Shit!」


に変わった。


4番射座に移ろうとしたとき、見かねたプーラーが声をかけてきた。


「Hey! Guys! 一度君が撃ってみて」


と有情に言った。


4番射座はプールとマークの各一枚ずつである。


「普通にルールに従って飛ばしてください」


有情はそう言って4番射座に入った。弾を一つこめてストックエンドを臍の横あたりにつけて


「Pull」


と言った。


1秒半くらい後にプールから放出されたクレーピジョンは銃の発射音の後にセンターポールの少し手前で砕け散った。再度装弾してから上体を少し右に向け


「Pull」


というと、今度はマークから放出されたクレーピジョンが発射音の後に先ほどと対照的な位置で破壊された。


そのまま5番射座に移り、弾を一つこめて


「Pull」


と言うと今度はマークからすぐに出てきたクレーピジョンが先ほどよりやや右側で割れた。


次に有情は弾倉に一発、チャンバーに一発入れ


「Pull」


と言った。


3秒ほどたってマークとプールの両方からクレーピジョンが出てきた。マークから出てきた方をすぐに、少しためてからプールから出てきた方のクレーピジョンを撃った。両方ともきれいに砕け散った。


プーラーがヒューッと言って


「君はこの女の子のトレーナーか?」


と聞いてきた。


「いや、私はただの射手でトレーナーではない。どちらかといえば人にものを教えるのが下手だ」


と正直に答えた。


「余分な金はあるか?」


とプーラーに聞かれ


「大丈夫だ」


と答えた。


プーラーはスマホを取り出し、どこかに電話をしているようだった。そして

「タバコでも吸って待っててくれ」と言って自分もポケットからタバコを取り出し吸い始めた。有情はだいぶ前に紙巻きタバコはやめており、日本ではアイコスを吸っていたが、グァムにアイコスがあるかどうかわからなかったので持参したベイプを吸った。湊川も日本から持ってきたアイコスを加熱し始めた。タバコを吸い終わり、日本でも銃は買えるのかとか、どれくらい射撃をしているのかとか色々聞かれ、それに少し奇妙な訛りの英語で答えていると、湊川がこの人はフライフィッシングもしていてとても上手だが教えるのがものすごく下手だと流暢な英語で言ってきた。Kind of shit. という語句も聞き取れた。さすが輸入食品課だけのことはある。


15分ほどするとウィンチェスターの上下二連銃を持った大男が現れ、銃と25発の弾を有情に渡した。プーラーはこの人に100ドル渡してくれと言った。クレー射撃のコーチだとのことだった。


「もう一回1番射座から始めよう」


とビッグ・ジョーと呼ばれるその大男は言った。


この時の会話で知ったのでるが、プーラーの名前はケインという名前だった。

ケインは湊川が撃つ時は一枚ずつ、有情が撃つ時は国際ルールに沿ってクレーピジョンを放出した。ビッグ・ジョーはコーチだけのことはあって教えるのが上手だった。2番射座ですでに湊川は初めてクレーピジョンを砕いていた。

もう1ラウンドする頃には湊川は半分以上のクレーピジョンを砕くようになっていた。有情はいつものごとく22〜23枚くらいだった。湊川は満足したようでビッグ・ジョーとケインにお礼を言っていた。有情もケインに20ドルチップを渡し、礼を言ってクレーフィールドを離れた。


 一旦、射撃場を出て近くにあるマクドナルドで軽い昼食を取った。湊川は有情になぜそんなに教えるのが下手なのかとくどくど言ってはいたものの、射撃は気に入ったようで、午後からもここに滞在してライフル銃や拳銃も撃ちたいと言い出した。有情のN国のライセンスではライフル銃は使えるものの拳銃はカバーしていなかった。拳銃ももちろん使えるが、落としたりしたら自分の方に向きそうであまり好きではなかった。まぁ、またコーチにでも教えて貰えばいいかと射撃場に戻った。受付にはビッグ・ジョーがいてジャパニーズシューターがまた戻ってきたといった。


 有情は元々エアライフルの選手だった。大学時代にクレー射撃に転向している。どちらかといえばライフル射撃の方が得意ではあった。ビッグ・ジョーに湊川がライフル銃や拳銃を撃ちたいと言っている旨を伝えると楽しんでくれと笑っていた。ライフル銃を選ぶ段になって湊川はこんなのが撃ってみたいとAR-15を選んだ。さすがに民生版であるためにフルオートにはできない構造になってはいたが、どうみても突撃銃にしか見えなかった。.223の実包五十発を買い、有情は、.338ラプアマグナムを五十発、買った。湊川に先に行って射座を確保するようにいい、自分はM24狙撃銃を選んだ。有情は300m、湊川のために100mはなれたところに標的をセットしライフル射撃を始めた。スコープに顔を近づけすぎるなと重々言って聞かせた。あまり顔をスコープに近づけすぎると反動で顔を傷つけてしまうことがあるからだ。有情はなぜか2〜3発撃って射撃をやめてしまった。座ってベンチレストに乗せての射撃だったので、湊川は二十五発くらい撃って少し標的の黒い部分に着弾が集中するようになっていた。有情は寝転んで撃っていた。やがて標的の確認の時間となり、二人は機関部を開放し標的を確認しに行った。有情は全弾10点圏内に穴ひとつで当てていた。


しかし


「うーん」


と首を捻りながら新しい標的2枚と追加に実包を買ってきて、今度は湊川と同じ100mの位置にセットした。


湊川は100mの位置に標的をセットし、全弾消費してから管理人のいるボックスから双眼鏡を借りてきていた。有情はまだスコープの倍率や微調整をしていたが、そのうち慎重に一枚目の標的に向かって二発発射した。双眼鏡で確認すると中心部に穴がひとつしか空いていなかった。


「真ん中に一個だけ当たっているよ」と湊川は雨情に告げたが、気にしていない様子だった。


そして残りの七十発以上を標的に打ち込んでいった。途中で何度か湊川は着弾を双眼鏡で確認していたが、バラバラに当たっているように見えた。再度標的確認の時間になり二人は標的を回収した。湊川はほとんど黒い部分に当たっていると自慢そうにしていた。そして有情に標的紙を見せるように言った。


「何これ!」


「何事にも遊びは必要やろ」


有情はそう言って標的紙を湊川に渡した。


ライフル射撃場から近くにあるラウンジに戻るとビッグ・ジョーやケイン、そして何人かがおり、有情に


「なぜわざわざラプアを使って大量にあんな近射をしたのか?」


と不思議そうに聞いてきた。


湊川は先ほど回収した標的紙をそこにいる人たちに見せた。いっとき全員が静かになった。そこには輪郭こそまんまるではあるものの吊り目の女性がにっこり笑っている絵が弾痕で描かれていた。右目の下の黒子の位置には比率としては大きすぎる穴が空いていた。


ビッグ・ジョーがカウンターに入り、奥の冷蔵庫からビールを2本持ってきた。お酒が入ったので拳銃射撃はお流れとなった。


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