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11 知己(ちき)

 ゴールデンウィーク(以下GW)は湊川がGW商戦で駆り出されるとのことで、仕事帰りに1日だけ泊まりに来ただけだった。湊川も一度銃を撃ってみたいとのことだったが、日本の法律上それはできない。GWが終わってから、休みを取って、どこか海外に行って撃ってみようということになった。


 有情は湊川がGW中は忙しいということを事前に聞いていたため、友人と久しぶりに高知県にある山渓に入る約束をしていた。少し長距離ドライブになるが、旧友に会うのも楽しみであった。一泊で行くのでシャーロットは警察犬学校に預けることになっていた。


 5月5日の昼前に家を出て、シャーロットを預け、吉野家で牛丼を食べてから茨木ICから名神高速に乗った。先に食事をしたのはこの時期の高速SAは混んでいる可能性が高いからである。宝塚ICを超えたあたりで車の流れが少し悪くなったものの、さしたる渋滞もなさそうであった。明石海峡大橋を渡るルート、瀬戸大橋を渡るルート、そしてしまなみ海道を走るルートの3つがあったが、遠回りになる明石海峡大橋と混みそうなしまなみ海道は避け、瀬戸大橋を渡ることにした。倉敷から瀬戸大橋を渡り、坂出から西に向かい、いよ西条で降り、国道11号線を少し西に進み、国道194号線を南下する道のりである。宿泊施設はあったが、夕食は出ないのでコンビニで食べ物とお酒を買って現地集合する予定であった。西条市内で買いものを済ませ、国道194号線を走っていると後ろから白のポルシェ911が迫ってきた。有情はウインカーを左に出しポルシェを先行させようとした。追い抜かれる瞬間、運転手と目があった。ポルシェが少し先の路側帯が広くなったところに停車し、有情もそのすぐ後ろに車を止めた。ニコニコ笑いながら男が降りてきたので、有情も車から降りた。お互いに車が変わっていたために、それを見ただけではわからなかったが、明日一緒に釣りをする河本だった。


「先生、久しぶり。大阪ナンバーだったのでもしかしたらと思ったらやっぱりそうでしたよ」


河本はそう言って声をかけてきた。


すぐにもう一人、若い男も河本も車から降りてきた。見知った顔だった。


「お久しぶりです。先生」その男もそういった。以前勤めていた病院の放射線技士の三好だった。


「お久しぶりです。先生、三好くん。」


「こんな道端で立ち話もなんですから、向こうについてからお話ししましょう」


河本にせかされ3人は再び車に乗り釣り場近くのロッジに向かった。途中まではなんとかポルシェについて行ったが、スポーツカーについていけるはずもなく距離はだんだん離れていった。


河本はもともと脳神経外科医で有情よりだいぶ年上であった、すでに現役は引退しており、今はリハビリ専門の療養型病棟の医師をしていた。有情と同じ職場にいた時にフライフィッシングに興味を示し、最初は有情から情報を仕入れたり、練習に行ったりもしていたが、教えるのが下手な有情に習うよりも自らフライフィッシング教室に参加し上達したフライフィッシャーであった。先日、電話した時に三好もフライフィッシングに興味を持っていると聞いていたので、せっかくの機会と連れてきたのだろう。有情が7〜8ftの短めのリーダーとティペットを使うのに対して、河本は10ft以上の極端に長いリーダーシステムを使う。有情は、はじめ絡むし、パワーが伝わりにくいのであまりお勧めはしないといったが、これだけは譲らなかった。三好は元々ルアーアングラーでどの程度の腕前かは全くわからなかった。


有情が到着したとき河本はすでに荷解きを始めていた。日暮れまでまだ少し時間があるので少しだけ投げてみようとのことだった。河本の上達ぶりと三好の腕も見てみたかったのでちょうど良い機会でもあった。


「あれ、今日はバンブーじゃないんですね」


と問われ


「こないだ買ったんですが、先日行ったマス釣り場では魚が大きすぎてロッドの真価を確認できなかったんで」


と初めてマスを釣った湊川の嬉しそうな顔を思い出しながら有情は答えた。


 ロッジの下はすぐに清流になってはいたが、かなり急な傾斜である。傾斜に作られたつづら折れになった舗道を降りていくとすぐ前に深場がある。そこには大きめの魚が何匹かついてはいたが、狙うためには対岸に渡らねばならず、その日は時間もないので目の前の深場は無視して遡上した。少し登ると良さそうな渓相をした場所があったので、三好に振ってもらうことになった。河本もまず三好に釣らせたいようだった。何度かフォールスキャストをして振り込んだが、最後の止めが甘くリーダーからベチャッと落ちる感じでフライが着水した。毛鉤に現物感を出すためにはまずフライを一番先に着水させなければならない。それからティペット、リーダー、ラインの順にふんわりと落ちていくのが望ましい。そのためには着水寸前にラインを軽く止めて先端のループが伸び切る前に軽くラインを押さえる必要があった。それができていないと河本は丁寧に三好に説明していた。有情にはこれがなかなかできない。できないというのはライン操作自体のことがではなく、うまく人に説明することである。有情が指導すると「右手を見ておいて、リーダーがこうなったらこの右手の人差し指をこう」などと右手を見ていながらリーダーが伸びていく様を見られるはずもないのに平気で言うのであった。3〜4か所場を変えてやっていると良い位置にフライが着水した。流れに沿ってフライが流れていき層流の脇にできた乱流の直近を通過する瞬間水面がパシャっと割れ三好の竿が曲がった。17cmほどのアマゴだった。3人は歓声を上げて喜んだ。


 少し上り


「あの先の岩陰どうだろう?」と河本が言った。


もう少し寄れるのでないかと思ったが、そのまま狙うようであった。ロングリーダーでは何度もフォールスキャストするとよくリーダーが絡む。河本はリーダーだけ上流に放り、竿先を震わせてラインを少しスラックさせてからロールキャストをし、フライが着水する少し前に素早くバックキャストに移り、ラインが十分伸びてからフォワードキャストに移った。綺麗なループが弧を描いてするすると出ていき、まさにその岩陰に吸い込まれるように飛んでいき、着水するとほぼ同時に水面が割れた。先程の三好のアマゴとほぼ同サイズの綺麗な魚体が長いリーダーの先で抵抗していたが、すぐに浅瀬に引き寄せられ、手際良くリリースされた。有情も左岸の護岸付近に少し深くなったような場所を見つけ、姿勢を低くして河本よりずっと接近してから深くなる少し上流にフライを落とし、これまた似たようなサイズのアマゴを釣った。全員がキャッチしたので、その日はゆっくり歩いてロッジに戻っていった。その夜はコンビニで買った食料を囲んで昔話から今の生活まで話は尽きなかった。


 翌日は朝早くから3人で午前中は上流部に入り、それぞれそれなりの釣果をあげ、午後からは今度は下流部に行きまたそれぞれが楽しんだ。緑の中の休日は終わり、再会を約束して帰路についた。


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