第六話 彼女のイチオシ
相楽さんの部屋は、まさに俺がイメージしていた『女の子の部屋』という感じだった。部屋は隅々まで整頓され、机の上にはたくさんのメイク道具が置かれていた。そして、何より、良い匂いがする。やっぱり俺は変態なのだろうか。いや、正常な反応だろう。
「早速、メイド服なんだけど」
相楽さんは2着のハンガーにかかったメイド服を俺たちに見せてくれた。
「これは……」
恭介も口にこそ出さなかったが、俺と同じ思いだったろう。一つはなかなか綺麗な状態だったので、そのまま使えそうだ。問題はもう一着の方で。スカートの端はところどころほつれ、フリルは取れかかっているものが何個もあった。また、何個かシミもあり、少し手がかかりそうだ。
「やっぱりその反応になるよね…。私も昨日届いてすぐ一個だけ直してみたんだけど、なかなか時間がかかっちゃって。それで、二人もお手伝いしてくれたらなって思って。本当は利奈に頼もうと思ってたんだけどね。いいかな?」
よく見ると、フリルの一つが白い色で縫い繋がれていた。
「俺たちでできる範囲であれば喜んで」
「力になれるかはわかんないけど……」
「ありがとう、二人とも。それじゃあ、なにか飲み物持ってくるね。何が良い?」
「じゃあコーヒー。圭もそれで良いよな」
「ああ」
「何か入れる?」
「二個ともブラックで」
「すごーい。私はお砂糖いっぱい入れないと飲めないんだよね。」
俺たちはウチで飲むときもいつもブラックコーヒーだった。それより、お砂糖いっぱい入れないと飲めない相楽さん、とてもかわいいです。はい。
相楽さんが1階にコーヒーを入れにいってすぐ、恭介のスマホが鳴った。
「ごめん、ちょっと電話出るわ」
「どうぞどうぞ」
「もしもし、父さん?」
電話は徹さんからだった。少し話込んだ後、恭介の顔が曇った。
「はい、分かった。じゃあ戻るわ。」
恭介は電話を切ると同時に申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん、圭。ちょっと急用ができちゃって、帰らないといけなくなった。俺。相楽さんに伝えて来るわ。あとは頼んだ。」
「分かった。気をつけてな。」
恭介は荷物をまとめて、駆け足で階段を下っていった。恭介が帰るということは、相楽さんと二人きりということである。気になっている女子と家で2人きり。何かが起きそうだが、小心者の俺には何かを起こすことはできないだろう。
恭介が部屋を出てから2,3分が経って相楽さんが部屋に戻ってきた。
「恭介君帰っちゃったけど、圭君は時間大丈夫?」
「うん、俺は特に用事ないから」
良かったと笑いながら相楽さんがコーヒーを手渡してくれる。かわいいマグカップには温かいコーヒーが入っている。俺たちは一口コーヒーを飲んでから、本題に入った。
「圭君は裁縫とか得意?」
「まぁ、人並みには。」
昔から手先は器用だったのである程度のことはできる。相楽さんが、白い糸と針、それから糸切りバサミを用意してくれた。
直さなきゃいけないフリルが10個近くあるので、まずはそれから取り掛かる二手に分かれて反対側のフリルをそれぞれ担当した。
「よし、終わった」
一つ目を縫い終わる。久しぶりに縫い物なんてしたが、まあまあな出来であろう。それに対して相楽さんはまだ手こずっているようで。
「えっ、ちょっと圭君早くない?しかもめちゃくちゃ綺麗だし」
相楽さんが俺が縫ったものと自分が縫っているものを見比べる。
「圭君って手先器用なんだね。そういう人憧れるんだよね、私、昔からずっと不器用で。」
少し意外だった。いつも高い女子力を見せてくれる相楽さんだったが、苦手なこともあったようだ。まあ、そういうところも可愛いのだが。
二人で黙々と縫い続け、俺は自分の担当の五つを終えた。同時に相楽さんも2個目を縫い終えた。
「相楽さん、俺自分の分終わったから手伝えるよ」
「え、ほんと!ありがとう!」
相楽さんがニコニコでお礼を言ってくれる。俺にとっては一番のご褒美である。無理やり俺を実行委員にした恭介に感謝しなければならない。
二人で最後の一つを縫い進める。隣あった二つを別々で縫っているので、必然的に距離が近くなる。相楽さんも段々と慣れてきたのだろうか。縫うスピードが先程よりも早くなっている気がする。対して俺は、近くでの作業にドキドキして、あまり上手く針が動かせない。結局、最後の一つはほぼ同時に縫い終わった。
「ふぅー、やっと終わった!」
相楽さんが残っていたコーヒーを飲み干す。
まだまだ直さなきゃいけないところはたくさんあるが、それはまた今度ということにして。
もう帰ろうかという時間になっていた。その時相楽さんがある曲を流し始めた。
「圭君、この曲聴いてみて」
すぐに何の曲か分かった。俺のオリ曲である。一番最近出したやつ。そこまで再生数は伸びていないのだが、さすが相楽さん。俺のファンだというだけはある。
「圭君?どうこの曲?」
感想を求められているのだろうが、自分の曲への感想というものはなかなか難しい。
「うーん、曲調は明るいけど、どこか青春の寂しさがある感じというか……」
「圭君、分かってるじゃん」
相楽さんの顔に笑みが浮かぶ。
「これって例の『ケイ』の曲?」
一応、聞いておく。まあ、相楽さんは俺がケイであるとは微塵も思っていないだろうが。
「そうだよ!覚えててくれたんだ」
相楽さんがまた嬉しそうに笑う。彼女は笑顔が一番かわいく見える。もちろんいつもかわいいのだが、笑顔が一番だ。
「これが私のイチオシの曲!この曲が一番好きなんだよね」
俺も、と言いかけて口を紡ぐ。危ない。まだ彼女にバレるわけにはいかない。彼女の中のケイのイメージが壊れることは避けたかった。
結局、その後1時間ほど、相楽さんはケイのことを話し続け、俺にはもどかしい時間が続いた。
本日2本目の投稿です!
少し遅くなってしまい申し訳ありません。
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