第五十一話 デートは完全ノープラン
「ふぅ、思ったより打てたな〜」
唖然としている俺を見て、澪がクスッと笑う。
「ほら、次は圭の番だよ」
「いや、俺は……」
「バッティングセンターに来て一回もバット振らないで帰るの?」
おっしゃる通りです。
澪の圧に押されて、俺は恐る恐るバッターボックスに入る。
「お金入れて、スタートってとこ押したら始まるよ」
俺は100キロのブースに入ってバットを持つ。
「じゃあ、やるね」
「うん、頑張って」
マシンから一球目が放たれる。
――えっ? 速くね?
実際に自分に向かってくるボールは、さっきの何倍も速く感じられた。さっきよりも球速自体は落ちてるはずなのに。
「ほら、腰が引けてるよ!」
澪に言われ、少しだけ足を前に出す。
二球目、三球目とバットが空を切る。
「まだまだ大丈夫!」
ずっと声をかけてくれる澪。どうにか期待に応えたいが……
四球目。これまでよりも少しボールが浮いてきた。
――チッ、ゴン
ボールの下をバット擦ったようだ。真上に飛んだボールは俺のヘルメットに直撃した。
「当たった……」
少し心配そうに見ている澪を横目に、俺は初の手応えを喜んでいた。
よし、次も……
ガッチガチに力んだ俺のスイングは、全く高さが合わなかった。
その後もバットに当たりはするものの、なかなか快音は響かず、前に飛んだのも数えるほどだった。
「はぁ、疲れたぁ」
実際にやってみると、120キロを軽々と打ち返した澪が怪物に見えてきた……
「初めてにしては、ちゃんと打ててたよ!」
「あっ、ありがとう。ていうか、澪、上手すぎない?」
「あぁ、私、ソフトボールやってたんだよね」
「あぁ、そうなんだ」
澪が経験者だと知って、少し安心する。でも、ソフトボールと野球のボールって結構サイズ違うよな……
一通り汗を流した俺たちは、また街へと繰り出した。
「やっぱり暑いね〜」
特に目的もなくブラブラと歩く俺たちに、容赦なく陽の光が降り注ぐ。
「とりあえずどっか入ろうか」
「あっ、あそこ!」
澪の視線の先には、文化祭の打ち上げで行ったカラオケがあった。
涼むにはちょうどいいか。
俺たちがカラオケに入ると、冷たい風が俺たちを迎えてくれた。
個室に入ると、空調はさらに強く感じられ、少し寒いくらいだった。
「はぁ、極楽、極楽」
「本当に涼しいね」
「はぁ、圭、なんか歌っといて〜」
俺はBGMですか?
澪はそう言って、ドリンクバーから持ってきた冷えた炭酸飲料を口に含む。
「じゃあ、歌わせてもらいますか」
「よろしく!」
やはり歌うのは楽しい。俺は澪のリクエストにも応えながら、3曲一気に歌い切った。
「ふぅ、じゃあそろそろ交代」
「えー、私も歌うの?」
「俺の喉を潰す気ですか……?」
「うーん、しょうがないなぁ」
澪が気だるそうにマイクを手に取る。澪の歌を聞くのもあの打ち上げ以来だ。俺は言うまでもなく何回も歌わさせれてきたが……
「なんか、歌い手さんのあとに歌うの緊張するんですけど〜」
「また、そういうこと言って」
澪も歌は上手い方だ。というか、俺の周りみんな上手いよな……
あの打ち上げの歌唱力のレベルはとてつもなく高かった。その中でも俺は澪の歌が好きだった。
「じゃあ、これにしよ!」
歌い始めた澪の声が俺の耳に響く。めちゃくちゃ心地良い。
高音も低音も、どちらも綺麗だった。もっと自信を持ったらいいのに。
「ねぇ、どうだった?」
「うん、めちゃくちゃ良かったよ!」
「ホント! やったあ!」
手放しで喜んでいる澪。やっぱ、かわいすぎるだろ。
「なんか、食べたいなぁ」
いつも通り、人一倍の食欲は健在のようで、気がつくとテーブルの上にはフードがたくさん並んでいた。
「うん! 美味しい!」
美味しそうに頬張る澪。驚くほどのスピードで消費されていくフード。
「ねぇ、この後どうする?」
「うーん、別に行きたいとこもないしなぁ。もうちょいここに居ようか」
俺に異論はない。わざわざ灼熱地獄に飛び込んでいくのも気が引けた。
「本当にいいの? これじゃいつもとあんまり変わらないけど」
「これがいいの! 圭と一緒に入れるだけで私は満足だよ?」
時折半端ない破壊力を発揮してくる澪に、いつも通り対応できない俺。
「よし、じゃあもうちょっと歌おうかな」
「いよ! 待ってました!」
なんか澪に上手く乗せられた気もするが、まぁ、楽しいからいいか。
約三時間、二人で代わる代わる、時には一緒にマイクを握り、気がつくと14時を回っていた。
「そろそろ外出る?」
「そうだね。行こうか」
さすがにこのままデートを終わるわけにはいかない。最後に何かインパクト残したいよなぁ。
俺たちが楽園を出ると、やはり真夏の暑さが俺たちを包み込んだ。
「ぐぇ、暑い」
何とか日陰を探しながら、俺たちはまた、繁華街を歩いていた。
「うーん、どこがいいかな……」
こういう時は男子から提案した方がいいんだろうが、外出IQが低すぎる俺には、あまりにも難しすぎる課題だった。
「別に私はどこでもいいよ? 圭が行きたいところでいいんだから」
澪はこう言ってくれるいるが、せっかくなら楽しんで欲しい。
「あっ、そしたら」
俺は澪の手を引いて更に奥の方に進んでいく。
「圭、どこに向かってるの?」
「それは、着いてからのお楽しみ」
喜んでもらえるかは分からないが、とりあえず向かってみよう。
行き当たりばったりすぎる俺たちのデート。これからどうなるのか……?




