表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/51

第五十話 澪へのご褒美は......

「じゃあ――」


「じゃあ……?」


「明日、私とデートしてね!」


「えっ、そんなんでいいの?」


 澪から発せられたお願いは、俺が想像していたよりも何倍もかわいいものだった。


「そんなんって何よ!」


 澪は口では怒っていたが、その顔はいつも通りの意地悪な笑みを浮かべていた。


「ふーん、良かったね、富樫。出来た彼女で」


 茶化してくる利奈さんと、ただただニコニコしている恭介。こんな恥ずかしいのも久しぶりだなぁ。


「それで、私のお願いは聞いてくれるんですか?」


「まぁ、それが澪にとってご褒美になるなら……」


 俺の答えに、澪が小さい子供のように喜ぶ。


「じゃあ、決まり! 明日迎えに来てね!」


「あぁ、うん」


 俺の返事も待たず、澪はさっさと走っていってしまった。


「ねぇ、澪! じゃあ富樫、私も行くね!」


「うん、今日はありがとう」


 澪を追いかけて利奈さんも駆けて行く。


「じゃ、明日頑張れよ」


 恭介が俺の肩を叩いて北原家に戻っていく。


 なんか面倒くさいことになったな……



「うーん、どうしようか……」


 俺は久しぶりに自分のクローゼットと睨めっこしていた。


「そういえば、二人だけで外出するの久しぶりだなぁ」


 今振り返ると、最近のデートは利奈さんや恭介が一緒だった。お泊まりはもちろん二人きりになれたけど、もっと外出時も二人きりの時間が作れれば良かったのだが……


「よし、これで行くか」


 最近、少しファッションに興味が出てきたので、ちょっとはクローゼットもカラフルになってきたが、結局シンプルな色に逃げてしまう。


「まぁ、いいよな」


 二人で歩いていると、澪はもちろん華があるのだが、そのせいで俺が空気みたいになってしまう。


 もっとかっこいい顔で生まれてたらなぁ――


 叶わぬ願いをふっと思いながら、俺は悠々と家を出た。



「おはようございまーす」


「あら、おはよう。澪ー! 圭君来たわよ!」


 どうやら澪はまだ準備が終わってないようだ。さくらさんが声をかけても返事はなかった。正確にはドタドタとした物音だけが響いてきた。


「圭君、澪、まだかかりそうだから、上がってて」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 さぁ、今日はどこに行こうか。


 色々考えてはみたが、どれもしっくりこない。


 二人きりのデートはほぼ初めてと言っていい。これまでデートプランなんてものは考えたこともなかった。澪なら、別にどこでも喜んでくれるんだろうけど、せっかく一日あるんだったら楽しんでもらいたいよなぁ。



「圭、お待たせ」


 俺が頭をフル回転させていると、準備を終えた澪が階段を駆け降りてきた。


「おはよう、澪」


 うん、いつも通りかわいいです。


 やはり俺の彼女には勿体無いくらい、本当にかわいい。かわいすぎる。


「ねぇ、圭、どう? かわいい?」


 おまけに上目遣いでこんなことを聞いてくるんだから、もう俺は失神しそうになりながら、何とか言葉を絞り出す。


「うん、かわいい、めちゃくちゃ」


「ホント? 良かった〜。今日気合入れて準備したから!」


 もう、何もかもが眩しい。こんなかわいい澪を他の人に見せるのが怖い。


 俺が一人で澪かわいいパニックに陥っていると、ちょうど時計は9時を回ったところだった。


「ほらほら、二人とも、イチャイチャするなら外でやって!」


「じゃあ、行こうか、圭」


「うん、じゃあさくらさん、いってきます」


「はい、澪をよろしくね。澪、わがまま言いすぎないのよ!」


「分かってるよー」


 澪に手を引っ張られながら相楽家を飛び出す。


「ねぇ、手繋ごうよ」


 そう言うと同時に、澪の手が俺の手に触れる。


 ガッチリ指を絡めた俺たちは、とりあえず駅に向かった。


「ねぇ、今日どこに行きたい?」


「うーん、あんま思い浮かばなかったんだよね。澪は?」


「私も。どこがいいかな〜」


 二人でワチャワチャと話しながら、駅前まで来た俺たち。


「ねぇ、あそこ行かない?」


 澪が指さしていたのは、バッティングセンターと書かれた看板だった。


「まぁ、いいけど……」


 口ではこう言ったものの、俺は当たり前に野球なんてできない。


「じゃあ、行こう! なんかスッキリしたい気分なんだ!」


 いつもより元気な澪に少し圧倒されながら、俺たちはバッティングセンターの中に入っていった。



「まぁ、これくらいかな」


 そう言いながら澪が選んだのは、120キロだった。


「そんな速くて大丈夫?」


 ヘルメットにより、いつもよりもさらに顔が小さく見える澪。その顔にはなぜか自信に満ち溢れていた。


「じゃあ、見てるね」


 俺がネットの外のベンチに座って見ていると、澪がプロさながらの構えを見せる。


 ――なんか打てそう。


 俺がぼんやりと考えていると、ピッチングマシンから一球目が飛び出した。


 はっ、速い。


 俺が想像しているよりも何倍も速い球が来た。


 でもそれより驚いたのは、澪がその球を見送ったことだった。


 こういうのって、とりあえず振るもんじゃないのか?


 初心者だから何が正解なのか全く分からない。でも、なんか次は打てそうに見える。


 澪はさっきよりも少しバットを短く持って、次の球を待った。


 来た――


 さっきと同じように、目で追うのが必死な速度の速球。


 それに合わせるように、澪の腰が回る。


 カキーーン!


 澪がバットを振り抜くと、気持ちのいい音が響いて、ボールが真正面へと飛んでいった。


「やったあ! 当たった!」


 嬉しそうに飛び跳ねる澪。


 いや、ちょっと怖いくらいなんですけど……


 その後も澪はヒット性の当たりを連発していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ