第四十八話 富樫家でお泊まり②
夕食とお風呂を終えた俺と澪は、俺のベッドの上でゴロゴロしていた。
「ねぇ、今日何時くらいに寝る?」
「別に澪に合わせるけど?」
「じゃあ、いっぱいお話ししようね!」
嬉しそうにくっついてくる澪。もうこんな近くに澪がいても、違和感がなくなってきた。
この慣れはいい物なのか……?
「明日何時から?」
明日も澪のための勉強会が予定されていた。無論、澪以外の三人は、すでに宿題を終えている。
「二人には、10時までに来てねって言ってあるけど……」
「ふーん。じゃあそれまでは二人きりだね」
「うん。そうだね」
澪が俺の顔をじっと見てくる。何を伝えようとしているんだ……?
「どうしたの?」
「……ううん、何にも」
澪はそう言って、再び読書に戻った。
「圭〜、そろそろ寝る?」
気がつくと、日付が変わっていた。
「そうだね。明日も勉強しなきゃいけないし」
「ぐっ……」
こないだの勉強が効いているのか、あからさまに嫌そうな顔をされてしまった。
「まぁ、宿題終われば解放されるでしょ? どうせやんなきゃいけないんだしさ」
「……じゃあ、なんかご褒美ちょうだいよ」
「うーん。何がいいの?」
ご褒美といっても、あまりにも高いものは買ってあげられない。まぁ、それは澪も分かっているだろうが。
「宿題終わったらお願いしてもいい?」
「まぁ、いいけど……」
「やったぁ! じゃあ明日も頑張ろ!」
やる気が出たなら何よりです……。
「ほら、圭、こっちにおいで!」
「『おいで』って、これ俺のベッドなんですけど?」
ひと足先に俺のベッドに横たわる澪に続いて、俺も彼女の隣に横になる。
「ほら、もっとくっついて!」
「はいはい」
最近お泊まりするときは、二人で密着した状態で寝ることが多かった。真夏だからさすがに暑苦しいが、かわいい彼女のご希望ならしょうがない。
「ねぇ、圭?」
「うん?」
「君って、えっちなことには興味がないのかい?」
――へ?
「どうしたの急に?」
「いや、なんかさ。男子高校生ならそういうことも興味あるのかなって」
もちろん、興味はある。
「うーん。まぁ、ね。澪は?」
俺が質問し返すと、澪が一気に顔を赤くする。
「……興味は、あるよ。」
「ふ〜ん」
「何よ、その反応!」
澪は俺の枕をギュッと握りながら顔を隠す。相当恥ずかしかったんだろう。
「だからさ。もし、そういうことしたいなら……」
何となく澪の言わんとしていることは分かる。ただ、もちろん俺はこういう系の経験は全く無いし、澪も恐らく初めてなのだろう。
そう考えると、一歩踏み出すのが少し怖く感じられた。
こんな風にただ触れ合っていたり、ハグをしたり、軽いキスを交わしたり。それだけで俺の心は満たされていた。
「もうちょっと待ってくれる?」
これが俺の答えだった。恋人同士だとしても。いや、だからこそ、少し慎重になりたかった。
「うん。もちろん」
「ありがとう」
澪がまた恥ずかしそうに顔を隠す。彼女なりに勇気を出して話題にしてくれたのだろう。
俺たちはまだ高校一年生だ。焦る必要はない。
二人で一つずつステップを踏んでいけばいい。
「ねぇ、澪」
「ん?」
「俺、澪のこと好きだ」
「もう、また恥ずかしいこと言って……!」
澪には怒られてしまったが、俺の気持ちは伝わったようで、嬉しかった。
「ほら、さっさと寝るよ!」
「ほい。じゃあ、電気消すね」
「うん。……圭?」
「どした?」
「……私も好きだよ。おやすみ」
――かわいすぎるだろ……!
最後の澪の破壊力抜群の発言のせいで、俺の心はなかなか鎮まらなかった。
翌朝、重い瞼を開ける。
「んぁ? もう朝か……」
時刻は7時。もう少し寝ててもいいのだが、せっかくだし起きるか。
夏休みに入ってからも、俺の生活リズムはそこまで崩れていなかった。元々朝が強いのもあるが、澪たちとの予定があることが多く、嫌でも早く起きないといけないことが多かった。
「おっ、澪。おはよ。」
「……ぉあよぅ」
恐らく朝の挨拶をしてくれたのだろうが、まだ半分寝ているような澪の言葉は、はっきりとは聞き取れなかった。
「もう起きるの?」
「……ん。圭と一緒にぃ、朝ごはん、つくるぅ」
ふにゃふにゃした喋り方だったが、今回は言ったことがはっきりと分かった。
「朝ごはん? ホントに作るの?」
普段全く料理ができない澪の発言とは思えなかった。自分の家ならまだしも、他の人の家で、というのはなかなかハードルが高い気がする。
「……うーん。やっぱりつくってぇ!」
やはりまだ寝ぼけていたようだ。澪は再び眠りに落ちそうだった。
「分かった。じゃあ澪は朝の支度してて。俺は朝ごはん作っとくから」
何とかして澪を起こしながら、下に降りていく。
「あっ、おはよ。父さん、母さん」
ちょうど両親が起きてきたところだった。
「二人ともご飯食べる?」
「うーん、俺はコーヒーだけでいいかな。母さんは?」
「私も今日はコーヒーにするわ」
大人に夏休みなんてものはない。今日も変わらず仕事に出ていく二人に、朝ごはん代わりのコーヒーを淹れる。
「澪、朝はパン? ご飯?」
「うーん、パンにしようかな」
「おっけ。簡単でいい?」
「もちろん」
富樫家の食卓に父さん、母さん、澪が並んで座っている。
みんなが同じようにあくびをする。そんな三人が不思議に似た者に感じながら、朝ごはんの準備を進めた。




