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第四十七話 富樫家でお泊まり①

 夏休みも終わりに近づいてきたが、例年を超える猛暑がまだまだ続いていた。


 明日は2回目の4人での勉強会がある。だから今日の夜はゆっくり家族との時間を……と思っていたのだが――


「うーん、美味しい!」


 俺の前には、美味しそうに夕食を頬張る澪がいた。


「さぁ、澪ちゃん、どんどん食べてね!」


 ウッキウキで料理を勧める母さん。その様子と微笑ましく見ている父さん。そして、そんな三人に囲まれて小さくなっている俺。


 富樫家の食卓は、いつも以上にカオスを極めていた。


 なぜ、こんなことになっているのかというと。



「圭、おはよ!」


 いつも通り、俺の家に転がり込んできた澪。なのだが……


「どしたん? その荷物?」


 澪はパンパンに何かが詰まっているリュックを背負っていた。


「へ? 何って、今日は君の家に泊まるんだよ?」


「はぁ?」


 澪の口から発せられた突拍子もない言葉に、俺は思わず声をこぼした。


「えっ? だって、今日は父さんも母さんも夜は帰ってくるけど……」


「うん。知ってる」


「それじゃあ、お泊まりは無理じゃ……」


「あぁ、大丈夫だよ。もう真紀さんには許可もらってるから。もしかして聞いてなかった感じ?」


「うん、全く」


 母さんならやりかねない話だけど、せめて相談くらいはしてくれても……


「まあ、そういうことだから。一旦君の部屋に荷物置かせてもらうね!」


 そう言って、澪は大きなリュックを揺らしながら、階段を上がっていった。



 夏休み前から、母さんは澪にウチに泊まって欲しいとは言っていた。そのためにちょくちょく料理も(まだ料理と言えるか微妙なところではあるが)練習してはいた。


 それにしても急すぎるだろ……


 母さんと父さんも今日は18時くらいには帰ってくるそうだが、夕食の準備とかは誰がやるつもりなんでしょうかねぇ?


「とりあえず連絡しておくか……」


「今日何時くらいに帰ってくるの?」

母さん

「18時くらい。夕食お願いしてもいい?」

「いいけど、澪もいるけどどうすんの?」

母さん

「あ、言ってなかったね。まぁ、任せるよ。父さんには私から連絡しておくね」


 どこまでマイペースなんだこの人は……


 ていうか、こないだは自分が料理したいとか言ってなかったか?


 なのに『任せる』?


 ――まぁ、しょうがないかぁ。



「圭ー! 荷物解体し終わったから来ていいよー」


「一応俺の部屋なんだが……」


 俺も階段を上り、部屋の扉を開ける。なんかいつもの倍くらい物が見えるんですけど……?


「明日の勉強道具も持ってきたから、本当に重かったよぉ」


「本当に泊まるつもりなんだな……?」


「当たり前じゃん」


 まぁ、ここにきて嘘だとはならないだろうけど。


「ねぇ、こないだ上げた歌ってみた見たよ!」


 ちょうどこの前編集作業が終わった歌ってみたを投稿したところだった。いつもより視聴数の初速が良くて嬉しかったが、澪が聞いてくれたことの方が嬉しいかも……。


「どうだった?」


「うん、いつも通り上手だった。高音もすっごく気持ちよく出てて、めちゃくちゃ好き!」


 やはり、実際に聞ける感想は、目で追うだけのコメントよりも何倍も嬉しい。


「そう、なら良かった」


 完全に趣味で始めた歌い手活動も、そこそこフォロワーがついて、動画を上げると、ある程度の視聴数とコメントをもらえるようになった。


 だんだんと知名度が上がってくるにつれて、活動に対する本気度も増していく。


 それでも、自分の好きな人に想いを届けるために歌うのが一番楽しかった。


 これも全て澪がいてくれたからだ。


 俺が一人でテンションが上がっている間に、澪は俺のベッドでゴロゴロしていた。


「ほら、今日は何すんの?」


「うーん、何でもいいよ」


「じゃあ、勉強する?」


「すみませんでした。ゲームかなんかにしましょう」


 まだまだ、勉強は嫌いみたいですねぇ。まぁ、明日勉強会だし、今日くらいは遊んでもいいか。


 というわけで、俺たちはエアコンの効いた涼しい部屋で、一日中ゲームをしていた。



「あぁー、そろそろご飯作るかー。」


 俺が下に降りていくと、モヤっとした空気が出迎える。


「火は使いたくないな……」


 夏場の天ぷらや鍋なんかは地獄だ。食べる時だけじゃなくて、作ってるだけで暑くなってくる。


「まぁ、適当に作るか」


 冷蔵庫の中にある物で、頭の中で献立を組み立てる。


「前もって言ってくれたら、色々揃えたのになぁ」


 そんなこと言ったって、一日中ゲームをしていた俺も大概なので、何とするしかないか。



 いつもより気持ち丁寧に分量とかは測りとったつもりだが、お客さんがいる時の料理ではないよな……


 まぁ、澪なら、何でも美味しいと言って食べてくれそうだが……


 俺が大体の料理を作り終わるとともに、母さんが帰ってきた。


「ただいま。あっ、圭。ありがとね」


「『ありがとね』じゃないよ。先に言っといてくれないとさぁ」


「ごめん、ごめん」


「はぁ、大体は準備オッケーだから。あとは父さん待ちかな」


 俺が澪を呼ぶと同時に、父さんも帰ってきた。


「ただいまー。って、もしかしてこちらが……」


「こんばんは。相楽澪と申します」


「あぁ、圭から話は聞いてるよ。ちょっと着替えてくるから待っててね」


 澪との念願の初対面を果たした父さん。


 自分の部屋に行きながら俺をチラッと見てくる。


 ――お前、やるなぁ


 特に確証はないが、こう言われているような気がした。うるせぇよ。



「お待たせ、お待たせ。じゃあ食べようか」


「いただきまーす」


 こうして、カオスな富樫家の夕食が始まった。

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