第四十五話 夏の海は青春すぎる④
海の家での食事は、少々値段は張ったものの、味はちゃんと美味しかった。
なかなかこういう雰囲気で食事することもないので、やっぱりテンションが上がる。
「なぁ、圭。澪さんっていつもこんなに食べんのか?」
相変わらず澪の食べる量に驚いている恭介が、小声で俺に聞いてくる。
「うーん、いつもより少ないくらいかも……」
俺の返答に恭介が言葉を失う。
まぁ、軽く俺たちの倍くらい食べてるもんな……
それでこの体型を維持できているのがすごすぎる。
俺たちの好奇の目を浴びながら、ペロリと完食した澪。俺たちも少し遅れて食べ切った。
「ねぇ、私お手洗いに行ってきていい?」
「あっ、私も行きたい」
女子二人がお手洗いに向かうと、俺たちは席を立って、海の家に併設されているお土産屋さんをぷらぷらと歩いていた。
「やっぱり人多いね」
どこもかしこも人だらけ。そろそろ疲れてきたかも。
「お待たせ!」
澪がひと足先に戻ってきた。
「あれ? 利奈さんは?」
「うーん、もうちょっとで来ると思うけど……。そこまで混んでなかったし」
「じゃあ、もうちょい待とうか」
俺たち三人は、またお土産を色々見て回った。
「ねぇ、さすがに遅くない?」
澪が戻って来てから5分以上経っていた。
「うーん、どうしたのかな? ちょっとトイレの方向かってみる?」
澪に連れられ、俺と恭介もトイレの方へ向かう。一体、どこに行ったんだろうか?
勝手に一人でいなくなるような人ではないと思うが……
「あっ、あれ!」
澪が急に立ち止まって声を上げた。
澪の眺めている方向を見るとそこには。
――利奈さん、と、それを囲む男たち。
「ねぇ、あれって――」
俺が恭介に話しかけようとした時、彼はすぐに利奈さんたちの元に向かって歩き始めていた。
「ちょっと、恭介!」
俺は澪に待っておくように言ってから、恭介を追いかけていった。
近づいていくと、男たちの会話が聞こえてくる。
「なぁ、姉ちゃん、いいじゃんか?」
「そうだよ、俺たちと居た方が楽しいぜ?」
恐らく、下劣なナンパ。
すぐにでも止めに入りたいが、相手は男が三人。俺と恭介の二人では、物理的に劣る。それに、俺の貧弱さを考えると、一人半くらいの戦力かもしれない。
「なぁ、ほら。行こうぜ?」
男の一人が利奈さんの手を掴んだ。
「ねぇ、やめて!」
利奈さんが声を上げるとすぐ、恭介が走り出す。
「おい、何してんだよ」
恭介が今まで見たことないほどの剣幕で向かっていく。
「はぁ? お前誰だよ?」
「彼女の、利奈の彼氏だよ! テメェら、利奈に何の用?」
男たちは、恭介の圧に少し押される。
「なっ、何の用ってナンパに決まってんだろ。テメェ一人で俺たちに勝てんのかよ?」
くっ、このまま殴り合いにでもなったら、恭介に勝ち目はないだろう。相手は多分大学生くらい。スポーツをやっているようなガッチリした体型をしている。
「勝てる勝てねえじゃねぇよ。お前ら、人の彼女ナンパして恥ずかしくねぇの? さっさとその汚ねぇ手離せや!」
恭介が珍しく声を荒げる。
「あぁ? テメェいい加減に――」
一人が恭介に拳を振り上げる。
くそっ、やっぱりこうなったか。俺も参戦するしか……?
俺が一歩踏み出したと同時に、鈍い音が聞こえる。
「ぐぁっ……!」
俺が目を向けると、恭介の左手は、男の拳をガッチリと掴んでいた。
と同時に、男の脇腹に恭介の右手が食い込んでいる。
「おい、お前……!」
「何? お前もさっさとかかってこいよ?」
恭介が煽ると、また一人が殴りかかる。その手を簡単にいなしながら、男の急所に蹴りを入れる。
「……っくぁ!」
男が情けない声を出してうずくまる。
「ほら、お前も来いよ!」
恭介に名指しされた残りの一人は、完全に、戦意を失っているようだ。
「……っ、すいませんでした!」
最後の一人は恭介にKOされた二人を引きずりながら、その場を後にした。
「ふぅ、利奈、大丈夫?」
「恭介君……!」
利奈さんが恭介に抱きつく。
「ごめんね、早く来れなくて……」
「ううん、私こそ無視すれば良かったのに、怖くて――」
恭介が泣いている利奈さんの頭を優しく撫でる。
何か、俺の出る幕はなかったんだが? まあ、みんな無事だったからいいか。
「利奈ーー! 大丈夫?」
遠くから見ていた澪も走って来た。
「うん……」
「ごめんね。先に行かないで待ってれば良かった……」
「大丈夫だから。みんなありがと。富樫も」
「いや、俺は何も。ていうか恭介、お前あんなに喧嘩強かったん?」
「あぁ、最近格闘技見るのハマっててさ。それで色々覚えてたんよね」
ここでも恭介の多趣味が生きたようだ。
ていうか、見るだけであそこまでできるものなのか?
とりあえず恭介を怒らせてはいけないことは分かった。
「じゃあ、そろそろ迎え来てもらおうか」
時間もまあまあ経ってしまったので、ここで俺たちの海旅行は一旦終わることとなった。
澪が春樹さんに連絡すると、ものの10分くらいで迎えに来てくれた。やはり、この近くで用事があるというのは嘘ではなかったみたいだ。まぁ、そんな嘘わざわざつくわけないか。
「みんな楽しかった?」
春樹さんの問いかけに、俺たちはどう答えたらいいか、ちょっと戸惑ってしまった。
「まぁ、面白かったです。色んなことがあって」
恭介の言う通り、色んなことがあった。間違いなく思い出に残るものになった。
まぁ、総括したら楽しかったのかな?
俺たちはまだ少しドキドキしながら、帰路に着いた。




