第四十四話 夏の海は青春すぎる③
「人多すぎて泳げねぇわ」
海から戻ってきた恭介が文句混じりに笑っている。
「まぁ、涼しかったからいいけどさ、ねぇ、利奈」
「うん、ちょっと恥ずかしかったけどね」
利奈さんだけ何故かもじもじしている。
「恭介、何したんだ……?」
「何ってただ一緒に泳いでただけだよ?」
恭介はケロリとしているが、利奈さんには、少し刺激的過ぎたのか?
「人多かったから、俺が利奈を後ろから支えてたんだけどさ」
あぁ……
利奈さんが恥ずかしがるのも無理はない。
「よし、そしたら今度は俺たちが荷物番してるから、二人で行ってきて」
「おう、さんきゅ」
恭介に言われ、俺と澪は海の方へ歩いて行く。
「ねえ、圭って泳げるの?」
「まぁ、人並みには。澪は?」
「私はあんまり……」
まぁ、今日は泳ぎに来たというよりは、思い出作りなので、そこまで問題はないだろう。
それにしても人が多い。
ビーチの時点で相当混み混みだったが、夏休み真っ只中の海は半端なく人が多い。
俺たちが比較的空いてるところを目指して行くと、ちょうど、そこまで混んでないところを見つける。
「ねぇ、圭! こっち来て!」
澪が波打ち際へと走って行く。
「きゃっ、冷たい」
「ほら、走ってくと危ないよ……って、おい」
ベタな恋愛漫画の一コマのように、澪が水をかけてきた。
「そっちがその気なら……」
俺も負けじと、澪に向けて手で水を押し上げる。
「キャー、冷たい!」
楽しそうに笑っている澪。可愛すぎるだろ……
やっぱり澪は笑っている方が似合う。
「ちょっと奥行ってみない?」
「……えぇ、怖いよぉ」
口ではそう言いながらも、既に澪はさらに奥の方へと歩みを進めていた。
「ここら辺までにしとこうか」
少し奥へ行っただけだが、ちょうど腰が隠れるくらいの深さだ。
ここら辺までくると、あまり人も多くなく、ちょっとくらいなら動けそうだ。
「ねえ、これ流されないよね?」
まだ不安そうな澪を後ろから抱きしめる。
「ちょっと圭、恥ずかしいよ」
さっきの恭介もこんな感じだったのだろうか。だとしたら利奈さんの反応も頷ける。
「ちょっとずつ歩いてみようよ」
せっかく海に来たんだし、ちょっとは泳ぎたかったが、この人の量なら仕方がない。
「そろそろ戻る?」
「そうだね?」
恐らくまだ11時半くらいだろうか?
正確には分からないが、あんまり二人を待たせても悪いので、俺たちはだんだんとビーチに向かって歩き出した。
「やっぱり涼しいね」
太陽に照らされた海水は程よくぬるくなっていたが、直接陽の光を浴びるよりはだいぶマシだった。
「よし、じゃあ戻ろうか」
海から上がると、一気に体が重く感じられる。
まだまだ減る気配のない人の群れの間をすり抜けながら、二人が待つパラソル目指して歩いた。
「ただいまー!」
「おかえり、早かったね」
「うん、やっぱり人が多かったな」
結局この感想が一番初めに浮かんだが、仕方ないところがある。
「どうする? そろそろお昼だけど?」
「うーん、もう食べちゃおうか。海の家行く?」
「いいね! 行こ!」
俺の提案に、分かりやすく澪のテンションが上がる。
「先に着替えちゃう?」
「うん、みんな、海は楽しめた?」
正直、もうちょっと遊びたかったが、ここまで人が多いと逆に気後れしてしまう。
「みんながいいなら、先に着替えちゃおうか」
「その後お昼ね!」
せっかく遊びに来たのに、疲れてしまったら元も子もない。
俺たちは荷物をまとめ、更衣室へと向かった。
「じゃ、終わったら水着に着替えた時と同じ場所集合で!」
更衣室にはシャワーとサウナが併設されていた。プールほど設備がしっかりしているわけではないが、体を洗い流すには十分だ。
シャワーを浴び終わった俺たちは、さっさとTシャツに着替える。
「圭、澪さんとイチャイチャできたか?」
「どんな質問なんだよ。まぁ、できたっちゃできたけど……。お前はどうなんだよ」
「利奈の反応見れば分かるだろ」
「お前、わざと利奈さんが恥ずかしがることやってんだろ?」
「だって反応が可愛いんだもん」
確かに、利奈さんは恭介と接している時は、かわいさが特に際立っている。いつもの性格の棘の部分が全て取れたように、本当に純粋な反応をしている。
「圭も澪さんの反応にドキッとすることあるだろ?」
「まぁ、そりゃ」
「俺も同じだよ。せっかく自分のことを好きでいてくれてるんだから、もっと色んな表情知りたいと思うやん?」
俺も普段と違う澪の姿を見ると、少しワクワクする。
動機は同じでも、恭介はその一面を引き出す技術に長けて過ぎている。
「よっしゃ、じゃあそろそろ向かいますか」
やはり、男子よりも女子の方が着替えとかは時間がかかるんだろう。
10分ほど遅れて、二人が戻ってきた。二人ともうっすらとメイクをしていたが、元々が良すぎるので十分すぎるほど綺麗だった。
「ごめーん。思ったより待たせちゃった」
「全然大丈夫。じゃ、行こうか」
ちょうど時間もお昼くらいになり、海の家の中もだいぶ混んできた。それでも、回転率はいいのか、俺たちはそこまで待つことなく食事を頼むことができた。
でも……。
「澪さん、それ一人で食べるの?」
「うん、そうだけど?」
案の定、恭介が澪の食べる量に驚く。やっぱその反応になるよな。
俺がおかしいわけではないみたいだ。良かった。良かった。
――澪にバレたら怒られるなぁ……




