第四十三話 夏の海は青春すぎる②
約40分のドライブの間、車内はテンションMAXの澪によって支配されていた。
「なぁ、圭、澪さんっていつもこんな感じなのか?」
「いや、今日は特にテンション高いね。そっちこそ、利奈さん、大丈夫そう?」
澪とは対照的に、利奈さんはいつにも増して緊張しているように見えた。
「それが、水着姿を俺に見せるのに緊張してるらしくて……」
そういうことか。恭介の前ではどこまでもシャイになってしまう利奈さん。それは付き合った後も変わっていないようで。
「よし、みんな、あともうちょっとで着くよ」
運転席の春樹さんが、カーナビを見ながらみんなに呼びかけた。
「春樹さん。今日はわざわざありがとうございます」
「いやいや、いいんだよ。ちょうどこっちの方に用事があってね。ついでだから」
そうは言っても、俺たちの時間に合わせて車を出してくれた春樹さんには感謝しかない。
「それに、娘の彼氏と友達の頼みとあっては、断れないよ」
春樹さんが澪の方を見ながら呟いた。
「圭君、今日はみんなのことよろしくね」
「はい、任せてください」
春樹さんは俺に全幅の信頼を置いてくれている。だからこそ、俺も期待に応えたい気持ちが大きかった。
「やったー! とうちゃーく!」
澪が嬉しそうに車から飛び出す。海水浴場の駐車場は、車でごった返していた。
「よし、そしたら、連絡くれたらまた迎えにくるから」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
駐車場を後にする春樹さんを見送り、俺たちは海の家の更衣室の方に向かった。
「じゃあ、着替え終わったら、海の家の前集合で」
男子と女子に分かれ、それぞれが更衣室に向かった。
「よし、じゃあさっさと着替えちゃおうか」
「ああ」
男子の着替えは早い。
まあ、脱いで履いて完成ですからね。
「お前、その身体――」
久しぶりに見た恭介の身体は、前よりもさらに筋肉が付いていて、不思議な色気を感じた。
「あぁ、なんか色々トレーニングやってみてたらこうなったわ」
「偶然で出来ていい身体じゃないだろ……」
「何、もしかして惚れちゃった?」
恭介があからさまに茶化してくる。
「馬鹿言うなよ。まぁ、女子たちはどうか知らんが……」
「あっそ。じゃ、いきますか」
俺たちが着替えを終え、荷物を持って待っていると、5分ほど遅れて、女子二人が戻ってきた。
――もちろん、水着姿で。
「二人とも、お待たせー!」
やっぱり露出が多すぎる……
面積の小さい水着では全く隠しきれていない澪の真っ白な体が、陽の光を眩しすぎるくらい反射していた。
「もう、二人ともそんなジロジロ見ないでよ」
口ではそう言いながらも、澪は全く恥ずかしがる素振りもなく堂々としている。逆に利奈さんは、ずっとどこか落ち着かない様子だった。
「……恭介君、どうかな?」
「うん、めちゃくちゃ可愛いよ。とても似合ってる」
「ホント! なら、良かった……」
利奈さんが安心したように恭介にピタッとくっついた。
「あー、二人ともイチャイチャしてズルい! 圭、私たちもイチャイチャしよ!」
「えっ、ちょっ!」
澪が俺の腕を思いっきり抱き寄せた。あのー、何がとは言いませんが、当たってますよ……
「ねえ、圭。私、かわいい?」
「うん、かわいすぎる」
俺の返答に満足したように、さらに俺の腕が強く拘束される。同時に、澪の身体の柔らかさが伝わってくる。
澪、さてはわざと当ててきてるな……?
案の定、澪はいつも通りの意地悪な笑みを浮かべていた。
「よし、じゃあ、早速行こうか」
俺たちはビーチへと繰り出した……のだが、どこを見ても、人、人、人!
「さすが、夏休みは混んでるね」
ほとんどが子供連れの親子で、時々若いカップルが見られるくらいだった。
「あっ、あそことかどう?」
利奈さんが指差した方は、そこまでは人も多くなく、拠点にするには、ちょうど良さそうだ。
俺たちは持ってきたパラソルを、深めに砂を掘ってから刺した。
「よし、そしたら、荷物番を決めたいんだけど……」
「まぁ、じゃんけんかな」
「だね。それじゃ、最初はグー……!」
公正に行われたじゃんけんの結果、俺の一人負けが確定した。
「じゃあ、圭、よろしくね」
恭介がニヤニヤもこっちを見てくる。こういう時の俺の運の無さは彼が一番分かっている。
「はーい。みんな楽しんできてね」
まぁ、ずっとじゃないし。みんなが楽しければいいか。
「……ごめん2人とも。私もこっちで待っててもいい?」
「澪?」
澪の予想外の提案に、恭介と利奈さんは少し戸惑っている。でも、すぐに澪の意図を理解したのか。表情は柔らかくなった。
「分かった。じゃあ、俺と利奈はお先に泳いでくるわ。利奈、行こうか」
恭介が、利奈さんの手を引いて、海の方へ向かっていった。利奈さんは嬉しさと恥ずかしさで表情がトロけていた。大丈夫かな……?
「澪、行かなくて良かったの?」
「だって、圭1人じゃ可哀想でしょ」
やはり、俺に気を遣ってくれたようだ。一番楽しみにしていたのに、本当に俺にはもったいないくらいいい彼女だ。
「それに……」
「それに……?」
「私は、圭と一緒に居れれば、それだけでいいから……」
澪の言葉に、明らかに俺の鼓動は早くなる。俺はこの後も耐えられるのか……?
破壊力が高い澪の言動に振り回されながら、俺の友達との海旅行というイベントは幕を開けた。




