第四十話 変わらないもの
「そういえば、肝心の海に行く日決めなきゃね」
水着をしっかりとゲットした女子二人も戻ってきた。
「俺と圭はいつでもいいけど、そっちはどう?」
「私はいつでもいいよ? 利奈は?」
「うーん、できれば平日の方がいいかな……」
「そっか、じゃあ近いけど、今週の金曜日とかどう?」
誰も異論なし。
平日の方が比較的人も少ないだろうし、天気も良かったはず。
「じゃ、それで決まり! 今日はありがとね」
おっ、このあとは解散の流れか……?
正直、こういう賑やかなところは苦手だった。みんなで過ごすのは楽しいが、あんまり長い時間は居たくなかった。
「よし、それじゃ後はそれぞれのカップルで」
あれ?
「ほら、圭、行くよ!」
どうやらまだまだ終わらなそうです。
恭介、利奈さんと別れた俺たちは、澪の先導のもと、もっと繁華街の方へと向かった。
「まずは腹ごしらえでしょ!」
本当に食べることが好きなのだろう。時刻はまだ11時過ぎ。俺はまだまだ朝ごはんが胃袋の中で主張していたが、澪はさっさと近くのファミレスに入って行った。
「何食べようかなー?」
この前相楽家と一緒だった時もそうだったが、この人は加減というものを知らないのだろう。
「でも、こんなに食べたら今度の水着に影響出るかな?」
「うーん、どうかな? 十分細いけどね……」
何なら細すぎるくらいだ。普段あれだけ食べているのに、ずっと完璧なスタイルを維持している。
それに対して俺は、うん。貧相。太ってはいないが、特に筋肉が付いているわけでもない。人様に見せられるようなものではない。
「じゃあ、これとこれとこれを」
結局この前よりも大量に頼んだ澪は、案の定、ペロリと平らげた。
「ちょっと早すぎない?」
「圭が遅いんでしょう?」
そうなのか……? そうなのかもしれない。
腹を満たした俺たちは再び街に繰り出す。
「澪、これからどうするの?」
「え? 帰るよ?」
予想外の回答に少し戸惑う。
「だって、圭もう疲れたでしょ?」
「バレてたの?」
「当たり前でしょ、君のかわいいかわいい彼女なんだからね!」
どうやら全てお見通しだったようだ。いつも通り観察されていたのだろう。この人には敵わない。
「ごめんね、もっと行きたいところでしょ?」
「ううん、私は圭と居られればどこでも嬉しいよ」
澪はそう言って、駅の方へ足を運ぶ。
やっぱり俺には勿体無いくらいの彼女だ。
「その代わり!」
澪が突然立ち止まって、俺の方に向き直す。
「今日は私の家に泊まってもらいます!」
「それなら、喜んで」
もはや、相楽家も第二の自宅みたいなもんだ。
「俺も澪と一緒にいたい」
俺の言葉に澪が頬を赤らめる。
「ほら、早く行くよ!」
両親に連絡も済ませた俺たちは、駅から澪の家へと直行した。
「お邪魔しまーす」
「おかえり、早かったわね」
いつも通りさくらさんが出迎えてくれる。
「さくらさん、すみません、こんなに頻繁にお世話になっちゃって」
「全然大丈夫よ。春樹さんも話し相手ができて嬉しがってたし。昨日も、『今日は圭君は来ないのか?』って」
「それなら、良かったです」
どうやら、春樹さんも俺のことを気に入ってくれたみたいだ。
いつも明るい相楽家は、俺の心をいつも温めてくれた。家で一人で、が多かった食事も楽しい時間に変わった。そして何より、俺を好きだと言ってくれる彼女がいる。
俺、今が人生で一番幸せなのかもしれない。
「じゃあ、部屋行ってるね」
もう慣れた澪の部屋。初めて来たから1ヶ月くらいしか経っていないのに、俺たちの関係は様変わりした。
「っうぉ――」
澪がいきなり抱きついてきた。
「どした? いきなり?」
「外だと恥ずかしかったから……」
確かに今日はいつもよりスキンシップが少なかったかも。
俺は澪の背中を優しく抱きしめる。
「もっと、強く」
「わがままだなぁ」
さらに腕に力を入れると、澪の体温がしっかりと伝わってくる。
「圭、私のこと好き?」
「好きだよ。世界で一番……」
歯が浮くようなセリフに自分でも恥ずかしくなる。それでも、澪が喜んでくれるなら、いくらでも言おうと思う。
「ねぇ、海、楽しみ?」
「うん。楽しみ」
「私も圭に水着姿見せるの楽しみ」
くっ、そんなこと言われたら、さらに恥ずかしくなるじゃん……
「あっ、今エッチなこと考えてたでしょ」
そしていつも通りバレる。
「……うん、澪の水着姿考えてた」
「もう、悪い子なんだから!」
そう言いながらも笑っている澪。
本当に彼女は俺の彼女でいいんだろうか。俺のことを好きでいてくれているのは、本当に嬉しい。でも、俺なんかがこんな可愛い人と付き合っていいのだろうか。
澪と釣り合う男のなるには、まだまだ頑張らなきゃいけない。
でも何を?
澪はそのままの俺でいいと言ってくれている。でも本当にそれでいいのか……?
もう何分経っただろうか。どちらも離れようとしない。互いの体温を共有し合いながら、ただただ時の流れに身を任せていた。
「ねぇ、圭」
「うん?」
「圭はずっとそのままでいてね」
澪の言葉に静かに頷く。
どれだけ時間が経っても、変わらない。澪への気持ちだけは。




