第四話 文化祭実行委員
梅雨も終わり、カラカラに乾いた日差しが降り注ぎ始めた7月初頭。俺と相楽さんの関係に特に進展は無かった。時々世間話程度の会話をするだけの、ただの隣の人としか見られていないだろう。まあ、実際そうなのだか。
そんな中、北楼高校では文化祭の準備が始まろうとしていた。
「じゃあまず、実行委員を決めるぞ。男女二人ずつ選ぶようになっているが、やりたい人はいるか?」
森田先生の呼びかけに答えた人はいなかった。自分から面倒な仕事を引き受けるほど、高校生は暇じゃないのだろう。もちろん俺も歌い手としての活動をしなければいけない。最近できてないけど。
「誰もいないならくじで決めるしかないな」
森田先生が箱を取り出した。中には1〜40までの数字が書かれた紙が入っているのだろう。森田先生は箱の中に手を突っ込んで紙をかき混ぜ始めた。
そんな中、静寂を突き破るように一人の女子が手を挙げた。
「あのー、私やってもいいですか?」
誰がこんな仕事をわざわざ引き受けるのかと思い教室を見回すと、俺の隣で相楽さんが姿勢よく手を挙げていた。
「おぉ、相楽、いいのか? 立候補してくれるなら助かるが。みんなも相楽でいいか?」
どこからともなく拍手が伝播しだす。
「よし、とりあえず相楽は決定だな。じゃあ、残りはくじで決めさせてもらうぞ」
ということで、男子二人と女子一人はくじで決まることになりそうだ。
いつの間にか男子たちは自分の番号が引かれるように祈っていた。相楽さんと一緒にできるなら、どんなにキツイ仕事でもお釣りが来る。全く、けしからんものである。男子はやっぱり単純なものだ。
教室が異様に熱を帯び始めた。森田先生が一枚目のくじを引いた。
「『19』か。小島だな。」
名前を呼ばれ、一人の女子が気の抜けたような返事をする。
小島利奈。あまり関わったことはないが、よく相楽さんと一緒にいるのを目にする。4月の段階で既に仲は良さそうだったので、同じ中学だったのだろうか。入学してすぐ自己紹介の時間はあったのだが、ちゃんと聞いていなかった。
「女子は決まったな。では、残りは男子二人と。」
先生は女子の番号だったらもう一度引き直すと付け加えて一枚を取り出した。まだ男子の枠は減っていない。クラスのほとんどの男子が森田先生の手元にある一枚に注目する。
「『14』だな。」
「えっ。」
俺の前の席の男が思わず声を上げた。そう、出席番号14。俺の親友北原恭介君。まあ、彼の性格を考えたら適任だとも思うが、本人は引かれるとは思っていなかったようで。
「北原、頼めるか。」
「まあ、くじ引きならしょうがないですね」
彼ならきっといい仕事をしてくれることだろう。やる時はきっちりやる男だ。
「ただし。」
皆の視線が再び恭介に集まる。どうしたのだろうか。こういう時はすんなり受け入れると思っていたが。
「富樫君と一緒だったら引き受けましょう」
「えっ。」
先程の恭介と同じように情けない声を出してしまった。恭介が後ろを振り返ってニタニタと不気味な笑いを浮かべている。
「だそうだが、富樫。どうだ?嫌なら引き受けなくてもいいが。」
恭介が右目をパチンと閉じてウインクしてくる。コイツ、何を考えているんだ。
恭介はまた前を向いて口を開いた。
「先生、コイツ昨日からやりたいって言ってたのに、恥ずかしくて言えなかったみたいで。もし良いならコイツにもやらせてやってくれないっすか。」
「なんだそうだったのか。富樫、何も恥ずかしがることはないじゃないか。じゃあ決定だな。」
「えっ、ちょっ、」
俺があまりの事の速さに言葉を失っていると、先生は黒板にデカデカと決まった4人の名前を書きあげた。
「決まった4人を中心に来週までに企画をまとめるように。あんま大掛かりにすんなよ。余裕を持って計画しろよ。」
森田先生は残りは自習と言ってさっさと職員室に戻っていってしまった。学活の時間はあと30分以上残っている。
「おい、恭介。お前ふざけんなよ」
「何が?俺はお前がやりたそうな顔してたからわざわざ推薦してあげたんだぞ。」
「お前のせいで俺は全男子から恨まれることになるんだぞ」
俺と恭介の二人で男子の二枠を埋めてしまった訳であるから、恨まれても仕方ないであろう。
「別にいいじゃん、始めはみんなやりたがってなかっただろ」
「『始めは』な。」
二人で稚拙な言い争いをしていると相楽さんが声をかけてきた。
「二人とも、お取り込みのところ悪いんだけど、ちょっと良いかな。ほら、利奈も早くこっち来て。」
相楽さんの呼びかけに小島さんが重い腰を起こす。
「もう、澪はやりたくてやったからいいけど、私たちは仕方なく引き受けたんだからね。あっ、そこの物好きな男子は違ったけど。」
小島さんは俺の方を見て眉間に皺を寄せた。
「そんな風に言わなくても良いでしょ。ごめんね圭君。利奈、昔からこういう子で。」
相楽さんが頭を下げる。俺は必死に気にしてないからと伝えた。次は恭介が口を開いた。
「二人は同じ中学だったよね? 俺らも幼馴染なんだよね。」
さすが恭介。きっと彼女たちの自己紹介を覚えていたのだろう。モテる理由がわかる気がする。
「そうだったんだ。どおりで仲良いんだね」
「ね。なんか正反対の二人なのにね。明るい方と暗い方っていうか、陽と陰というか」
小島さん、思ったより辛辣。まあ、否定はできないが。
「まあ、何はともあれ、これからよろしくね。嫌々でもちゃんと仕事はするつもりだから。」
「みんなで良い文化祭にしようね」
相楽さんがとびきりの笑顔をこちらに向ける。
「ああ、ふたりともよろしく。圭もよろしく。」
「よろしく……」
二人は小島さんの座席の方へ移動していった。
同時に恭介がまた、ニヤニヤしながら話しかけてくる。
「お前、やってみたくなってきたんじゃない、文化祭実行委員。」
「べっ、別に。まあ、まあ決まっちゃったし、頑張るけど」
ふーんと言いながら恭介は前を向いて勉強を始めた。
本当に余計なお世話だよ、と言いたいところだが、さっきの相楽さんの笑顔が忘れられない。文化祭まであと3週間。これはチャンスなのか……?まあ、とりあえず頑張ろう。
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