第三十九話 突発ダブルデート
恭介の誕生日会の次の日、俺と恭介は女子二人に呼び出されて、駅に集合していた。
「よし、四人揃ったね」
「それで、今日は何すんの? 急に連絡してきて」
澪と利奈さんはどこに行くか知っているみたいだけど、俺と恭介は何も聞かされていなかった。
「今日はあるものを買いに行きます!」
「あるもの?」
「本当は二人で買いに行こうかなって話してたんだけど、やっぱり男子の意見も欲しいなってなって」
「男子の意見……?」
俺と恭介は同じように不思議そうな顔を浮かべる。
「まぁ、とりあえず行こ!」
女子に連れられ、電車に乗ってやってきたのは、ファッション街だった。
俺はこういうとこ慣れてないし、何より場違い感がすごい。
ていうかこれ、俗に言うダブルデート......?
澪、利奈さん、恭介という最強格のビジュに囲まれた中の下くらいのパッとしない見た目の俺。洗練されたファッションなんてものとは程遠い俺がここにいてはいけない気がしていた。
「よし、目的地到着!」
女子二人はおしゃれなアパレルショップに入っていく。
なんだ……、また服を買うのか……
まぁ、女子高生にはこれくらいが正常な頻度なのだろう。
お店の中に入ると、もう8月ということもあり、夏服が目立っていた。
でも、二人ともそのゾーンをスルーしていく。お目当てはこれではないのか……
少し奥に進んでいくと、女子たちの思惑が分かった。
「ねぇ、これって……」
「うん? 水着だよ?」
俺と恭介は目を合わせる。まぁ、この後面倒くさい展開が待っているのはほぼ確定だろう。
「それで、俺たちが連れてこられたのは……?」
「もちろん、彼氏たちにチェックしてもらうためにきまってるじゃん。海に行く前に新しい水着が欲しかったからさ」
一体、何の参考になるのかも分からないが……
「私は恥ずかしいからいいって言ったのに……」
確かに付き合って二日目で水着チェックはハードルが高い。利奈さんが恥ずかしそうにもじもじしているのも無理はないだろう。
「なんだー、そうだったんだ! じゃあ、早速選ぼうか」
さすが恭介。すぐに状況を飲み込んでいる。
「ほら、圭も澪さんの見てあげないと!」
恭介の言う通り、さっさと始めないと、この苦行が続くだけだ。
「圭、パッと見た感じだと、これか、これか、それからあれもいいかなって思うんだけどさ。どう?」
『どう?』と言われましても……
まず彼女の水着姿を想像するというフェーズで俺の頭は沸騰しそうなのに、その後自分の好みまで晒さなきゃいけないなんて、羞恥心で爆発しそうだ。
「うーん、澪は明るい色が似合いそうだよね」
候補を色だけで見ると、黄色、黒、水色。俺の言った理論でいくと黄色か水色だろうが、どちらもなかなかの露出度だ。
「澪はどれがイチオシとかない?」
「圭が好きなのでいいよ。圭に見せるために買うんだから」
ぐっ、かわいすぎるだろ……
俺が澪にノックアウトされかけていると、後ろの方で恭介と利奈さんの会話が耳に入ってきた。
「利奈の骨格を考えると、こっちの方がいいかな?」
「あっ、うん。どっちでも……」
「でも、デザインはこっちの方がかわいいよねー。でも、利奈が着るならどっちもかわいいし〜」
「もぅ、恭介君、恥ずかしい……」
「へ? 俺が思ったこと言ってだけだったんだけど、なんか変だった?」
「……ううん、嬉しいけど!」
あっ、なんかイチャイチャしてますね。
あっちは恭介がリードしてるのか。この2週間くらいで利奈さんのイメージが180度変わった。
まぁ、恭介のせいでしょうけど……
「ほら、あっちは決まりそうだよ。圭はどっちが好き?」
「うっ……、じゃあ、こっちかな……」
俺は自分の直感を信じて黄色の代物を選んだ。
「分かった! じゃあ、試着してくるね」
「了解」
「……え?」
「うん?」
「圭も来て?」
澪が当たり前のように言い放つ。ちょっと待ってくれ。
「いやいや、俺は良いよ。その……サイズとかだけ確認してくれば?」
「あぁー、さては恥ずかしいんでしょ?」
お決まりのニヤニヤを浮かべて、澪がこっちににじり寄ってくる。
「いや、水着姿は海まで取っておきたいかなって」
苦しい言い訳。ただ、ここで試着にまで付き添ったら、俺の心臓が持たない。
「まぁ、それもそうね」
どうやら納得してくれたようで、澪は一人で試着室の方に向かって行った。
「恭介君も待っててね」
「はーい」
恭介が少し残念そうに返事をする。どうやらあっちのカップルは俺たちとは逆らしい。
「圭、早く終わりそうで良かったな」
「あぁ、何とかな」
「お前顔真っ赤だぞ?」
当たり前だろ。お前と違っていつでも冷静とはいかないんだよ。
「海行くの、楽しみだな」
「それはそう」
話していると、二人が戻ってきた。
「お待たせ! 特に問題なかったから、買ってくるね!」
まだまだニヤニヤな澪と、ずっと恥ずかしそうな利奈さんがレジへと向かって行った。
男子二人で、店の外で待っている。特に気にすることもなく言葉を吐く。
「なぁ、恭介」
「ん?」
「俺、楽しいよ。最近」
「あぁ、俺もだ」
春には考えられなかった今の俺の姿。こんな日々が毎日続いて欲しい。
でも人生は甘くない。この幸せな日常に、少しずつ暗い雲がかかってくることになるとは、この時はまだ、俺たちの誰も知らなかった。




