第三十七話 恭介誕生日パーティー
楽しい時間は早く過ぎるとよく言われる。
俺たちの楽しい夏休みももう既に一週間が過ぎようとしていた。
この一週間、俺と澪はそれぞれの家をずっと行き来していた。俺は相楽家に夏休み開始からもう2回も泊まらせてもらっている。
澪がウチに泊まるのはまだ実現していないが、二人の仲は確実に深まっていた。
特に特別なことをすることもなく。ただただ駄弁ったり、ゲームしたり、俺が歌ったり。時には利奈さんや恭介と一緒にちょっと外に出たりと、よくある高校生の休日を送っていた。
ただ今日だけは、少し特別だった。
8月3日。そう。恭介の誕生日であった。
誕生日会は午後からの予定で、当たり前のように両親は仕事なので、会場は富樫家ということで落ち着いていた。
「ねぇ、圭。こっちも飾りつけしちゃうね?」
「あぁ、よろしく」
という訳で、俺と澪はパーティーの準備をしていた。
食事はピザを用意していて、後で届くはず。それまでにリビングの飾り付けと、俺と利奈さん共作の誕生日ケーキの準備をこなす。
澪もケーキ作りに参加したがっていたが、さくらさんの忠告で今回は遠慮してもらった。
利奈さんは家でも時々料理をするそうで、澪と比べたら数倍料理スキルが高かった。
「よし、飾り付けはOKだね。ちょっと疲れたな」
俺と利奈さんは朝からケーキを焼いていたので、睡魔が襲ってきていた。
利奈さんもきっとぐったり……? あれ?
俺の予想を裏切って、利奈さんはバッキバキに目が覚めていた。
「利奈さん、眠くないの?」
「……眠いけど、これからのこと考えてたら、緊張しちゃって――」
まぁ、それもそうか……
利奈さんは今日、恭介に告白しようとしていた。
ちょっと急すぎやしないかと利奈さんはビビっていたが、それくらいでちょうど良いんじゃないかと思った。
理由は特にないが、強いて言うなら、幼稚園から彼と一緒に生きてきた俺の勘である。
「ねぇ、恭介君に嫌われないかな」
「大丈夫だって! きっと上手くいくよ!」
確信はないが、そう言葉をかけるしかない。利奈さんの初めての恋愛。どうか実って欲しかった。
正午。時間ぴったりに今日の主役が現れた。
「お邪魔しまーす」
パァン! パァン!
「お誕生日おめでとう!」
恭介を出迎えたのは、利奈さんと澪のクラッカーだった。
「恭介、おめでとう。さぁ、まずは座って」
俺の案内にしたがって、恭介が用意された主役席に腰をかける。
「それじゃあ、二人ともよろしくね」
「え? 何が始まるの……?」
「せーのっ」
二人の準備ができたところで、俺がギターを鳴らす。
「ハッピーバースデートゥーユー」
あまり気が進まなかったが、二人のたっての希望で、俺の生歌バースデーソングが披露されていた。
それに合わせて、二人がケーキを運んでくる。
「……ハッピーバースデートゥーユー!」
「「おめでとう!!」」
「ありがとう!」
恭介がロウソクの火を吹き消す。
それと同時に大きな拍手が起きる。
「わざわざこんなの用意してくれたんだ!」
「そう、利奈さんが作ってくれたんだよ」
「へぇー! すげぇクオリティ高い! ありがとう!」
「……どういたしまして」
利奈さんが恥ずかしそうに顔を隠す。それでも、その裏で最大限のニヤニヤをキメているのは間違いないだろう。
「さぁ、後はみんなで食べようか」
お昼ご飯も兼ねていたので、みんなが一気にピザに手を伸ばす。
「圭、コーラ欲しい!」
「はいはい、分かりましたよ」
恭介がここぞとばかりにわがままになる。まぁ、今日くらいは許してやるか。
今日の目的は確かに、利奈さんの告白だったが、俺の中では別の目的もあった。
恭介の家は、徹さんが離婚してから、ずっと二人きりのバースデーだったそうだ。寂しい気持ちを隠しながら生きてきた彼にとって、少しでも楽しい思い出になれば良いなと思っていた。
みんなでワイワイと騒いでいると、すぐに時間が過ぎていった。
「よし、そろそろあれやりますか!」
「『あれ』?」
不思議そうな顔をしている恭介を横目に、俺たちはそれぞれが用意したプレゼントを取り出した。
「じゃあ俺から」
誰がどんなものを用意したのは俺たちも知らなかった。
「はい、これ」
「ありがとう、開けて良い?」
「どうぞどうぞ」
恭介が袋を開けると、中から一本のシャーペンが出てくる。
「お前、これ!」
「欲しいって言ってただろ」
ちょっと前だが、恭介が文房具にハマっていた時期があった。その時に欲しいと言っていたブランドのものを用意していた。
「さすが俺の親友! ありがとな」
「喜んでくれたなら良かったよ。じゃあ、次は……澪」
やっぱり利奈さんが最後の方がいいだろう。
澪が用意していたのは、恭介が好きなアニメのTシャツだった。
「うわー、欲しいと思ってたんだよね! ありがとう」
好みが多い恭介。芯を捉えるのは難しいが、ストライクゾーンは無駄に広い。まぁ、利奈さんはホームランしか狙っていないだろうが……
「じゃあ、ラスト利奈さん!」
「はい、じゃあ、これどうぞ……」
利奈さんは何を用意したのか……。恭介は渡された包みを広げた。




