第三十五話 作戦開始!
利奈さんの突然の訪問にたじろぎながら、俺はコンビニでブラックコーヒーと父さんに頼まれたエナジードリンクを買った。
「おつかいはこれで終わり?」
「まあ、終わりだけど……。それって話って?」
「人がいないとこで喋りたいから、お前ん家行っていい?」
うーん、どうしようか。俺の部屋にはマイクなどの機材と、普通に使うにはデカすぎるパソコンがデカデカと陣取っている。
普通じゃない何かをしているのは確かだ。
「一旦これウチに置いてから、近くの公園で話そうか」
念には念を入れて。
俺たちは一旦富樫家に戻る。
利奈さんには玄関の前で待ってもらって、俺は父さんにエナドリを届けた。
「父さん、一瞬友達のとこ行ってくるわ」
「おう、昼は食べてくるのか?」
「いや、昼までには帰ってくると思う」
「分かった、気をつけてな。母さんには後で伝えとくから」
母さんは朝から、ピアノのレッスンが入っていた。どうやら、大会が近いようで、レッスン生も、教える側の母さんも気合いが入っているようだ。
「お待たせ、行こうか」
「遅い。さっさと行くぞ」
「ちなみに、俺の家はどうやって知ったの?」
「澪に聞いたに決まってるでしょ」
そりゃそうか。俺の家を知ってる同級生なんて、澪と恭介くらいだ。
俺たちは近くの公園へと歩みを進める。休日ということもあり、何組かの親子連れの先客がいたが、知り合いは一人もいなかった。
俺たちはベンチに腰をかける。
「それで、何の話?」
まあ、利奈さんが相談することといえば、恭介に関することだろうが……
「大したことじゃないんだけど。その……恭介君ってどういう女の子が好きなのかなって――」
恭介のタイプか……
「ほら、私って、性格キツいじゃん?」
あっ、自覚あったんですね――
「それで、恭介君に嫌われてないかって、不安でさ」
「まぁ、嫌われてはないと思うけど?」
恭介自体捻くれ者なので、余程のことがない限り、彼に嫌われることはないと思うが。
「ホント! 良かったぁ……」
利奈さんが分かりやすく安心した素振りを見せる。
「そういえば、恭介に誕プレ渡す時って、二人きりがいい? それとも、俺たちも一緒の方がいい?」
「できればみんなで一緒に……まだ二人きりはハードルが……」
「分かった。近い内に恭介に話つけておくから」
みんなで一緒なら、恭介も時間を作ってくれるだろう。あいつも基本的には暇なやつだから、予定が合わないことはないだろうが……
「じゃ、私帰るね」
「え? 話ってこれだけ?」
「うん、そうだけど?」
わざわざこんなことのために俺の家まで押しかけてきたってこと……?
まぁ、彼女にとっては大問題だったんだろうけど。
「どうした? あんたと澪の馴れ初めでも聞いて欲しかったの?」
利奈さんが意地悪な笑みを浮かべる。どうして俺の周りには、こういう性格悪い人ばかり何だろう。
「いいえ、すみませんでした」
「よろしい。じゃ、恭介君に伝えといてね」
「はーい」
「……余計なこと言うなよ」
利奈さんが静かな圧をかける。怖いです。
「せっかくのかわいい顔が台無しですよ、利奈さん。」
俺の言葉に、利奈さんが少し顔を和らげる。
「あんた、彼女以外にかわいいとか言うなよ。それに澪に比べたら私なんて……」
「確かに、彼氏の俺から見たら、澪が一番かわいい」
「おっ、言い切ったぞ、コイツ」
「でも、利奈さんももっと自分に自信を待って良いんだよ。恭介なんかにはもったいないくらいなんだから」
俺の心からの気持ちだった。もし利奈さんが本当に恭介のことが好きなら、全力で応援したい。
「ふーん、ありがと。お世辞でも嬉しいよ。じゃあね」
利奈さんは足早に公園を後にした。
さあ、早めに動くか……
「ただいまー」
ウチに帰った俺は、すぐに昼飯作りに取り掛かった。
母さんはまだ帰ってきてないけど、一応三人分作っとくか。
「父さんできたよー」
「おぅ、ありがとな。焼きそばか」
父さんの二人の食事。結構久しぶりだな。
「父さん、午後もちょっと用事できたわ」
「そうか、最近忙しそうだな」
「うん、でも楽しいよ」
澪と付き合ったこともそうだが、段々と人と関われるようになってきた。
「今度父さんにも彼女紹介してくれよ」
確かに、父さんは澪と会ったことが無かったか……
「また今度ね。あっ、そろそろ行かなきゃ」
「うん、後片付けはしとくから。母さんの分は電子レンジか?」
「そう、よろしく」
父さんのお言葉に甘えて、俺は家を出た。
行くのはもちろん、隣の恭介の家だ。
さっき連絡したら一人で暇してるとのことだったので、急に押しかけても問題だろう。
「お邪魔しまーす」
いつも通り、北原家の鍵は空いていた。俺は一直線に恭介の部屋に向かう。
「よっ、圭。何の用?」
「なぁ、8月3日。予定ある?」
「3日? あぁ俺の誕生日か。ちょっと待ってな」
恭介はスマホでスケジュールを確認し始めた。
「うーん、特にないな。それがどうかした?」
「なあ、その日、お前の誕生日パーティーを開かせてくれ!」
「えっ?」
恭介がキョトンとした顔をしている。
「急にどうした?」
「いや、最近全然祝えてなかったからさ。せっかく澪とか利奈さんとかと仲良くなったから、一緒に祝えたらなって」
「いや、俺は嬉しいけど、女子二人には迷惑じゃないか」
「じゃあ、二人がいいって言ったら決まりでいいな」
「良いけど……」
はい、作戦通り。
「じゃ、後で時間伝えるから。多分場所は俺の家かな」
「ちょいちょい、少し展開が早すぎやしませんかね?」
「まあまあ、良いじゃないですか。じゃ、またな」
「ちょっ、おい!」
引き止める恭介の声を無視して、俺は利奈さんと澪に連絡し始めていた。ついに恭介と利奈さんをくっ付ける作戦が開始した。
8月3日。後は利奈さん次第だ。




