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第三十四話 意外な来客

 2日ぶりに自分のベッドで目覚めた日曜日の朝。


「うっ、何だこれ――」


 俺は謎の腹痛に襲われていた。まあ、原因は分かりきっているが。


 そう、昨日食べた母さん作のハンバーグ(?)。


 何があったかと言うと。



 昨日、母さんに澪の好きな食べ物を尋ねられた俺。特に何も浮かばなかったので、お昼にファミレスで食べていたハンバーグを挙げた。


 今思えば、もっと簡単な料理を挙げておけば良かったと思う。


 それを聞いた母さんは、勢いに任せてハンバーグ作りを始めた。


 いつもは俺が隣で常に監視して、何とか料理としての体裁を保っている。それなのに昨日は、一人で作ると言って、俺がキッチンに入るのを許さなかった。


 結果出来上がったのは、まる焦げになった炭の塊。


 あまりのおぞましさに吐き気を催すほどだったが、先に母さんが美味しいと言ってどんどん口に運んでいった。


 そんなにパクパク食べれるなら……


 俺は一縷の望みを抱いて、この黒い物体を口に含んだ。


 うん、不味い。めちゃくちゃ不味い。


 どうやら、自分で作ったという補正で、あらゆるものを美味しく感じられる状態だった母さんは、何事もなかったかのように完食した。


 挙げ句の果てには、『私ってもしかして、料理得意?』とまで抜かしやがった。


 一番可哀想だったのは、夜遅くまで家族のために仕事に励んで家に帰ってきた父さんを迎えたのが、この黒い物体だったという事実である。



「おっ、圭、おはよ……」


 俺がトイレへと急ぐと、父さんも同じようにお腹をさすっていた。


 俺たちは目を合わせて、自分たちの状況を哀れんだ。


「父さん使っていいよ、俺下の方行く」


 富樫家に、しっかりと二つトイレが付いていたのが、不幸中の幸いである。



 俺たちの腹痛がある程度治まると、俺たちをこの状況に陥れた張本人が起きてきた。


「あら、二人ともおはよう!」


「母さん、お腹大丈夫……?」


「えっ? 何もないけど……」


 どうやらこの人は、お腹にも相当の耐性が付いてるらしい。


「母さんは昨日晩御飯作ってくれたから、朝は俺が作るよ」


「あらそう、ありがとう」


「圭、頼んだ……」


 父さんが分かりやすく胸を撫で下ろした。まあ、二食連続あんなもの食べさせられたら、命に関わる。


 もちろん、作ろうとする努力は認めるが、料理スキルというのは、生まれながらに身についているものではない。


 母さん、練習しましょう。しっかり。



 俺は昨日の相楽家での朝食を思い出しながら、できる限り真似していく。


 やっぱり、さくらさんほど手際良くはできないが、まあまあ上手くはできたんじゃないか?


 俺は作った料理たちを並べていく。


「うわー、うまそうだな。圭、さすがだ」


 父さん、昨日との反応があまりに違うと、母さんが……


 母さんが般若の面を浮かべて父さんを見つめる。俺は関係ないです……


「まあまあ、食べようよ。いただきます」


 うん、美味い。


 特に味噌汁。やっぱり煮干しから出汁取ったのがでかい。


 二人の評価も上々だ。父さんは昨日の記憶が塗り替えられたようで、めちゃくちゃ喜んでいる。


「圭、前より料理上手くなったんじゃないか?」


「そうかな? あんまり変わってないと思うけど?」


「いや、上手くなってる。俺が保証する」


 父さんが胸を張って自信満々に言う。まあ、そんなに言ってくれるなら悪い気はしないけど。


「圭、今度料理教えて……」


 父さんばかりに気を取られていたら、母さんがいつもの威勢を完全に失っていた。


「教えられるほどじゃないけど、一緒に色々練習しようね。今度澪呼ぶなら、もっとレパートリー増やさないと」


「圭、あんたは本当にできた息子だよ」


 朝から両親に褒められる展開。全く予想していなかったが、まあ、たまにはこういうのも良いのか……?



 少しいつもとは違う朝食を終え、俺は自分の部屋に篭っていた。


 というのも、歌ってみたのMix作業がまだまだ残っていた。本当は昨日もやろうと思っていたが、そんな体力は残っていなかったので、今日に回していた。


 はぁ……、ちょっとめんどい。


 もちろん、やらなきゃいけない作業なのだが、難しいし、時間かかるしと、あまりやりたくなかった。


「まあ、やるしかないか」


 俺は気持ちを切り替えてパソコンに向かう。



 一度始めると、集中が続く性格だった。昔からそうだ。やり始めると早いのに、エンジンがかかるまでに時間がかかる。


 お昼前には、もうMix作業はほとんど終わっていた。


「だいぶ慣れてきたな……」


 初めは今の何倍も時間がかかっていた。まあ、何事も慣れなんだろう。将来、生かせるといいな。



 一仕事を終えた俺は気分転換に近くのコンビニに向かうことにした。


「父さん、コンビニ行くけど、何か必要なもんある?」


「あぁー、じゃあ、エナドリ買ってきてくれ。後でお金渡すから」


「ほーい」


 父さんは大体休日も家でできる仕事をしている。この人ほど忙しい人に俺はまだ出会ったことがない。


「じゃあ、いってきまーす!」


 俺は靴を履いて外に出る。



「ひゃぁぁ」


「えっ?」


 俺が玄関を開けると、一人の女子が家の前に立っていた。


「何で急に開けんだよ! びっくりすんだろ!」


「えっと……、ごめん。で、何の用かな、利奈さん……」


 俺の前に立っていたのは利奈さんだった。昨日もショッピングモールで会ったのに、今日は家まで来たのか……


「あんた、今から暇?」


「えっと、コンビニ行こうかなって思ってたけど」


「じゃあ、一緒に行くから。ほら、さっさと用事済ませて。話したいことがあるから」


 話したいこと……?


 俺に考える間を与えることなく、利奈さんがすぐに歩き出す。


「ほら、早く来て」


 俺の週末はまだまだ忙しそうだ。

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