第三十話 二人でショッピング
「圭君は今日予定あるの?」
朝ごはんの後片付けをしながらさくらさんが尋ねる。
「いえ、特には……」
元々今日は一人でゴロゴロしようと思ってたので、いつも通り予定はない。
「澪は?」
「私も特に予定ないけど……、お母さんたちは?」
「私たちはちょっと買い物に出ようかなと思ってたけど、二人も一緒に来る?」
ウチではショッピングと言えるような買い物はなかなかしていない。
月に3,4回、一気に食料品を買い込んで、洋服などはシーズンに一回くらいしか買いに行かない。
両親が忙しいのもあるが、俺も根っからのインドア派なので仕方ない。ちょっと面倒くさいし。
「いや、俺は遠慮s――」
「行きたい!」
俺の声を掻き消すように澪がうっきうきで同意を示した。
「圭君は、どうする?」
横で澪がキラキラした目で見つめている。
まぁ、かわいい彼女の頼みなら仕方ないか……
「じゃあ、俺も……」
という訳で、急遽、相楽家とのショッピングが決まってしまった。
一旦俺は家に帰り、外出用の服に着替えることになった。後で春樹さんたちが車で迎えに来てくれるらしい。
10時出発目標だそうなので、あと一時間ちょっとだ。
ウチまでは30分くらい。ちょっとギリギリかな。
それなのに。
「何で澪まで付いてきたの?」
澪はさっさと準備を済ませて俺に付いて来ていた。
「だって、圭と一緒にいたかったんだもん。」
くっ、かわいすぎるだろ……
「でも、女子って色々準備したいんじゃないの?」
「まぁ、普通はね。」
澪はダボっとしたTシャツに、フリルのついたガーリーなショートパンツを合わせていた。
ショーパンから伸びた白い脚に目が奪われる。
少し子供っぽい服装に感じられるが、うっすらとしかメイクしていない彼女の顔立ちはあまりにも綺麗だった。
「もう、そんな全身くまなく見ないでよ。どう? かわいい?」
「……うん、かわいい。世界で一番――」
何でこんな恥ずかしいセリフが言えたのだろう。恋の力は偉大だ。
俺たちは二人とも頭が沸騰しそうになりながら、ウチまでの道を急いだ。
澪をリビングで待たせて、俺は自分の部屋のクローゼットの中を眺めていた。
「やっぱり少ないな……」
俺のクローゼットは大分隙間があった。元々ファッションに興味がないのもあるが、外に出る機会も少ない俺は、服を全く持っていなかった。
「どうしようかな」
一つ一つ手に取りながら、やっぱり違うと戻すのを繰り返した。
やばい、時間がない。
「まあ、これでいいか」
着替えを済ませて、一階へ降りる。
俺の格好を見て、澪が少し驚く。
「どう、かな?」
俺が選んだのは、柄無し白Tシャツに、綺麗目な水色系のシャツに紺色のスラックスを合わせた上品な感じのコーデだった。
「うん、かっこいい。いつもと全然違う」
「そうかな……?」
澪がちょっとカジュアル系だったのであまり合わないかとも思ったが、喜んでくれたようで良かった。
「圭がこういうの持ってると思わなかった。私ももうちょっとちゃんとコーディネートした方が良かったかな……」
「ううん、澪は十分かわいいよ」
澪と俺はルックスの時点で大きな差がある。彼女に似合う男になるには、相当な努力が必要だ。
俺の褒められて澪の顔がまた明るくなる。やっぱり彼女は笑顔が似合う。
少し待っていると、春樹さんとさくらさんが迎えに来てくれた。
向かったのは近くのショッピングセンターだった。俺たちの地域では一番新しい所で、食料品から雑貨まで一回で揃えられる。
俺もオープンしてすぐに家族と来たが、あまりの人の多さに若干具合悪くなって帰って来た記憶がある。
「じゃあ、私と春樹さんは食料品見てくるから、二人は好きな所回って来ていいよ」
さくらさんが気を利かせて二人行動にしてくれた。
さくらさんは俺たちはもうずっと付き合っていると思っているが、実際は昨日恋人同士になった所である。いきなり二人きりは少し恥ずかしいかも……
「これじゃデートだね」
澪が俺が思っていたことを憚らずに言う。
「うん、何見に行く?」
2人きりの緊張と買い物下手な部分が出て、いつも以上に応答がぎこちなくなる。
「とりあえず、服見に行こ!」
俺の緊張をよそに、澪はずんずんと進んでいく。
「あっ、あそこ入ろうよ」
俺たちが入ったショップは、高校生でも比較的手が届きやすい価格帯で、デザインもなかなか良いものが揃っていた。
「ねぇ、圭、どっちがいいかな?」
澪が両手に持った服を交互に体に当てて見せてくる。
正直、どちらも澪の顔が全てのまとまりを与えていたが、こういう時にはっきり決められない男は嫌われるとどっかで聞いた気がする。
「……どっちも最高にかわいいけど、俺はこっちが好きかな」
最大限の配慮を払った発言。
「やっぱりそうだよね! 私もこっちのデザインの方が好きだな〜。やっぱり気が合うね、私達!」
どうやら正解を引き当てたようだ。俺の勘はこういう時にも上手く働いてくれるみたいだ。
「よし、じゃあお会計しちゃおう!」
想像してたよりもテキパキと買い物が進む。せっかちな彼女らしいと言えば彼女らしい。
「おっけ。次はどこ行くー?」
彼女はすでに二軒目を探し始めていた。まあ、相楽澪ファーストの俺はいくらでも付き合いますけど……
「あれ、澪?」
後ろから聞いたことがある声がした。
「……それに、富樫?」
俺たちに声をかけてきたのは小島さんだった。
「利奈!?」
「あんたたち、どういう関係……?」
小島さんがいつにも増して厳しい視線を向けてくる。とりあえず説明するしかないな。




