第三話 ズルい親友
学校が終わり、俺と恭介は俺の家へ向かった。
「お邪魔しまーす」
「はい、お邪魔されます。今日は父さんも母さんも仕事でいないって。」
「じゃあ、夜までいてもいいか?」
「いいけど、徹さんは?」
「父さんも、今日は会社の人と飲みに行くらしい。」
「じゃあ、飯も食ってく?」
「おう。」
夕飯は後でコンビニで適当なものを買えばいいだろう。そんなことより、恭介に話したいことがある。
そう。相楽澪について。
彼女が俺のファンであるという衝撃の事実が発覚したのは、ちょうど4時間ほど前である。お陰で午後の授業は全く身が入らなかった。
「恭介、ちょっと相談したいことがあって。」
彼はもう俺の部屋でスナック菓子を貪りながら、漫画を読んでいる。
「ふぇ?なに?」
気の抜けた返事をする彼に今日の出来事を全て吐き出した。
「へぇ、あの相楽さんがね。良かったじゃん。」
「良くないだろ!バレたらどうすんだよ!」
「でもお前、ちょっとは嬉しかったんだろ?顔見れば丸わかりだぞ」
相変わらず痛いところをついてくる。確かに、嬉しくないかと言われれば嘘になる。今まで自分のファンに直接会うなんて経験をしたことは無かった。自分の音楽が誰かの心に響いている。歌い手としては一番嬉しいことだ。
「それに、誰もお前が歌い手してるなんてすぐにはわかんねぇよ。」
「そっか。そりゃそうだよな」
誰もこんな陰キャが何をしているなんて興味がないだろう。それにたとえバレたって――。いや、やっぱりそれは恥ずかしい。
「そうだ、圭。何か歌ってよ。久しぶりにお前の歌聴きたい。」
そう言うと恭介は俺のギターを持ち上げて渡してきた。
「何でもいいのか?」
「あぁ、お前が歌いたいのでいいよ。」
「じゃあ……」
俺はギターを受け取ると、最近流行っているスリーピースバンドの曲を歌い始めた。歌詞は一番までしか覚えてなかったので、そこまでで勘弁してもらった。
「流石に上手いな、歌い手さん。それで?お前、相楽さんのこと好きなの?」
「へ?」
コイツは何を言っているんだ。俺は今歌っただけなのに、どこからそんなキモイ考えが浮かんだんだ?
「お前何言ってんの?頭おかしくなったんか?」
「だって今の選曲って、そういうことじゃないん?」
(今の選曲……? あっ。)
自分でも顔が赤くなっていることが分かる。最近流行っているからという理由で選んだが、ゴリゴリの恋愛ソングである。しかも叶わぬ恋を思い続けている的な内容の。
「お前、それは考え過ぎ。流石に。」
「えー、正直になりなよ、富樫圭くん。」
ニヤニヤしながらこちらを見てくる恭介。ウザい。ウザすぎる。俺は分かりやすく膨れてやった。
「ごめんって笑。で本当はどうなんですか?」
「そんなお前、今日初めて喋ったんだぞ。そんな簡単に好きなんかなる訳……」
なる訳……ない……はず、だよな。いや、そんな訳……。
言い淀む俺の顔を恭介がまた、ニヤニヤと覗いてくる。
「まぁー、相楽さん可愛いし。おまけに自分のファンだって言われちゃったんですもんねー。まあ、十分好きになる要素は揃っていると思いますよ。」
確かに彼女は可愛い。おそらく、俺が今まで出会った人の中で一番。でも。
「相楽さんが好きなのは”歌い手”のケイ出会って、同級生の富樫圭ではないんだよ。音楽的センスだけで見たら、俺は他の奴には張り合えるかもしれない。でも、現実の俺は、あまりにも冴えなくて。相楽さんに見合うわけもなくて。」
恭介は俺の言葉を遮ることは無かった。そして慰めの言葉を掛けてくれる。と思っていたが。
「お前、ふざけんなよ」
「えっ?」
「相楽さんに見合う男なんてこの世に何人もいないんだよ。歌い手のお前も、冴えない高校生のお前も、どっちも中身は同じ富樫圭だろうが。自分に自信がないんだったら、自分を磨くしかないだろ?それに、相楽さんはお前の『ファン』ってだけだ。何勝手に歌い手ケイだったら彼女と釣り合ってるみたいな口振りしてんだ?思い込みも大概にしろよ。」
何故俺は親友に怒られているのだろうか。全くわからない。でも確かに、彼の言う通りかもしれない。
「まあ、お前がアプローチしたところで、今のままじゃ、散っていたこれまでの男たちと同じ結果を見ることになるってことだ。」
「別に、付き合いたいとか思ってねぇし。」
今のところは。
「じゃあ、俺が先に告っちゃおうかな」
「それは……」
「それは……?」
コイツ、ズルい。自分の顔がちょっと、いや、大分いいからって調子に乗りやがって。
「ふーん、やっぱり好きなんだなぁ」
「ああ、好きだよ。何が悪い。」
何開き直ってんだ俺。コイツにはいつも勝てないな。何もかも俺より一枚上手で。
「で? お前がケイだってことは相楽さんには言わないのか?」
「うん。相楽さんガッカリしちゃうだろうし。ていうかこれからも絶対言わない。」
「じゃあ、とりあえずバレないように頑張ってください。」
「はい。まぁ、バレることはないだろ。たぶん」
結局恭介は22時過ぎまで居座った。
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