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第二十七話 一緒にお風呂!?

 相楽家に囲まれながらの夕食はなかなか賑やかだった。


「改めて圭君、今日はありがとね」


「いえ、こちらこそ。こんなに賑やかな食事は久しぶりです」


 ウチは両親が忙しく、こんなふうに家族みんなで食卓を囲むなんてことはなかった。特に中学校に上がってからは、月に一回有るか無いかという頻度になっていた。


「そう、それなら良かったわ」


 さくらさんが作ってくれた料理は本当にどれも美味しかった。さっきまでは食べ切れるかと心配していたが、これならペロリと食べれてしまいそうだ。


 俺は春樹さんとさくらさんからの質問に答えながら、お腹がパンパンになるまで、さくらさんの手料理を楽しんだ。



「ところで、圭君」


 春樹さんが急に真剣な表情に変わる。


「はい、何でしょうか……?」


「君は、澪とどこまでしたんだ?」


 春樹さんのぶっ込んだ質問に、一瞬場が凍りつく。


「ちょっと、春樹さん、いきなりすぎるでしょ?」


 さくらさんが春樹さんを嗜める。


「いやでも、今日はそのために来てもらったんだからさぁ……」


 どうやら、今日俺が呼ばれたのは、事情聴取のためだったようだ。


「もうちょっと聞き方が有るでしょ。ごめんなさいね、圭君」


「いや、俺は全然……」


 まあ、一人娘が初めて恋人を作ったとなれば、気にならないわけがないだろう。


「ちなみに、手を繋いだりとかは?」


「まだですね」


 ここは事実を言っといた方がいいだろう。でも、付き合ってるのに手を繋いだことがないのはおかしいか?


「じゃあ、キスとかも……」


「もちろんまだです」


 春樹さんの表情が段々と柔らかくなってきた。


「いやー、良かったよ。内心、もう同じベッドで寝てたりしたらどうしようかと思ったんだよ」


 え?


 俺がさくらさんの方を見ると、目を瞑って両手を合わせていた。口が小さく動いている。


(ご・め・ん)


 あぁ、俺がこないだ相楽家に泊まってたことは春樹さんには言ってないと。さあ、どうしようか。


 ちらっと横を見ると澪さんが俯いている。


 ちょっと、俺に任せたってこと? 勘弁してくれよ……


「あのー、春樹さん。実は……」


「うん?」


 まあ、ここは正直に言うしかないか。



「……と言う訳で、すみませんでした!」


 一通りこないだの件を話し終えた。女性陣は完全に沈黙していた。


 俺は自分の心臓の鼓動だけが聞こえている。どうか生きて帰れますように――


「そうだったのか……」


 春樹さんがゆっくりと顔を上げる。


「だったら早く言ってくれれば良かったのにー」


 あれ?


「こないだの日曜日だろ? こめんね、何もおもてなしできなくて」


「あのー、怒っては……?」


「ないない、これからもどんどん泊まりに来て良いからね。でも事前に言っていてくれないと、今日みたいな準備はできないんだけど」


 どうやら、春樹さんもさくらさんと同じくらいチョロいみたいだ。


 女性陣は必死に笑いを堪えている。澪さんもさくらさんも、春樹さんがこういう反応をすることは分かっていたのだろう。


 そしてビクビク怯えていた俺が面白くて仕方なかったと。


 さすが、相楽母娘はどちらも性格が悪い。



 その後も和気藹々とした雰囲気のまま、気がつくと時刻は21時を回っていた。


「そろそろお風呂にしましょうか」


「せっかくのお客さんだから、圭君たちから先に入ってもらおうか」


「そんなお客さんだなんて。……うん? 圭君たち?」


「そう、圭君と澪は一緒でいいだろ?」


 はい?


「そうね、私たちは後でいいから」


 やっぱりこの家族はすごい。恋人は何してもいいと思ってるんですか?


 一緒にお風呂なんて、一番恥ずかしいやつですよ?


 横で澪さんは顔を真っ赤にしている。


 いくら俺が澪さんのことが好きでも、一緒にお風呂はさすがに……


「……圭君、一緒に……入る?」


 澪さんが更に顔を紅くして聞いてくる。やばい、耐えろ、俺の理性。


「いや、今日は一人で……」


「あらそう、だったらもう沸いてるからいつでも良いわよ」



 俺は着替えを取りに澪さんの部屋に行く。澪さんも着いて来た。


「はぁ、疲れたー」


「お疲れ様、圭君。よくできました」


「ていうか、さっきのは何!?」


「何って……一緒にお風呂入りたいかなって」


 入りたいに決まってるでしょ!


 もしあそこで俺が一緒に入るって言ってたらどうするつもりだったんですか?


「あと、『澪』って呼んでって言ったよね」


「呼んでたと思うけど……」


「いや、お父さんに挨拶する時、『澪さんとお付き合い』って言ったでしょ!」


「いや、それは――」


「私は呼び捨てにして欲しかったなぁ」


 そんなかわいいセリフ言わないでください。恥ずかしいです。


「まあ、今日は許してあげる。ほら、早くお風呂入ってきな」



 澪さんに急かされ、お風呂をいただく。


 特に特殊な所はなかったのだが、いつも澪さんがここで……と思うと、ちょっと変な気分になってくる。


 これ、澪さんが先に入ってたら、俺ヤバかったな……



 俺の後に澪さん→春樹さん→さくらさんの順で入るらしく、風呂から上がると、俺は澪さんの部屋で待っててということだった。


 一人になると色々考えてしまう。


 相楽ご両親は完全に俺たちが付き合ってると思ってるし、ウチの母だってそうだ。


 もういっそのこと付き合えたら……


 もしかしたらイケるかもと思う時もあるけど、いざ話を切り出そうとすると、俺の弱い部分が出てしまう。


 今のこの関係に満足してしまっている自分もいる。もちろん、本当に付き合いたいとは思っている。でも、今の関係が壊れることへの怖さがある。


 自分が『ケイ』であると明かさなかったのも同じ理由だった。


 でも、澪さんは俺が『ケイ』であると分かっても変わらずに接してくれた。それどころかもっと仲良くなって……


 でも、恋愛にもこれが当てはまるのかは分からない。


 でも、勇気を出さないとここから先は進めない。



「ふぅ、お風呂気持ちよかった」


 澪さんがお風呂から戻って来た。


「ねぇ、圭君。話があるんだけどさ、いいかな?」


「うん、いいよ。俺も話したいことあるし」


 いつまで経っても踏み出せないなら、いっそ踏み越えてしまえばいい。


 さあ、頑張れ、俺。

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