第二十三話 広がる嘘
「いやー、まさかさくらちゃんの娘さんが圭の同級生なんてね」
「本当に、圭君のお母さんが真紀ちゃんだったなんて」
母親同士の会話は軽快だった。その横で俺と澪さんは小さくなっていた。
まさか母さんとさくらさんが高校の同級生だったなんて。まあ、母さんたちからしても、俺たちが同級生だったのは驚きだっただろうが。
「真紀ちゃんの息子なら、安心して澪のこと任せられるわ」
あ、ヤバい。
さくらさんには俺たちが付き合ってると嘘をついたままだった。
「それってどういうこと?」
「え? 澪と圭君は付き合ってるんでしょ?」
母さんの顔が凍りつく。まあ、そうなるよね。
「まさか……知らなかったの?」
「ええ、全く」
母さんが知ってる訳がない。そもそもそんな事実はないんだから。
「あら、もう二人でお泊まりする仲なのにね」
「お泊まり!?」
母さんはあまりの衝撃に開いた口が塞がらないようだ。確かに、ずっと陰キャだった息子が、高校入った瞬間彼女を作って、お泊まりまで済ませてるなんて聞かされたら、失神してもおかしくない。
特に母さんは繊細すぎるので、本気で心配したが。
「圭! 何で言ってくれなかったの!」
「ごめん、母さん……」
「ごめんってことは、本当に付き合ってるの……?」
「ああ、本当だよ」
さくらさんがいる前では嘘をつくしかないだろう。本当はさくらさんだけにしときたかったが、イレギュラー過ぎたから仕方がない。
ていうか母さん、うろたえすぎです。もうちょっと自分の息子に自信持ってくれてもいいんやで。
その後いろいろ詮索され、昨日澪さん家に泊まった(さくらさん曰く潜伏した)こともバレてしまい、なかなか気まずかった。
「圭、あんたなかなかやるわね」
母さんは息子の彼女がこんな美少女だと信じられないようで、澪さんの顔をジロジロと見つめていた。
「真紀ちゃん、圭君に怒らないであげてね。昨日は澪が無理言ってウチに連れ込んだみたいだから」
「あら、澪ちゃんも見かけによらずやり手なのね」
やり手って……。言葉を選んでくれよ、母さん。
その後も一時間近く質疑応答は続き、ありもしない馴れ初めを喋らされたりしたが、何とかして二人で乗り切った。
「もう、二人が結婚したら、私たち家族になっちゃうわね〜」
さくらさんもなかなかだったが、母さんも単純な人だ。それにしても、結婚は話が飛躍しすぎです。
「本当ね、早く孫の顔が見たいわ」
さくらさんも、そんな面倒くさい姑みたいなことを言わないでください。
ふと横を見ると、澪さんの顔がほんのりと赤くなっていた。そりゃそうだ。自分たちが結婚するだの、子供作るだのって話をされたら恥ずかしいのは当たり前。
そう考えると、俺も恥ずかしくなってきた。
澪さんと結婚……。まだまだ先だろうが、叶う未来はあるのだろうか。もし叶ったら……
「あら、二人とも顔真っ赤にしちゃって、いいわね、若い人の恋愛は」
「本当ねー、さくらちゃんも学生時代はモテまくってたもんねぇ」
「いや真紀ちゃんだって」
「さくらちゃんほどじゃないわよ〜」
上手く母親二人の気が逸れたので、そろそろ解放して欲しいところなのだが……
「まあ、もうこんな時間!」
俺の願いが通じたのか、さくらさんが帰る準備を始めた。
やっと解放されそうだー! 澪さんも相当疲れてるだろう。
「じゃあ、またお茶しましょうね」
「うん、さくらちゃん、またね。澪ちゃんも圭のことよろしくね」
「はい、こちらこそ」
二人を見送った後、母さんは大きく背伸びをする。
「はあ、久しぶりにさくらちゃんと会ったと思ったら、息子に恋人がいることが判明するなんて、思ってもみなかったわ」
俺も一日でこんなに嘘つくとは思いませんでした。さくらさん一人ならまだしも、相楽家、富樫家ともに嘘が広まっていると考えると、これから釈明する時の気が重い。
このまま、付き合えたらなぁ……
まあ、無理だろうけど。
文化祭も終わり、通常の授業が再開された。と言っても、あと1週間もすれば夏休みなので、みんな心なしかテンションは高い。
うちの学校はなかなか変なスケジュールだと思うが、3年経つ頃には慣れるんだろう。多分。
「おはよ、圭君。昨日はごめんね」
「いや、こちらこそ。うちの母さんいつもああなんだよ」
「ううん、明るくていいお母さんじゃない?」
「まあ、そうなんだけど。毎日顔合わせるとちょっと気怠く感じるんよね」
「それは……ちょっと分かるかも」
澪さんとは前よりも格段に話しやすくなっていたが、やはり学校モードの澪さんは輝き過ぎて、少し他人行儀になってしまう。
一昨日の全てが緩んだ澪さんをまた見たい。もちろん今もかわいいのだが、あの時のあざとさは言葉では形容し難いほどのものだった。
「圭、また口角上がってるぞ」
恭介の指摘で気づいた。この癖直さなきゃなぁ。澪さんにバレたら絶対からかってくる。
「ねぇ、圭君。今週いつ家行っていい?」
澪さんに急に話しかけられて少しドキッとしてしまったが、出来るだけ冷静に振る舞う。
「ああ、基本的には平日ならいつでも……」
「じゃあ、金曜の放課後ね!」
そう、今週から澪さんとの一対一での定期ミニコンサートが開かれることになっていた。
「圭、俺も……」
「恭介、お前はまた今度な」
「けっ、薄情な奴!」
恭介がいると心強い部分もあるのだが、また暴走されたら、何がバレるか分からない。
それに、そろそろ澪さんに向き合いたかった。自分のファンとしてではなく、俺の好きな人として。
とりあえず、今日からまた最近の曲覚えなきゃ……




