第二十二話 自由人・相楽澪
文化祭の片付けは、予想通り一時間足らずで終わった。
「よし! じゃあ解散!」
森田先生の号令で片付けの終わりが告げられる。また明日から憂鬱な学校が始まってしまう。
「圭、今日秀一さんと真紀さんは?」
「え? どっちも仕事だけど……」
「じゃあ、この後お前ん家行っても……?」
「もちろんOK」
恭介が小さくガッツポーズを作る。俺の部屋でただゴロゴロするだけで何が楽しいかと言われたら、答えに困ってしまう。でも、俺たちにとって二人で過ごす時間は何にも変え難い、大切な時間だった。
「じゃ! 早速行きますか!」
恭介がルンルンで教室を飛び出す。俺もゆっくりと着いていく。
今日もまた夜まで居座るつもりだろう。まあ、大歓迎だが。
俺たちが階段を降りて生徒玄関に向かおうとしていると、後ろから声が降ってきた。
「ねぇ、私も混ぜてよ!」
声の主は澪さんだった。階段の一番上で仁王立ちしている。
「え……? それは俺の家に来るってこと?」
「当たり前でしょ?」
この人はどこまで自由人なんだろう?
恭介との大切な時間だ。今日は断った方が……
「もちろん良いよ! そうと決まればさっさと行こうぜ!」
あれ? 何か恭介もノリノリ……?
二人の勢いに圧倒されながら、澪さんが俺の家に来ることが確定した事実に驚きを隠せない。
ていうか、全く掃除もしてない俺の部屋に澪さんが上がるのって、ちょっとヤバくないか。何で片付けてないんだ、過去の俺。
俺が無駄な後悔をし終わる前に、俺の家は無常にも近づいてきていた。
「さぁ、どうぞ」
恭介が両手を広げて中へと案内する。いや、俺の家なんですけど?
「お邪魔しまーす」
「圭の部屋は2階だから」
「えっ、ちょっ、待って」
俺の抵抗虚しく、階段を駆け上がっていった二人は俺の部屋に飛び込んだ。
「へぇー、これが圭君の部屋かぁ」
澪さん、あんまり隅々まで見ないでください。
澪さんに見せられないものは隠してあるので、特に困ることはないが、やはり自分の部屋を見られるのは恥ずかしい。
「どう? 汚いでしょ」
「恭介、いい加減にしろよ!」
コイツは普段は頼れるのに、一度暴走しだすと止まらない。澪さんの前で暴走されると、これからに影響が出てくる。
「わぁー、ギターだ。マイクとかもある」
「あのー、俺の部屋の鑑賞はそろそろ終わってもらっても……」
「分かった。じゃあ、一曲何か歌ってよ」
澪さんも自由人を大いに発揮してますね。はい。
有無を言わさずギターを渡してくる澪さん。俺を見る目がキラキラし過ぎて眩しい。
「もう、何がいいですか?」
「じゃあ、こないだカラオケで歌ってくれたやつ」
「あぁ、俺もそれがいいな」
なぜが知らないが、俺の親友の暴走車と俺のファンの自由人の前で、ミニコンサートが開催されつつあるが、これも全て受け入れるしかないのかな?
……とりあえず歌うか。
こないだよりは緊張しなかった。カラオケでは初めて『ケイ』だとバラすのもあったし、恭介以外とのカラオケも初めてだったので、プレッシャーが半端なかったが、今日はのびのびと歌えた。
「すごーい、やっぱり上手だね」
「さすが歌い手さんだなぁ」
「恭介、お前は馬鹿にしてるよね」
うん。楽しいです。親友と好きな人と一緒に、大好きな音楽に触れる時間。退屈なわけがない。
「ねぇ、次歌ってよ!」
澪さんがアンコールと手拍子を始める。
一曲歌ったらアンコールも少し違和感があるが、期待には応えよう。
結局その後10曲近く歌わされ、俺の疲労もなかなか溜まっていた。
「よし、そろそろ終わろう」
「えー、もうちょっと聞きたかったなぁ」
「また次の機会ね」
今日はもう無理です。はい。
「えっ! 次の機会って、また来ていいってこと?」
しまった――
「嬉しいなぁ、圭君。じゃあまた来週ね」
「え? 来週?」
「うん。なんか予定あった?」
「ないけど……」
「じゃあ決定!」
あまりにもテンポよく次の予定が決まってしまった。
「えー、俺ももっと相手して欲しいな、圭君♡」
「お前は当分出禁な」
泣きついてくる恭介を払い除けながら、二人を見送る。
「じゃあ、またね」
澪さんが靴を履いて玄関のドアノブに手を掛けようとした時、外の方からドアが開けられた。
「ただいま……って、ごめん、お取り込み中だった?」
「母さん、早かったね?」
「うん、それがね、たまたま昔の同級生に会っちゃって、仕事早く切り上げてウチでお茶でもしようかなって思ってたんだけど……。外出た方がいい?」
「あっ、お母様、お気になさらず。私すぐに帰るので」
澪さんと恭介が気を利かせてすぐに帰ろうとする。
「あれ? 澪?」
外に出た澪さんが誰かと話している。
「圭、コーヒー準備しといて。どうぞ〜さくらちゃん」
さくらちゃん……?
俺の嫌な予感はよく当たる。ドアの向こうから姿を見せたのは、澪さんのお母さん、さくらさんだった。
さくらさんが俺の顔を見て、明らかに驚いた顔をする。
「真紀ちゃん、あなたって、圭君のお母さん……?」
「えっ? そうだけど、どうして圭のこと……?」
さぁ、これは面倒くさいことになったぞ……。




