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第二十話 初めてのお泊まり②

「……ねぇ、圭君」


 耳に息がかかり、思わず体が震える。


「おはよう、そろそろ6時だよ」


 重い瞼を開けると澪さんが体を起こしてカーテンを開けていた。


 窓から朝日が入り込む。7月も半分が過ぎ、最近は気がつくと明るくなっていることが多くなった。眩しいほどの光が澪さんの顔を照らす。朝からこんな綺麗なものを目に映したら、今日見るものは全て霞んでしまいそうだ。


 なんやかんやあって澪さんの部屋で一晩過ごした。隣で澪さんがいる状況で寝れるかと心配していたが、あれだけハードな一日を完走した俺の体は睡魔に簡単に屈したようだ。



「多分まだお母さんたち寝てるから、今のうちに」


 そうだった……


 これから俺には相楽ご両親にバレずに相楽家を脱出するというハードミッションが残されていた。


 荷物をまとめていると時刻は6時過ぎ。まだ起きないでください……。


「じゃあ、行くよ」


 部屋の扉を開ける。


 ……よし。まだ起きてないみたいだ。


 念のため澪さんが先陣を切って下に降りる。


 下まで降りた澪さんは、頭の上で指先を合わせて大きな丸を作る。


 静かに一段一段階段を降りる。一階まで降りれればこっちのもんだ。玄関で靴を履いて外に出ちゃえば――


「あら? 今日は学校午後からじゃなかった?」


 後ろを恐る恐る振り返ると、そこにいたのは、優しい微笑みを浮かべるさくらさんだった。


「あなたは……」


「どうも……富樫圭です……」


「覚えてるわ、富樫君、この前も来てくれたよね?」


 さくらさんとは文化祭の買い出しの後に一度お会いしている。まさかこんな形で2回目の対面を果たすとは思わなかったが。


「お母さん、これは違うの、私が無理言ったからで、圭君は悪くない――」


「まあまあ、悪くないかは私が判断します。一旦お話ししましょ」


 さくらさんは笑顔を崩さず、それでもキッパリと言葉を繰り出す。


 これじゃ本当に生きて帰れないかも……



 相楽家のリビングには異様な空気が流れていた。何も言葉を発さない澪さん。笑顔を崩すことはないさくらさん。そしてただただ小さくなっている俺。


「それで、あなたはいつからうちに潜伏していたの?」


「昨日の夜からです……」


「まあ、気づかなかったわー。ごめんなさいね、何もおもてなしできなくて」


 静かな圧を感じる。澪さんと似ているなとか思ってたけど、澪さんにはない圧倒的な威厳がさくらさんにはある。


「それで、澪? あなたたちはどういう関係?」


 質問の矛先が澪さんへと移動した。


 これは一緒に謝ったほうが……


 って、あれ?


 なぜか澪さんは笑顔だった。そして、俺にパチリと左目を閉じて見せた。何だこの余裕は?


 やばい、嫌な予感がする。


 俺の不安をよそに、澪さんは大きく口を開いた。


「お母さん、私と圭君は付き合っています!」


 当たってほしくない時ほど、俺の予想はよく当たる。それは今、この絶体絶命な状況も変わらなかった。


「あら、そうだったの」


「そう! 恋人同士なら一緒に泊まってもおかしくないでしょ?」


「ふーん……」


 澪さん、それは流石に厳しくないですかね。さくらさんがこんな安直な嘘を信じる訳……


「そうだったの! だったら早く言ってよ〜」


 うん? 明らかに口調が柔らかくなってる……?


「圭君、ごめんなさいねぇ、変に緊張させちゃって。娘が男を連れ込むなんて初めてのことだったから、私、変に疑っちゃって……」


「いっ、いえいえ、そんな」


 これは……作戦成功?


 やはりさくらさんを一番分かってるのは澪さんだったということなのか。



「圭君、朝ごはん食べてく? 食べてくよね?」


「あっ、じゃあ……」


 完全に俺を信頼しきった様子のさくらさんはノリノリで朝ごはんの準備を始めた。


 たとえ娘の彼氏であったとしても、普通は無断で家に泊まったのだから咎めそうなものだが……


「……ごめんね、圭君」


「いや、助かったよ」


 澪さんが申し訳なさそうに謝ってくる。謝んなきゃいけないのは、さくらさんに対しての気がするが、今バレるわけにはいかない。


「とりあえず、うまく口裏を合わせよう」


 さくらさんには落ち着いたら謝ろう。


 それに、澪さんが付き合ってると嘘をついた時、正直嬉しかった。歌い手だとバレたが、彼女との関係は壊れるどころが進化した。「隣の男子」から「友達」へと。


 そしていずれは……。


 そんな想像をしている俺はやはり変態なのだろうか。というか、まだそんな段階じゃないのに同じベッドで寝たんだから、意識しない方が無理である。


 澪さんも意識してたり………はしてないか。



 さくらさんが用意してくれたのは、THE・和食の朝食って感じのメニューだった。焼き魚に卵焼き、味噌汁に大盛りご飯。菓子パンひとつで済ましている俺にとっては、まさに理想の朝食だ。


「いただきます」


 当たり前に味も素晴らしく美味しかった。ウチの両親はどちらも料理が苦手なので、俺がキッチンに立つ機会も多いのだが、もちろんこんなに上手くは作れない。


「すごく美味しいです」


「あらーホント? それならよかったわ〜」


 さくらさんが嬉しそうに微笑んでくれる。


「澪、いい彼氏捕まえたわね」


「そうでしょ?」


 そう言いながら澪さんが腕を掴んでくる。


「もう、見せつけないでよ〜」


 近い。昨日から距離感がおかしい。いくら演技でもこれは……。


 朝ごはんを食べ終わるまで、相楽母娘のテンションの高さに圧倒されながら、時間は過ぎていった。


「じゃあ俺、そろそろ帰りますね」


「あら、そう? 気をつけてね」


 澪さんとさくらさんに見送られながら俺は相楽家を後にした。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

無事に二十話を迎えることができ、嬉しく思います。これからも定期的に更新していきたいと思いますので、是非チェックしてみて欲しいです!

ブクマ、評価等もありがとうございます。励みになってます。


次回もお楽しみに!

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