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第十五話 お化け屋敷にて

「キャーーー!」


 澪さんの事件性のある悲鳴が響き渡る。


 お化け屋敷の仕掛けは、原始的なものが多かったが、澪さんにとっては腰が抜けるほどの恐怖だったようだ。


「圭君……、私……もう無理……かも……」


 まさに息も絶え絶えと言った感じだ。そんなに怖がりなのに、何でお化け屋敷に行きたいなんて言ったんだろう。


「圭君、先に行って……」


 真ん中ほどまで来ただろうか。澪さんの足を見ると小刻みに震えている。


「しょうがないなぁ」


 ゆっくり進みすぎても、後ろに迷惑だろう。


 今までお化け屋敷で怖いと感じたことはなかった。もちろん、物が急に飛び出してきたりすると、反射的にびっくりすることはあるが、普段通り鈍い男なので、その反応も薄いと言われることが多かった。


 俺が先に進もうとすると、本当に行くのかといった表情で澪さんが見つめてくる。


「進まなきゃ出れませんよ、怖がりさん」


 少し揶揄ってみたが、彼女には応える余裕は無さそうだ。俺の腕をギュッと握っている。


 さっきまで身バレを誤魔化すのに必死だったが、今こうして冷静になると、彼女は俺の好きな人な訳で。そう考えると別の意味で緊張してくる。



 彼女に合わせてゆっくり進んでいくと、右側から手が伸びてくる。


「冷たっ」


「イヤァァーーー」


 二人の反応は両極端だった。いつも大きなリアクションをとっている澪さん。お化け屋敷からしたら、理想のお客さんだろう。


 その後も何個か仕掛けがあったが、その度に彼女の悲鳴がこだました。



 やっと見えてきた出口に澪さんが急に元気になる。


「あれ、出口でしょ。早く行こ!」


 こういうのは大体最後に仕掛けが残っているものだ。


 予想通り、元気よく歩き出した澪さんの足を、下からぬるりと伸びた手が掴んだ。


「ひゅぅ」


 恐怖のあまり聞いたことがない声を出す澪さん。同時に俺の腕に体全体で抱きついた。澪さんの体の感触が腕を通じて伝わってくる。


 やっとの思いでお化け屋敷を出た俺たち。


「澪さん、もう終わったよ。ほら、腕を離して」


「嫌だ! もうちょっと!」


 まるで5歳児のような駄々のこねかたをされてしまった。なんか、今日一日で澪さんのイメージが変わりすぎている気がする。


 俺の腕を離そうとしないどころか、さっきよりも強く抱いてくる澪さん。


「ちょっと…… 誰か知ってる人に見られたら……」


 口ではこう言ってみるが、好きな子に体を近づけられて嬉しくない男なんていない。できるならこの時間がずっと続いてほしい。


「うん、そうだね……」


 澪さんが落ち着きを取り戻したようだ。やっと体を離した。少し残念だが、ここは学校。周りに変な勘違いされるよりは良いだろう。



 文化祭は残り二時間ほどとなっていた。


 正直、怒涛の展開が続き過ぎて、この後楽しめるかは微妙なところだ。澪さんと二人きりでいたい気持ちもあったが、身バレに繋がる証拠を掴まれないようにと気を張り続けるのも疲れる。


 それは、澪さんも同じようで。


 次はどうしようかと話し合っていると、見覚えのある姿が視界の隅を通り抜けていった。


「あっ、恭介」


 やはり頼りになる男、北原恭介。このタイミングで彼に出会えたことは幸運以外の何物でもないだろう。


「おっ、圭。それに相楽さん」


「恭介君、シフトは終わったの?」


「うん、ちょうど今ね。二人は今何してんの?」


 さすが恭介。俺が澪さんと一緒に回ることはもちろん知っているが、そんなそぶりは微塵も見せない自然な会話。コイツ、やる時はやる男だ。


「次何しようかって考えてたトコ。そうだ、お前も暇なら一緒に回る?」


 俺は澪さんに見えないように片目を瞑る。


「ああ、二人がいいならそうさせてもらおうかな」


 恭介は俺からのSOSを感じ取ってくれた。


 細かいことは後で話そう。今は二人きりじゃないことで相当身バレのリスクを軽減できる。


「じゃあ、体育館行こうよ。何かしらやってるっしょ」


 恭介の鶴の一言で行き先まで決定し、俺たちは歩き出した。



 体育館に着くと、ちょうどカラオケ大会が行われていた。


 このカラオケ大会は毎年恒例のもので、誰でも音源を持っていれば飛び入りで参加できるというものだった。


 今はちょうど2年の先輩が人気バンドの曲を熱唱していた。


 いつもだったら音楽の話題ならすぐに食い付くところなのだが、澪さんがいるとそうはいかない。


 その空気を感じ取ったのか、恭介も音楽以外の話題をたくさん振ってくれる。なんて頼れる親友なのだろう。


 澪さんも目の前の発表を楽しんでいる。恭介が俺の歌い手活動を知っているか確証がないのだろう。あくまで自分だけが真実を知りたいようだ。



 気がつくと時間は過ぎていっていた。校内放送で文化祭の終わりが告げられる。


「これで第52回北楼祭を閉祭します!」


 生徒会会長の声がスピーカーから響き渡る。俺たちも教室に戻った。午後は一度もメイド喫茶に顔を出せていなかったが、恭介や小島さんの指示もあって、無事に終わったようだった。


 興奮冷めやらぬ中、森田先生が明日の連絡を始める。


「明日は午後から出校で教室の後片付けがあるから忘れずに登校するように。今日はしっかり体を休めて明日に備えるように」


 森田先生からの諸注意が終わると解散ということになった。


 これで俺の高校初の文化祭は終わりを告げた。


「圭、お疲れ様。俺たち頑張ったよな」


「ああ、恭介色々ありがとうな」


「おう、相楽さんと何があったか後でちゃんと聞かせろよ」


「分かってるよ」


 恭介と互いの働きを労っていると、澪さんと小島さんが近づいてきた。


「二人ともお疲れ様。ねぇ、二人ともこの後暇?」


「まあ、暇だけど」


 俺も恭介もさっさと帰って寝ようと思っていたところだ。


「よかった。じゃあ実行委員4人で打ち上げしようよ!」


「打ち上げ……」


 俺は今まで「打ち上げ」というものに参加したことはなかった。参加してみたい気持ちはあるが、今は澪さんと関わり過ぎると何かと不都合がある。


「場所は駅前のカラオケね。あの安いトコ」


 カラオケ……? それは不味くないか?


 どういう形なのかは分からないが、カラオケって歌を歌うところだよね……


 いやでも、最近は飲み食いして駄弁って帰る人も多いみたいだし、大丈夫か?


 でも澪さんは俺が歌い手じゃないかと疑っている訳で。そしたら歌わされる可能性も……



 俺がウジウジと考えていると、いつの間にか話はまとまりつつあった。


「じゃあ、行こっか。圭君、恭介君」


 相楽さんの笑顔がいつもより不気味に見える。


 まだ俺の緊張は解けなそうだ。

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