第十四話 突然の身バレ
まずは腹ごしらえと、俺と澪は、模擬店で食べ物を物色した。
昨日恭介と一緒に昼食を取ったベンチまで移動する。
「へぇー、こんなとこあったんだ」
ここなら静かに食べられるねと喜んでいる澪はとてもかわいい。まあ、何もしていなくてもかわいいが。
俺は昨日と変わらず焼きそばと焼き鳥、澪は焼きそばとクレープを持っていた。
「圭君は、あっごめん、圭は――」
「圭君でいいよ、俺も澪さんにするし」
「でも、せっかく澪って言ってくれたのに……」
「これからもっと仲良くなってから呼び捨てにしよう。もちろん、澪さんが良かったらだけど」
いきなり距離を詰めすぎても良くない。確かに、澪さんが圭って呼んでくれたのは嬉しい。でも、彼女とはもっと慎重に距離を詰めたかった。
今この瞬間は、彼女は俺の好きな人で、かわいい同級生だ。でも同時に彼女は歌い手『ケイ』のファンでもある。
最近学校が忙しくて意識することも少なくなっていたが、彼女との距離が近くなるということは、歌い手活動がバレる可能性も高まる訳で。
もしバレて今の関係が壊れてしまったら――。そう考えると慎重になってしまう。
「うん、分かった。じゃあ圭君」
「はい、何ですか。澪さん」
「君は歌い手活動をしているね?」
え?
俺の箸が止まる。
バレた……?
「その反応だと、やっぱり君は『ケイ』なんだね」
澪さんがクレープを口に運ぶ。
「いや、待って。『ケイ』って澪さんが好きって言ってた歌い手だよね。なんで俺がその『ケイ』だと思ったの?」
さっき『やっぱり』と言った彼女にはそれなりの理由があるのだろう。
澪さんはもう一口クレープをかじってから話し始める。
「まずは、あなたの名前」
「圭なんて、いくらでもいるよ」
「そして年齢」
「それもたくさん――」
「もちろん、私もここまでは偶然だと思っていた。」
やはり、それなりの根拠がありそうだ。でも、こんな時にバレるわけにはいかない。
「最初に怪しいと思ったのは、あなたが好きな映画」
映画……?
「俺、澪さんに映画の話なんてしたっけ……?」
「いや、してないよ。私にはね。」
「じゃあ何で?」
「あなたと恭介君の話が聞こえてきたの。もちろん、盗み聞きした訳じゃない。でも、あなたが好きと言ってた映画。前、『ケイ』も好きって言ってた」
「ちょっと待って、それだけ? その映画、結構ヒットしたやつだよね。俺とその『ケイ』がどっちもその映画が好きな可能性もあるよね?」
出来るだけ冷静に。好きな人に詰め寄られる気分は良くはないが、ここで逃げに走っても疑惑を深めるだけだ。誤解を解かなければ。
あっ、誤解ではないのか。
「もちろんそれだけじゃない!」
まだ弾はあるらしい。それでも全て受け止めてやる。
「君、ギターやってるでしょ」
本当にどこでバレたんですかね。すごいですよ、あなた。
「証拠はあなたの左手。こないだウチでメイド服のフリル直してくれた時、左の指の皮だけ硬かった。私が指ぬき使ったところを、あなたはわざわざ左の指で押してた」
「そんな、ただの癖で……」
「へぇ、癖ねぇ……」
澪さんが不敵な笑みを浮かべている。いつものかわいい笑顔とは一味違うが、こっちもかわいい。
なんて、そんなこと言ってる暇はない。弁明がまだ終わっていない。ここで『ケイ』だと認めてしまったら、この後の文化祭の日程が気まずすぎる。
「たとえ、君が言ったことが全て合っていたとしても、俺が『ケイ』であるという証拠にはならないよね」
「うん、確かにそうだね」
「実際、俺は歌い手活動なんてしてない」
「口では何とでも言える。私は絶対諦めないから」
澪さんの剣幕に圧倒されそうになったが、こんなとこで引けない。
「へぇ、頑張ってね。徒労に終わるのは確定してるけど。」
俺の好感度が爆落ちしてるのはひしひしと感じられるが、仕方がない。
少し気まずい空気が流れたが、澪さんがすぐに打ち破った。
「ねぇ、この後どこ行く? 私的にはお化け屋敷とかいいかなって思ったんだけど。圭君は?」
さっきまでとは裏腹に、いつもの明るい澪さんだ。ちょっと怖いよ、あなた。
「うん、いいんじゃない。ちょうどお昼時だから人もあまり多くないんじゃないかな」
俺はさっきを少し引きずってるから、少し他人行儀になってしまう。
「じゃあ決まりだね! 文化祭全力で楽しむぞ!」
いやいや、あなたさっきまで俺を問い詰めてたんですよ?
まさかこんなに早くバレるとは思っていなかったが、とりあえずはごまかせた。あとは平静を装うしかない。
俺たちは校舎内に戻り、お化け屋敷へと足を運んだ。1年E組の教室に着くと、人はまばらで列もそこまで長くなかった。
隣の澪さんはずっと俺を不審そうに見ている。
あのー、そんなに見ても『ケイ』へのヒントはありませんよ……
「ねぇ、圭君はお化け屋敷得意?」
「うん、所詮は人間が化けてるだけじゃん」
「えー、でも、もしかしたら本物かもとか思わない?」
「もしかして、澪さんは苦手なの?」
図星のようだ。明らかに不安そうな顔に変わる。これからの身バレ防止戦争へのアドバンテージにも、彼女の弱みを知っておくのはいいことだろう。
「じゃあ、今回は澪さんが前で」
「ひぇぇ……」
そんなやりとりをしていると、俺たちの番がやってきた。
楽しみだなぁ…… ねぇ、澪さん?




