第十二話 まさかの提案
午後は結局メイド喫茶の手伝いで時間が過ぎていった。
父さんと母さんもさっき着いたと連絡が入ったが「勝手に見たいもの見て、食べたいもの食べて帰るから気にしなくていいよ」とのことで、特に接触することも無さそうだ。
せっかく時間取って来てくれたので、俺らの出し物も来て欲しかったが、相変わらずの長蛇の列なので両手を広げておすすめはできなかった。
その後は大きなハプニングもなく、1日目の一般公開の時間が終わろうとしていた。
「圭君、ありがとうね。シフト以外のところもいっぱい手伝ってくれて」
相楽さんがわざわざお礼を言いに来てくれた。
シフト外も手伝っていたのは相楽さんも同じだった。それでも疲れの色を見せず明るく接してくれる。彼女のそんな人柄が皆を惹きつけるのだろう。
「いや、相楽さんこそ。今日はずっと教室にいたんじゃない?」
「うん、結局そうなっちゃったね。やっぱり皆がちゃんとできるか心配で……」
事前に皆には仕事内容を周知していたし、責任を持って果たしてくれていた。それでも責任感の強い相楽さんにとっては心配だったのだろう。
確かに相楽さんがいるだけで安心感がある。それは俺だけではないだろう。
でも、せっかくの文化祭だ。彼女にも楽しんでもらいたい。
「相楽さん。明日はしっかり文化祭楽しんでね、今日の分も。こっちは俺たちに任せてくれていいから!」
不安はある。でも、恭介や小島さんもいる。きっとうまくやれるだろう。相楽さん一人に負担がかかりすぎるのは避けたい。
「でも……」
なかなか相楽さんは首を縦に振らない。少々強引でも、相楽さんには文化祭をもっと楽しんでほしい。
お節介でも良い。俺みたいな陰キャにもできることがあるなら、相楽さんのためになるなら。
俺の真っ直ぐな視線を感じ、相楽さんは目を背けた。まだ考えているようだ。ここで押し切らなければ、相楽さんの性格的に明日も教室に張り付いてそうだ。
「うん、分かった」
やっと相楽さんが同意を示した。
少しウザがられてしまったかもしれないけど、明日相楽さんが楽しめるなら、それで良い。
「じゃあ、明日は任せて!」
不安の色を感じ取られないよう、慣れない笑顔を向ける。
「ありがとう、圭君。でも、君には任せられない」
相楽さんが真剣な表情で言い放つ。あまりに急な否定に言葉を上手く紡げない。
俺には任せられない……?
確かに相楽さんにとっては俺みたいな奴は頼らないかもしれない。
でも、この3週間一緒に準備してきたではないか。相楽さんには俺の頑張りは伝わっていなかったのだろうか。
相楽さんの部屋で一緒にメイド服を直したり、買い出しに行ったり、前日の準備だって一生懸命やった。
好きな人からの急な否定に、俺の思考は止まりかけている。今すぐこの場を離れたい気分だ。
やはりでしゃばり過ぎたか。俺なんかが相楽さんにアドバイス……?
確かにおかしい話だ。俺の勝手な判断で彼女の行動を制限しようなんて。あぁ、後悔。
俺が一人でネガティブの沼に沈んでいく中、相楽さんはまだ何かを言いたそうにしている。
何ですか? いっそのこともう言っちゃってください。
「圭君、ごめん。任せられないっていうのは圭君を信用してないとかってことじゃなくてね……」
相楽さんはまた言い淀む。
「あのね……」
もったいぶる相楽さんに俺は少しイライラしていた。好きな人から否定される言葉を待っているのである。できれば避けたい状況だろう。
「圭君、もしよかったらなんだけど……」
何かお願いがあるらしい。もう今なら全て受け入れますよ。犯罪行為じゃなければね。
もう開き直って軽く無敵状態の俺に、相楽さんが意を決したように口を開いた。
「明日、文化祭一緒に回らない?」
え? 今何とおっしゃいました?
「いや、ごめん。圭君は恭介君と回るよね。ごめん、私何言ってるんだろう。」
「良いよ」
気がつくとOKを出していた。
「え! 良いの!」
相楽さんがいつもの笑顔に戻る。うん、かわいい。
相楽さんから告げられた突然の提案に、俺の感情はジェットコースターだった。
とりあえず、相楽さんに嫌われている訳じゃなくて良かった。
いや? 良いのか、これ?
「相楽さんこそ、俺なんかで良いの? 小島さんとか、もっと仲良い人と回った方が楽しいんじゃない?」
俺と違って相楽さんには多くの選択肢があるだろう。その中でわざわざ俺を選ぶ……?
嬉しい気持ちと不思議な気持ち、さっきまでの不安の残り香で頭おかしくなりそう。
「う〜ん、それが利奈は明日、私とシフトが真逆で一緒に回れないし、他の人ももう別の人と約束してるだろうし……」
「それで、暇そうな俺なら、と……」
うん。ちゃんと消去法でした。
でも、消去法で残るには、まず選択肢に入らなければいけない。それが叶っているだけでも十分です。
「本当にいいの?」
良いに決まっているでしょう。俺はあなたのことが好きなんですから。
「もちろん」
「じゃあ、明日、待ってるね」
あまりに突然訪れたチャンス。俺は一人で浮かれていた。
その後すぐに解散となって家に帰った。
ベッドの上で明日のことを考える。相楽さんと一緒に文化祭を……。考えるだけで口角が上がる。
俺としたことが、浮かれ過ぎだ。明日のことを考えただけでこの有様なのに、明日は生きて帰れるだろうか。
一応恭介には知らせておくか。
俺はスマホを取り出して恭介にメッセージを送る。
すぐに返信が返ってきた。
圭
「明日、相楽さんと一緒に文化祭回ることになった」
恭介
「お前、俺という親友を置いて女を取った……?」
圭
「あっごめん」
恭介
「嘘、嘘笑 楽しんで来いよ」
いつも通りの恭介に少し安心する。恭介に言ったところで特に意味はないのだが、何かあったら助け舟を出してくれるだろう。
まあ、何も起きないだろうが。
結局夜まで俺の思考はフル回転していて、なかなか眠りにつかなかった。
明日起きれるかな……




