表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/51

第十一話 予想以上の集客

 2Lのペットボトルがパンパンに詰まったビニール袋が俺の両腕をもぎ取ろうとしている。


 長年ちゃんとした運動をしていない俺にとっては、この買い出しも重労働である。骨と皮しかないような俺の腕から常に悲鳴が聞こえていた。



 やっとの思いで学校へと帰還した。


 校門をくぐったところで、男子の二人組の会話が聞こえてくる。先輩だろうか?


「なあ、お前メイド行ったか?」


「いや、まだだけど。1Cのやつでしょ?」


「うん。そこでメイドやってた女子がアイドル並みにかわいくてさ!」


 どうやら相楽さんの話らしい。やはり彼女の美貌は学校中で話題になるほどなのだろう。


「そんな子がこの学校にいたんだな……俺狙っちゃおうかな」


「おい、もう先客がいるに決まってんだろ」


 一人が分かりやすくふざけてみせる。



 やけに心がモヤモヤする。相楽さんを軽く扱っていることにも。そして、相楽さんに彼氏がいるかもしれないと気づかされたことにも。


 今まで彼女のそのような噂を聞いたことはない。


 でも、俺が聞いたことがないというだけでは、悲しいほどに参考にならない。ついこないだまで他の人との関係を遮断していた人間の情報収集能力は、とてもじゃないが信頼できない。


 というか、彼氏がいない方がおかしいのではないか?


 ルックスはもちろん、人柄も完璧な彼女に惹かれる男なんていくらでもいる。


 そうさ、今まで数多(あまた)の男からの告白を断っているのも、もう既に彼氏がいるから――。



 一度考え出すとどんどんネガティブな方向に行ってしまうのは俺の良くない癖だ。


 考えたって何も進展しないじゃないか。ましてや今は他に集中しなければならないことがたくさんある。


 俺は1年C組の教室を目指して足を踏み出した。



 教室に戻ると、先ほどよりもさらに長くなった列が俺を出迎えてくれた。中では恭介や相楽さんが慌ただしく動いていた。


 俺は並んでいる人に頭を下げながら、いかにも「関係者です」って顔をしながら教室の中に入った。


「あっ、富樫くん! こっち、こっち!」


 クラスの女子が手招きしている。ちょうど飲み物が切れかけているところだった。


 4人で買い出しに行った時には、2日間は持たなくても、初日は十分と意気込んでいたのに、この有り様である。


 恭介、そして何より相楽さんの集客力により、予想を遥かに超える大盛況だ。ついでに予算も大幅にオーバーしそう……



 お昼になるに従って、人の群れは引いていき、列の最後尾も教室の中から見えるほどになった。


「よし、飯行くか!」


 シフトが終わった恭介と外の模擬店へと足を運ぶ。


 思っていた3倍は騒がしい模擬店エリアに着くと、怒号のような呼び込みが俺らの耳に殴りかかった。


 俺らとは違い、3年の模擬店は利益を出すことが目的なので、激しい競争が繰り広げられていた。先輩たちから見たら俺たちの出し物はお遊びレベルなのだろうか。


 適当に焼きそばや焼き鳥など、茶色いものを中心に買い集め、人の少ないところを探し求めた。


「おい、ここなんてどうだ」


 恭介がちょうどいいベンチを見つけてそこに腰掛けた。普段教室で飯を食べている俺にとっては、外でご飯を食べること自体が久しぶりのイベントだった。


 俺たちは空腹に任せて買ったものを胃袋へ直行させる。特に会話することもなく、ものの5分ほどで全てを平らげた。


「あーっ、疲れたぁ……」


 恭介が伸びをしながら言葉を発する。先ほどまでの化粧を落として男の顔へと戻ってきた彼の横顔はいつもよりも綺麗に見える。


「圭も、買い出しありがとな」


「本当だぞ。まさかあの量が午前だけでなくなるなんて」


「な。なんであんな人が来たんだろう」


 お前も原因の一つだよとツッコミでも入れたいところだったが、いつもより遥かに多い運動量と膨れた腹のせいでとてつもない睡魔に襲われていた。


 恭介も誰に(はばか)ることもなく大きなあくびをしていた。


「よし。戻るか」


 一旦教室に戻りながら、めぼしいものがないか探そうということになった。



 結局スラスラと自分達の教室に戻ってきた俺たちは、目の前の光景に言葉を失った。


 そこには、また午前中と同じような長蛇の列が築かれていた。


 なぜだ? 午後のシフトは相楽さんも恭介もいないはず。いくらメイドが人気だと言っても、ここまでの集客には理由があるはずである。


 俺らはその理由を探るようにして、教室の中を覗く。答えはあまりにも簡単に見つかった。


 俺たちの目に飛び込んできたのは、メイド服を着てテキパキと動く森田先生の姿であった。よく鍛えられた腕と脚がメイド服から屈強と伸びている姿は脳が理解を拒んだ。まあ、無理はない。


 体調不良の山田くんに変わって、午後のシフトに入っていた森田先生。いつもは硬派の先生が、普段からは想像できないような姿でご奉仕してくれるのである。噂が広がらないわけがなかった。


「おーい、富樫、北原! 追加で買い出し行ってくれ!」


 ボケっと中の様子を見ていた俺らに森田先生が新たな任務を追加した。三時間ぶり2回目の買い出し。もう少しで強豪校だろう。


 道連れの恭介を加えて、俺たちはまたスーパーへと繰り出した。もちろん、帰りの袋は恭介に持ってもらいました。


 ありがとう、恭介。


 もうちょっと頑張ろうな、俺の腕。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ