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第一話 俺と音楽

青春はいつも美しく描写される。時に甘く、時にほろ苦い。でも、「青春」という言葉の響きは麗しく、大人は皆、そこに帰りたいと思う。


俺、富樫圭(とがしけい)は自らがこの「青春」というものの対極の存在だと思っている。


俺がここ、北楼高校に入学してから2ヶ月が経とうとしている。


元々根暗な性格だったので覚悟していたことではあったが、ここまで周りに馴染めないとは思っていなかった。入学してすぐ、あちらこちらで複数人のグループが構成されていた。それぞれのグループにはリーダー的存在がいて、段々とスクールカーストが構築されていった。その結果、俺はスクールカーストを最下層から支えてあげているというわけである。


そんな俺には、クラスの皆に秘密にしていることがある。それは中学の頃からしている「歌い手」活動だ。歌い手といっても何十万、何百万とフォロワーがいる訳でもない。いわゆる底辺という奴だ。なぜ俺が、クソ陰キャのこの俺が、そんな活動をしているのか。その訳は俺が生まれた時に遡る。


俺が生まれたのは音楽一家とも言えるような家庭だった。父の秀一(しゅういち)は音楽プロデューサーとしてバリバリ働いているし、母の真紀(まき)は自分の教室でピアノを教えている。元々両親は音大で出会ってそのまま結婚という流れだったそうで、音楽一家となるのは必然であったのだろう。そういう訳で俺は小さい時から色々な楽器を触らせてもらった。そして両親の言葉を借りるなら俺は「神童」だったそうで。弾かせる楽器全てでその音楽遺伝子を遺憾なく発揮したらしく、両親はさっさとどれか一つを専門的に教えてやろうという考えに至ったそうである。


ここで順風満帆な俺の音楽人生が始まるはずだった。が、しかし。俺は両親の提案を跳ね除けた。学校が終わった後にさらに拘束されるなんてとてもではないが、自分に続く訳ないと思えてしまった。


そういう訳で、学校が終わったら即帰宅して家でゲーム三昧という陰キャの骨格が形成されてしまったのである。


だがしかし、音楽が好きということに違いはなかった。中学生に上がった頃であっただろうか。完全にクラスにも馴染めず、悶々とした日々を送る俺が興味を示したのが曲作りであった。普段は口にできないことが、音楽に乗せるだけで舌先から流れ出していった。気がつけば歌っていた。自分の部屋でも風呂の中でもトイレの中であっても、ついには両親の目の前でも平気で歌えるようになっていた。両親としては俺が音楽に触れようとしていることが嬉しかったのだろう。勉強そっちのけで音楽に打ち込む俺のことを否定することはなかった。


歌い手としての活動を始めたのは中学2年生の時であった。初めて一曲作り切ったタイミングだった。学校ではできるだけ自分を消そうとしている富樫圭は、歌い手「ケイ」として生きている時は、本当の自分を晒け出すことができた。


歌い手という世界は決して甘いものではなかった。動画の再生数は増えないし、SNSのフォロワーも微増を繰り返す日々が続いた。自分の好きな曲を歌っているだけではダメだ。そう感じた俺は最近流行っている曲を片っ端から練習した。歌ってMIXしては投稿を繰り返していると、段々とリスナーがついてきた。俺の音楽遺伝子は声楽も守備範囲だったようだ。


中学3年になると受験がくっきりとした姿を現してきた。俺は音楽が続けられるならなんでも良かった。逆に音楽で食べていこうという気もさらさらなかった。結果、家から一番近いからという理由で北楼高校への進学を決めた。



6月に入り、ジメジメとした湿気が体を包み込む。今日もいつも通りの学校である。うちの学校は8時30分からSHRがあるので、それまでに学校に行けばいい。家から学校までは歩いて5分くらいなので、いつもギリギリに家を出て、ギリギリに席に着くという日々を送っていた。


「圭〜!おはよー」


「おう、おはよ。」


朝から声をかけてきたのは恭介(きょうすけ)だった。北原恭介(きたはらきょうすけ)。俺の唯一と言っていい友達。幼稚園からの腐れ縁で、家も隣同士である。彼も俺と同じ1年C組に所属している。


恭介と共に教室に入る。と同時にチャイムが鳴る。


「おーい、座れー。」


担任の森田先生が声をかける。


「今日は席替えをするぞ。くじ用意してきたから、阿部から引きに来い。」


突然の発表に歓声が上がる。そういえば高校に入ってから初めての席替えだ。


俺は小さい頃から席替えが苦手だった。ただでさえ他の人と関わるのに抵抗があるのに、今まで数ヶ月かかって築いた関係をリセットされて、また新たな環境に送られるのが酷でしかなかった。


高校での席替えは一種の戦争でもある。男子はかわいい女子の周りを取り合い、女子はかっこいい男子の周りを取り合う。そして俺ら陰キャは出来るだけ目立たない席を求めて…。


このクラスでアイドル的存在なのは「相楽澪(さがらみお)」である。美しい顔立ちはもちろん、誰にでも優しく、天真爛漫な性格は男子たちの心をすぐにつかんだ。噂によると、もう何人かの男子がアプローチし、玉砕されたそうで。


そんな相楽さんが引いた数字は「34」。一番後ろの席である。近くに座りたい男子たちの喝采と悲嘆の混ざった声が教室に響いた。


俺の番が来る。どうか後ろの方でありますように。そしてできれば恭介の近くに…。恭介は前半で「39」という数字を引いていた。


「頼む……!」

箱の中から引いた紙を勢いよく広げる。


『40』


来た!運が味方した!このクラスは四十人のため、「40」は一番後ろの一番窓側の席である。俺は嬉々として自分の引いた紙を恭介に見せつけながら自分の席に戻った。


「よし、じゃあ全員引いたな。それでは移動して、1時間目の授業に備えるように。」


森田先生の号令で全員が動き始めた。


「やったな、圭。」


「マジで良かった。今年はあと席替えしなくていいわ。」


知り合いがいる後ろの席。一番当たりと言っても過言ではないだろう。でも、なぜだろう。先程から冷たい視線を感じる。不思議に思っていると、すぐその理由がわかった。


「富樫くん?だっけ。これからよろしくね!」


肩を叩かれ振り向くと、俺に笑顔を向けている相楽さんがいた。そう、俺の隣は、学級一のクソ陰キャの隣はクラスで一番かわいい同級生、相楽澪だったのである。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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