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やる気ゼロの異世界ストリーマー〜陰キャ社畜、異世界で配信者はじめます!〜  作者: タライ和治


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21.種子ガチャ

「ユウイチさん、それ何ですか?」


 ヨミが覗き込んだ先には野球ボールぐらいの大きさをした色とりどりの球体が転がっていて、オレは訝しげな眼差しを向けながらも応じるのだった。


「『祝福商店』で種子ガチャというのを買ってみたら、これが届きまして……。何の作物が育つかはオレにもわからないんですよ」

「作物の種だったんですか? それにしてはずいぶんと大きいような……」


 まったくもって同意しかないので首を縦に振る。ミアが話していたとおり、なんかヤバい植物が育ったらどうしようという気持ちでいっぱいだ。


***


 前回の大不評だった陶芸実況後、プロデューサーである妖精のミア、師匠を買ってでようとするつばめを交え、オレの次回配信はなにをするべきかというミーティングが行われた……まではよかったんだけど。


「数字にこだわらない志は結構だけれど、生活費も大切よ」

「はあ? あんた、自分で稼いだポイントすら把握してないとかバカじゃないの?」


 ……と、まあ、散々な言われよう。


 結局、少しでもリスナーウケのいい配信を実施することで、高評価とスパチャを稼ぎましょうという結論になったのだった。くそう……、自由気ままに好きなことを届けようというオレの計画が水の泡じゃないか。


 とはいえ、ポイントがなければサスケのご飯代も捻出できないわけで。


 つばめの膝上でウトウトしている茶トラの子猫を眺めながら、愛猫のためにも、ここは二人の提案に乗るしかないかと思い直したのである。


 そんな事情もあって、早速、注文した種子ガチャだったんだけど。


 もうね、『祝福商店』の注文画面からして怪しいんですわ。注意書きには『ノークレームノーリターン、当店は、育った作物に対して一切の責任を負いません』の文面があって、ポチるのも躊躇いを覚える次第なんですよ、これが。


 しかも、『十個買えば、もう一個おまけでついてくる!』という、ソシャゲの十連ガチャそのまんまの仕様。えぇ……、これを買うのぉ……? 正直、気乗りしないんですけど……。


「はいはい、あんたの気持ちとかどうでもいいから。さっさと注文して」


 こちらがためらっている間、横から伸びてきたつばめの手が、三次元ディスプレイに触れ、注文するボタンをタッチする。


「……お前、オレの意思とか気持ちとか、ちょっとは尊重しろよ」

「どっちにせよ、注文する以外の選択肢がないんだから。それなら一秒でも早く届いたほうがいいじゃない」


 そのほうがいち早く配信できるでしょうと、師匠らしくつばめは続ける。


「さあさあ、ティナが種子ガチャを届けてくれるまでの間、あんたはわたしと特訓するわよ!」


 オレンジ色のサイドポニーを揺らしつつ、つばめは仁王立ちの構えでこちらを見据える。


「特訓ってなんの?」

「決まっているでしょう? 実況の特訓よ。あんたの配信見ていられないんだもの」


 つばめいわく、挨拶からトークの構成、質問に対する話題の広げ方などなど、どれをとってもダメダメらしい。ほっとけよ。


「あんたのパートナーのミアは相当のやり手に見えるけど……。どうしてこうなるまで放っておいたのかしらね」


 いや、つばめさん、誤解があるね。放っておいたというか、諦められたんだな。


「なおさら問題よ! いいこと、このわたしが師匠になったからには、あんたのトークスキルもめきめき上昇すること間違いないんだからっ!」


 うーん、いい子なんだろうけど、アレだね。ぶっちゃけ、めんどくさいね、この子。陰キャ社畜のオレと絶望的に相性が悪い予感しかない。


 どうにかしてこの難局を乗り切れないだろうかと思っていた、まさにその時。救いの神が現れたのだった。


「ちわーっす! 『祝福商店』っす! 商品のお届けに上がりましたー!」


 爽やかな笑顔の配達員が玄関から顔をのぞかせたのである。俺は思わずティナの手を取ると、戸惑いの面持ちを浮かべるボーイッシュの配達員を歓迎した。


「ティナ! 助かった! よく来てくれた!」

「へっ!? ど、どうしたんすか、ユウイチさん!? い、いきなりはウチも困っちゃうっていうか……!?」

「……アンタたち、何やってんの……?」


 通りがかったミアの声により、オレたちは現実に引き戻された。いかんいかん、オレとしたことが面倒ごとを回避した喜びで浮かれた行動を取ってしまった。


 赤面するティナに詫びた後、無事に種子ガチャを入手したオレは、つばめに別れを告げ、そそくさと田畑へと足を運ぶことにした。


 つばめには悪いけど、いまさら特訓もなんだかなという感がある。慣れない手法よりも、自分の強みを生かしていくしかないのだ。……まあ、その強みが何かって聞かれたら答えは困るんだけど。


 そんなわけで、種子ガチャの入った木箱を抱え畑にやってきたオレは、いつもの笑顔をすっかりと取り戻したヨミと再会を果たしたのだった。


***


 一通りの事情を説明すると、ヨミは困惑の表情で口を開いた。


「なにが育つかわからないって、正直怖いですね」

「そうなんですよ。ヨミさんにご迷惑をおかけしないとも限らないので、どうしようかと」

「いえっ、私のほうがご迷惑をおかけしている状況なのでっ。気になさらないでください」


 そう言ってかぶりを振るヨミの表情は穏やかだったものの、何気なく呟いた一言は重い。あまり深くは考えていないんだろうけれど、告白を聞いたあとでは意図があるように思えてしまうなあ。


「それにしても」


 話題を転じるようにヨミは口を開いた。


「これだけ大きい種子、どのぐらいで育つんですかね?」

「一時間よ」


 カメラ代わりの球体を手に持って、ふわふわと宙を漂いながら姿を現したのは、相棒のミアである。


「その種子、農耕の神様たちが祝福を与えているのよ。あっという間に生育する上、なにができるかわからないから、種子ガチャって言われているの」

「結果がすぐにわかるっていう意味も込められているのか」

「その通り。みんなガチャを引くのも、ガチャの結果を見るのも大好きでしょう?」


 そこのところ、人間も神様も心理は変わらないんだなと考えながら、オレははっとなった。


「あっ、すぐ育つのは別にいいけど、実況配信するならヨミさんは映らないほうがいいですよね?」

「え? あっ、そう、ですね……。お手伝いはしたいのですが、できればカメラは遠慮したいなあと」

「それがいいですよ。それに、危険な植物が育つ可能性もあるらしいですし」

「危険とは」

「うーん、例えばだけど……。象一頭が死んじゃうぐらいの致死量を含んだ花粉の草花とか」

「そんなデンジャラスなもんが育つ可能性があるのに、お前はオレにこれを育てさせようとしているのか……?」


 ドン引きしている最中、ミアは大丈夫大丈夫と続けて、胸を張ってみせる。


「わかった瞬間、私の魔法で燃やしちゃうから」

「本当に大丈夫かなあ」

「とーにーかーくっ!」


 抗議は受け付けないとばかりに話題を打ち切って、相棒の妖精は語を継いだ。


「育ってみないとわからないんだし、育ててみましょうよ。百聞は一見にしかずってやつ」

「できれば一見もしたくないんだけどなあ」


 ぼやきつつも、オレは安全を確保するため、ヨミを自宅まで見送ることにした。万が一の事があったら大変だからなあ。


 というわけで、周囲の安全を確保してから始まった種子ガチャ配信だったんだけど。


 いやあ、ビックリしたね。まさかあんな植物が育つとは思いもしなかった。


 結論から言うと、チョコチャンククッキーが連なる樹木が生えた。

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