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やる気ゼロの異世界ストリーマー〜陰キャ社畜、異世界で配信者はじめます!〜  作者: タライ和治


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20/21

20.心機一転

 明けて翌日。


「数字目当ての配信を辞めたい?」


 相棒兼敏腕プロデューサーであるミアに切り出したオレは、怪訝そうな顔の妖精を前に首を縦に振るのだった。


「あのねえ、ユウイチ……。自分の立場わかってる? リスナーを増やして稼いでいかないと食べていくことができないのよ?」


 そう言って、ミアはため息を漏らす。企画立案担当としては聞き捨てならないのだろう。オレ自身、決して余裕のある生活を送っているわけではないので、ミアの懸念は痛いほどよくわかるんだけど。


「初心に返りたいんだ」

「初心?」

「なんていうかな。オレがいちリスナーとして実況配信を見ていた時の気持ちというか。ストリーマーの皆さんに楽しませてもらっていた頃の気持ちというか」


 とどのつまり、リスナーからストリーマーに変身を遂げたことでも、楽しいという気持ちを大事にしたいのである。


 たとえ陰キャだとしてもそういった感情はあるわけで、これからの配信はそれを全面に押し出して活動を行っていきたいのだ。


『それでも、楽しかったなあ……。いろいろなことを試行錯誤して。上手くいったら心の底から喜んで。とても充実した時間を過ごしていたんですよ?』


 昨夜のヨミの声が脳裏によみがえる。思えば、オレは彼女ほど熱心な配信や、充実した時間を過ごしたことがない。


 まあ、今更感が否めないけれどさ。オレもヨミに倣って、そういう配信ができたらいいなと考えたのだった。


 その熱量をヨミに伝えることができたなら。そのうち彼女もストリーマーとしての活動を再開させるのではないだろうか?


 とはいえ、こちらは底辺弱小ストリーマーに変わりないわけで。そんな影響力があるとも思えず。


 ただ、だからといって、昨夜の話を聞いてなにもしないというのは何か違うなあと、そんな風にも考えるわけで……。


 まかり間違えば嫌がらせとも受け取られるような方法だけど、昨夜の話を聞いたオレにできることといえば、せいぜいこんなことだけなのだ。


「……どうしてそんな考えに至ったのかは、あえて聞かないことにするけど」


 ツインテールの妖精は思案顔のまま問いかけた。


「ユウイチ自身が楽しいと思える配信って、いったいどんなことをやるつもりなの? まさか狩猟とかじゃないわよね」

「まさか。イノシシや熊を相手にしていたら、命がいくつあっても足りないからな」


 応じながら、オレは昨夜のうちにまとめて置いたメモを差し出した。


「一応、興味があることに挑戦したいなあと考えているんだけど」

「どれどれ……。えーっと、まず陶芸。……あなた、陶芸好きねえ? それとパン作り。へえ、これはいいじゃない。それに農作業に釣り……いつもと変わらないわね?」


 ひとつひとつにコメントを加えつつ、ミアはメモの隅々まで目を通す。それから「ふむ」と呟いて、感想を漏らすのだった。


「なんていうか、全体的にチルいものになりそうね」

「そんなつもりは無いんだけどなあ」

「別に反対するつもりはないけど……」


 一拍置いて、ミアは続ける。


「こういうのって作業中のトークで盛り上げるのが大事になってくるわよ? リスナーを楽しませるつもりならね。ユウイチにできるの?」

「自信はないっ!」


 キッパリと言い返しつつも、オレは語をついだ。


「言っただろう。自分自身が楽しむものを届けたいって。この際、実況とか配信スキルは二の次にしたいんだ」

「う~~~~ん…………」


 腕組みしたツインテールの妖精は、しばらく考え込むと、やがて意を決したのか、


「やる気は無いより、あったほうがいいか……」


 そう小声で漏らし、表情をあらためるのだった。


「まあいいわ。やるだけやってみましょう。せっかくユウイチが企画を考えてくれたんだもの」

「サンキュー。恩に着るよ」

「そうと決まれば、早速、今日の配信に取りかかりましょう。いろいろあって昨日はできなかったわけだし」


 球体型のカメラを手にしたミアは、いそいそと配信のための準備を始めてみせる。そういや、昨日はつばめがやってきて配信どころじゃなかったもんなあ。


 ……あれ? そういやつばめはどうしたんだろうか? 少し離れたところでキャンプしているはずだけど、宣言通りスパチャで稼いで、帰宅するためのポイントを稼いだのかな?


「で? 今日はなにをするつもり? 個人的にはパン作りを推したいところだけど」


 ミアの声に意識を引き戻す。オレはかぶりを振ると、にやりと笑って応じるのだった。


「いやいや、新たなスタートを切るんだぞ? やっぱり、陶芸こそがふさわしいだろう」


***


 そんなわけで、久しぶりの陶芸小屋である。


 サスケ大暴れ事件により、一時はめちゃくちゃになった作業場所だけど、なんとか片付いて、再び配信に耐えられる光景を取り戻すことができたのだった。


「急ごしらえのサムネイルは作ったけど……」


 そう言って、ミアは三次元ディスプレイを指し示す。


『【神食器】奇跡の芸術家デビュー!? ユウイチ陶芸にチャレンジ【誕生!?】』


 ……神食器ってなんだ?


「神回とかあるじゃない。それと似たようなもんよ」


 答えるミアに、内心で小首をかしげながらも、まあインパクトは大事だよなと納得しておくことに。ネーミングセンスはどうかと思うけど。


「細かいことは気にしないっ。とにかく始めるわよー!」


 慌ててカメラの前に陣取ったオレは、こほんと咳払いをひとつしてから、相棒のキューサインを待った。五、四、三……と続くカウントダウンを耳にしつつ、一のあとで挨拶を始める。


「皆さん、こんにちは。ユウイチです。今日はですね、前回まともにできなかった陶芸に、改めて挑戦していきたいと思います」


 挨拶をしてからしばらくすると、ぽつぽつとコメントがつき始める。


『今日も子猫の乱入に期待』

『というか、ネコチャンしか勝たん』

『陶芸より猫なんだよなあ』


 前回のサスケが暴れ回る配信がよほどのインパクトを残していたのか、今日もそれを期待する声が目立つ。それはそうだろう。オレがリスナーでも、そういうとんでもない動画が見たいもんな。


 とはいえ、今回ばかりはご期待を裏切らせていただく。


「いやいや、申し訳ないけど、今日は猫いないのでね! 思う存分、陶芸の腕前を見ていただきますよー!」


 そう前置きし、早速、土とろくろに向かい始める。芸術的とは言わないまでも、実用性のある湯飲みとか大皿ができればいいなあなんて考えていたんだけど。


 物事のすべてがそんな上手い具合にいくはずなど、もちろんないのだった。


***


「散々の数字ね……」


 陶芸配信終了後、三次元ディスプレイに映し出されたデータに視線を向けながら、ツインテールの妖精は頭を抱えてみせた。


 今回の配信、閲覧者数は五人。高評価ゼロ。スパチャなどはもちろんなし。


 それもそのはず、ろくろに向き合って十分も経たず、同時接続者数がゼロになるという体たらくなのだ。


「やっぱりトークなしで作業に集中するのは悪手だったかも。ああいうものほど、リスナーは飽きちゃうからね。さらに言えば、ユウイチ陶芸初心者だし」


 ダメ出しをされながらも、オレはオレでわりとすっきりとした心境のまま、今日作った皿っぽいゆがんだ何かに眼差しを向けていた。


 ひとつのものを無心で真剣に取り組んでいたのは久しぶりの経験で、自分なりの手応えと充足感を覚えていたのである。


 今日のところはリスナーに楽しんでもらうという目的は達成できなかったかもしれないけれど、いずれ、自分が楽しんでいることを伝えることができるのなら……。


 それはそれは長い道のりになるかもしれないけれど、第一歩を踏み出せたらという自負はある。長い目で見てもらいたいものだね。


「とは言うけどね。生活のためのポイントも忘れないように。適度にバランスを図りながら配信活動をやっていくわよ」


 好き放題はさせないとばかりにミアは釘を刺す。とはいえ、こちらの意見を尊重してくれているのか、次回配信は『オモシロ農作物を育てよう』という企画はどうかと持ちかけるのだった。


「なんだ、その、オモシロ農作物って」

「『祝福商店』に売っているのよ。種子ガチャっていうのが」

「恐ろしい響きの商品だけど、詳しく聞こうか」

「えーっとね、内容はわからないんだけど、ランダムで十種類の種子が入っているのよね。どれも一週間程度で育つんだけど」

「農作物なんだろう? もちろん食べられるんだよな?」

「…………」

「おい、なんで黙るんだ?」

「……当たればね。当たれば美味しいのが育つわよ」

「嫌だよ! なんでそんなヤバいのを育てなきゃいけないんだよ!?」

「大丈夫よ。万が一、本当にヤバいの育ったら、私の延焼魔法で根絶やしにするから!」

「もっとヤバいだろ! 配信を楽しむどころの話じゃなくなるわ!」

「聞いていられないわねっ!」


 自宅の扉が突然開かれかと思いきや、そんな声が割って入った。オレとミアが同時に視線を動かした先には、サイドポニーを揺らして自信満々に仁王立ちを決め込む美少女がいて、オレは小首をかしげると、思わぬ闖入者に問いかけた。


「あれ? 帰ったんじゃなかったのか?」

「帰るわけないでしょう。ヨミと勝負もしていないのに」


 応じるつばめの背後では、見覚えのあるボーイッシュな少女が佇んでいて、ニコニコと笑顔を浮かべながら帽子を取ってみせた。


「ちわーっす! 祝福商店っす!」

「あれ? ティナ? 今日はなにも頼んでないけど……」


 ……はっ!? まさかミアがすでに種子ガチャとやらを注文していたのか!? 退路を絶つつもりなのかこいつ!?


 一瞬、そんなことが脳裏をよぎったものの、どうやら注文主はミアではなかったようで、ティナはつばめへと視線を動かすのだった。


「ご注文いただいたログハウスっすけど、どこに建てたらいいっすかね?」

「ああ、ちょっと待ってて。いま場所を見繕うから」


 ……は? ログハウスってなんだ?


「あのね、いくらなんでも、毎日キャンプできるわけないでしょう? ちゃんとした生活を送るなら、それなりの家を用意しておかないと」

「いやいやいやいや! 待て待て待て! まさかと思うけど、ここに引っ越してくるつもりか?」

「そのつもりだけど?」


 なにを当たり前のことを聞いているのと言わんばかりに、瞳をきょとんとさせるつばめ。……聞いてないんですけど。


「言ってないもの」

「そういう話じゃなくてだな……」


 この子が引っ越してくると、また話がこんがらがって面倒なことになりそうなんだよなあ。第一、ヨミとの関係性がよろしくない。


 つばめが下手に煽って、ますますヨミが配信する気をなくしては元も子もないし……。


 そんなことを考えていると、つばめはこちらの思いとは別にこんなことを言い出したのだった。


「わたし、ヨミを傷つけちゃったみたいだし……。仲直りもしないまま帰るわけにはいかないじゃない」

「…………」

「そういうわけで、少なくともヨミに許してもらうまではここにいようと思ったの。悪い?」


 なるほど。一応、こいつなりにいろいろ考えていたみたいだ。感心の面持ちを浮かべていた矢先、「それにね」と間を置いて、つばめは続けてみせる。


「あんたにとっても、これは悪い話じゃないと思うわよ」

「なんでだよ」

「陶芸配信、見られたものじゃなかったもの。トークも技術もまるでダメ。これは師匠が必要だって思ったの」

「まさかと思うけど、お前がその師匠になるつもりか?」

「大正解っ! 人気急上昇、大注目のストリーマーがそばにいれば、いいお手本になるでしょう!?」


 ……頼んでないし、邪魔になるとしか思えないから、お帰り願えないだろうか……。願えないんだろうなあ……。


 オレは肺が空になるほどの大きなため息を漏らし、頭を抱えると、らんらんとした瞳をした少女を見据えた。


「師匠はひとまず置いておくとして……。ここで暮らすからには、ロケットで突っ込むような真似は控えてくれよ?」

「わかってるわかってる! とにかく、これからよろしくね!」


 本当にわかっているのか定かではない表情に、再びため息を漏らしながら……。


 とにもかくにも、こうしてご近所に新たな住人が増えたのだった。

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