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同好の士

作者: 網笠せい

 推し活が話題になる昨今でございますが、趣味というものは、なんとも楽しいものでございます。

 しかし中には、ヒエラルキー……推しに「いかにお金を使ったか・貢献したか」で序列をつけたがる人々もいるのが困りものですな。そういう方々の間では「あら、私はそのグッズ、持っているわ。あなた持ってらっしゃらないの?」なんてやりとりもあるそうで……ホストクラブさながらです。


 さて、あるところに、苦労に苦労を重ねた人生を送ってきた女性がおりました。親からの虐待、いじめ、若くして親の介護で休学までして、世に出たならば就職氷河期、結婚したらば亭主関白な夫、嫁姑問題、金銭問題、DV、離婚、子供の不登校、親が亡くなれば相続調停──運の悪い人というのはいるものですが、ざっと見積もりましても、このような艱難辛苦(かんなんしんく)が一人の人生におっかぶさることは、そうそうない。

 苦労に苦労を重ねた時間がやっとこさ一段落したところで、この女性、ふと「私、あまりにも人生を楽しんでいないのでは?」なんて気がついたんでございます。あるとき趣味……推し活に没頭するようになりました。

 まあこのような人生ですから、楽しいことにかけては子供のようにうぶでございます。あれこれと些細なことにまで目を輝かせては「すごい!」と褒め称えるもんですから、言われた方も悪い気はしない。ちょいちょいちょっかいを出されるようになりました。

 ところがこれが、同好の士にはおもしろくありません。そりゃあ長年推してきた人々にとってみれば、「ぽっと出のチンクシャがしゃしゃり出て」という気分にもなりましょう。


 この女性もよくよく運のないこと、誰がやったかわからない嫌がらせがはじまりました。どういうツテかはわからないが、業界のあちこちに女性の情報がばらまかれ、勝手に作品にされて金もうけに使われる始末です。

 やった側は「昔お前がやったことだろう! 絶対に謝らせてやる!」と自己正当化に余念がない。この不幸な女性も、人間ですから過失やいさかいや行き違いもあります。決して聖人君子とは言えませんが、警察にお縄を頂戴するようなことは自らいたしません。

「いじめはよくない」と止める人もおりましたが、「またあの女がたぶらかした!」と余計に火をつける形となってしまいました。人の心……ましてや嫉妬というものは、なかなかに難しいもんでございますな。


 なんと女性の情報が海外進出まで果たす始末。彼女は海外旅行にはあまり縁のない人生ですが、先に情報が海外進出を果たすんですから、奇妙なこともあったものです。

 なんでこんなことするの、やめてください──女性はくり返し言いましたが、一向に止む気配がない。そんなにひどい被害がありましたので、女性はとうとう推し活を辞めてしまいました。子供の情報まで使われてしまったとあっては、母親としちゃあ当然でしょう。


 そうしたらば、今度は「お前の好きはその程度のものだったのか! 嘘つき!」の大合唱です。自分たちがいじめ倒して追い出したんでしょうに、何がしたいのか、よくわからない人たちですな。

 まあなんとも救いがないことに、推される側までこれに加わった。ささやかであっても、元々得られていたはずの収入が得られなくなったわけですから──。


 この女性、本来はおっとりしていて気が長い。気が長すぎるから「まぁまぁ」と流して数々の不幸な目に遭ってきた。しかしへそを曲げるとテコでも動かぬ頑固さがあります。「ならぬものはならぬ!」の精神ですな。

 何をやっても被害がおさまらないもんだから、とうとう女性は堪忍袋の緒が切れて、丸ごと告発することにした。誰がやったかわかりませんから、もう丸ごと告発するしかない。

 告発をはじめるようになったら、やらかしてきた連中、今度は猫なで声で「戻ってきて」と言い出しました。ろくでなしの「心を入れ替えます」と大した違いはありません。

 子供の情報を使ってなけりゃあ、まだ話し合いの余地も、小指の爪の先ほどはあったでしょうに、もう遅い。


 人の心は、とかく難しいものです。自分がするにしろ、相手がするにしろ……嫉妬には、気をつけたいものですな。

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