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あの頃の君は

作者: いち詩緒

 ある高校生がいた。彼は学校を選ぶ時も適当、部活を選ぶ時もあまり深く考えずのんびりできればいいやくらいに思って写真部を選んだ。

 写真部に入ったのは一年の冬ぐらいでそのころは目立った事も起きなかったのだが、新入生が入ってきた春以降に急に女子部員が増えだした。その中の一人に妙に童貞いじりをしてくる後輩がいた。


 そんなに経験豊富なのは不健全じゃないかと思ったのでどういうことか尋ねてみることにした。


 「なあ、一年で処女じゃないってどんだけ乱れてたんだよ?」

 「いいじゃん。経験豊富な方がモテてる女ってことだし。」


 「まあ、確かに入口より可愛い後輩は探してもまだ見つかってないしな。」

 「見つけてどうすんの?」


 「そりゃ経験豊富じゃないピュアな恋をするために探すんだよ。」

 「ねえ、先輩って童貞でしょ?だから処女を探してんだよね?」


 「ああ。そうだ。一年で非処女とかとっかえひっかえして男漁りして…妊娠とか考えると、とてもじゃないが恐ろしい。養えない。」

 そういうと彼女は「だから童貞なんだよ」と言っていたが、このころはこれがどういう意味かは分かっていなかった。


 夏になり写真撮影のために砂浜に行く事になった。しかし、この後輩たちは遊んだりしゃべったりするばかりで写真を撮影する事には興味が無いようである。

 と言っても、活動のために来た手前、何も撮らないのもアレなので撮ってみろとカメラを渡すともう少しで落すところだったのですぐに手を添えると胸に当たってしまった。


 「ちょっと!先輩!いきなり揉まないで!」

 「揉むんじゃなくてカメラを落さないために手を出したんだよ。というか、当たったか?まあ、見た感じ当たる程の大きさもないようだし大丈夫だろ。」


 「何よ…」

 そういうと彼女は彼の手を掴み、自分の胸に押し当てた。

 「どう?あるでしょ?」


 そういう事かと、二人は浜辺にあったテトラポットの隙間に入って行った。随分と童貞いじりをしてくれたのでどうなのかと思いきや、生娘だった。

 良い女を演出しようと必死にモテるアピールをしていたのだろう。しかし、これだけ可愛いのにどうして初めてなのかは分からなかった。


 あれ以来、学校では気まずい感じがして廊下ですれ違っても顔を合わせずらい日々が続いたがある日、急に腕を掴まれたかと思ったら使われていない教室に引き込まれた。

 我慢できないとばかりにキスを迫り、そのまま彼を押し倒した。積極的な愛は夏がそうさせるなら夏の間だけでも楽しもうと思っていたが、ひとしきりした後に彼女は言った。


 「ねえ、もう付き合わない?私たち相性がいいし、来週から夏休みだしどこかに遊びに行こうよ。」

 「いいな。プールにでも行くか?」


 彼は二つ返事で付き合う事にした。見た目は良いし、性格はまだよく分からないが確かに体の相性は良い。楽しい夏休みになればいいと期待を胸にその日を待った。


 プールに行く日になったが、前日に連絡しても返事がないのでおかしいなと思っていると当日の朝に急に行けなくなったと連絡があった。

 何でも家族が出かけるというのでなら仕方ないと思っていたが、どこに行くのかと聞くとプールだと言っていた。場所を聞くと行けなくもないところだったので俺も行こうかと尋ねたが来るなという。


 最初に会った時に妙な違和感があったのはこれだったのかと思った。その後も約束をしては会えない日が続いた。それも全て家族がらみで。


 男友達と遊び、その友人の彼女とも遊んだが二人でどこかに行こうという時もこの友人の彼女の方が一緒にいて楽な感じがした。約束も破らないし、約束の時間通りに来る。それが当然といえば当然なのだが。

 新学期が始まり、摩莉に「あんなに約束破るならもう別れた方がいいんじゃないか?家族との時間が最優先なんだろ?」と聞いた。


 「しょうがないじゃん。私の家って面倒なんだから。知ってるでしょ?」


 確かに電話はしょっちゅうしていたのでそれは知っていた。何でも父親が厳格というかかなりワガママで家族の都合をあまり考えない人物のようで、摩莉が友達と遊びに行くからと言っても家の予定があれば優先させられるという。

 そして急に泣き出したかと思うと「君じゃないとダメなの!付き合ってくれないと嫌!」と言って不機嫌になった。まあ、他に相手もいないしとそのまま付き合い続ける事になったのだが、やはりというか、学校にいる時はいいのだが休みの日はとにかく約束しても会えることがない。


 そんなある日、友人の彼女が休日に行きたいところがあるというので映画を見て安いレストランに行って楽しく過ごしていると迫ってきた。


 「ねえ、あの摩莉って子と上手く行ってないんじゃない?」

 「何というかなあ。休みの日は家族との都合があるからっていつも会えないんだよな。だから本当のデートって君といる方がデートって気分になるな。でも彼に悪いような気もする。」


 「いいよ。だって彼も他の女と遊んでるみたいだし、よくある事でしょ?」

 「よくあるのか?まあ、彼もイケメンだしな。俺と違って。」


 「え?君もイケメンだよ。…これで分かるよね?」


 そう言うとキスをして熱く愛し合った。もう心が彼女しか考えられないほどになっているのが分かる。お互いに不足しているものがあるという事だろう。

 心の隙間を埋め合わせるのに都合がいいと言えばそれまでだが、そうはならなかった。しばらくして、俺は彼女と別れる事にした。かなり暴言を吐いて来たがこうも約束を守れないのでは付き合うのもストレスになるからやめようという事になった。


 その後は卒業までこの彼女と付き合う事になり、卒業後は大学に進学して就職する事になる。


 就職して20年が経ったある日、結婚も出来ないしブラック企業で心が疲れた主人公は高校の頃に撮影をした砂浜にやってきた。

 あの頃は青春って感じがして楽しかったのに今となっては悲しみとやるせなさに暮れる日々だとテトラポットに座り、海を眺めているとどこかで見たような少女が近づいて来た。


 「あの、もしかしてそこの高校の卒業生だったりします?」

 「ああ。よく分かったな。そうだ…え?」


 「え?何ですか?」

 「摩莉か?」


 「いいえ。…あ、でも母がその名前です。そういえば高校の時に付き合っていた人が居たって聞いたけど、あなたですか?」

 「まさにその通り。あの頃の摩莉にそっくりだな。親戚とかに言われたりしない?」


 「たまに言われるくらいですね。それよりどうして母と結婚しなかったんですか?」

 「それがなあ、約束を破りまくるし家の都合を最優先にするし、結婚してもこれじゃあ俺の立場がどっちにしろないんだろうなって思うような感じだったぞ。」


 「分かる!母方の家はもう大変で…。お父さんも婿養子なら良いって条件で結婚したんですけど、結局、奴隷みたいに会社に無理やり入れさせられてこき使われておかしくなっちゃったんです。だから私はお父さんと暮らしてます。」

 「ヤレヤレだな。なあ、辛くはないか?」


 「ううん。辛くないですよ。離婚してからはお父さんは元いた会社にまた戻って上手くやってるし、母があなたとどんな過ごし方をしていたのかは大体、聞いてましたからそういう事にならないようになったのは良かったと思います。

 それにしても本当にイケメンさんだ。お母さんが惚れたのも分かるなあ。」

 「…おっさんにときめいている場合か?彼氏を見つけないと。今は夏だぞ?」


 「付き合ってくれないんですか?」

 「遊びに行くくらいならいいぞ。」


 その後は父親とも会い、苦労話を聞きながら酒を飲んだり、娘とも出かけたりした。娘が居たらこんな感じなんだろうなと寂しさのようなものも感じるが、この子は良い男を見つけられそうなのでそこは安心できる。

 そしてまたその砂浜で女性の教師と出会う事になる。今度は幸せが来るような予感の恋になりそうだ。

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