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第8話 子どもたちとの出会い


 異世界転移から約1ヶ月。


 俺は相変わらずの毎日を過ごしている。この1ヶ月で変わったことと言えば。



1.コミュニケーションスキルがレベルアップした!

 とはいえ、まだまだ常人以下だが。とにかくこちらから積極的に動かないと餓死しかねないので。



2.『流れ者の不審者』が『人形を連れた不審者』にレベルアップした!

 いやさ? ムギちゃんと凛菜を必ず会わせると言ったはいいが、男の家に年頃の女の子を連れ込むわけにはいかない。ただでさえ村中から不審に思われてるんだし。てことで、思い切ってムギちゃんが働いてる日を選んで、昼から雑貨屋に凛菜を連れて行ったのさ!


 午前中に予告はしてたものの、ムギちゃん、鳩が豆鉄砲を食らったような顔してたなあ……ムギちゃんに限らず、すれ違う人みんなだが。ダイアンさんに至っては、右手で顔を覆って天を見上げていたからね。俺を村に入れた責任を感じてるのかな?


 ちなみにムギちゃんの反応は「綺麗な方ですね! 胸、大きいですね……。 ふふっ、ペンダントよく似合ってますよ! またね、リンナさん♪」だった。あなたが天使か。



3.魔術の実践訓練を始めた!

 子ども達と遊べなくなったからね……ポッカリと空いた時間と胸の穴を埋めるため、魔術理論だけではなく実践も、と。当座の目的は強化魔術の習得なのだが、属性すら特定できずにそちらは難航しているのでとりあえず水魔術や風魔術の初歩の初歩から実践してみることにした。もちろん火魔術もあるが、火事が怖いのでまだやっていない。土魔術は……うん、後回しでいいか。


 最近は初歩魔術程度なら考え事をしながらでも発動できるようになったので、子ども達と出会った日のことを思い出しながら、反復練習することにした。




 あれは転移3日目の昼下がりのこと。


 ボロ小屋の大掃除に精を出していた俺は、玄関の内側からいきなり声をかけられた。


「お前だな! オレたちに無断で秘密基地を乗っ取った悪者は!」


「おまえだな〜!」


「返せよ! ここはオレたちの秘密基地なんだぞ!?」


「かえせかえせ〜!」


 えーと、どうしよう。大きい子が2人と、小さい子が1人。歳の頃は10歳くらいか? 小さい子は5歳とか?


 黙ったままポカーンとしていると、リーダー格らしい活発な少年が前に出てきた。


「お前の調べは付いている! 一昨日の夕方ふらりと村に現れ、村長とダイアンさんを丸め込んでこの家に住み着いたふしんしゃ!」


「ふしんしゃ〜!」


「だけど僕たちの目は誤魔化せませんよ……王都からきたと言ってますが、あなたはその黒髪のせいで迫害を受けて逃げてきたんですよね……? その境遇に同情はしますが、だからといって復讐のためにここの魔術書を利用しようとするのは見過ごせません!」


 まるで話が見えない。


「……すまない、何がなんだかわからない。とりあえず落ち着いて話し合わないか? あっちの部屋に机と椅子があるんだ」


「それカイがいつもふいてるつくえ〜! かってにつかうな〜!」


 だ、そうだ。腰をおろして目線を合わせ、カイくん? に頭を下げる。


「そうか。それは知らなかった。勝手に使ってごめんなさい。今から使ってもいいかな?」


「いいよ〜!」


 カイくんの許可も得たので、ゾロゾロとリビングらしい部屋に向かう。大きな子達は、自分達に対して低姿勢な大人が珍しいのか「な、なんなんだよあいつ……カイは人見知りするのに……」「確かに。情報の真偽の確認のためにも、本人の事情聴取は重要ですね」などとコソコソ話していた。


 途中「ってことはベッドも使ってるのか」と聞こえたが、あの部屋には凛菜がいるので見せるわけにはいかない。子どもにラブドールを見せちゃダメだろう。その辺の線引きは、自分のためというよりも相手のために大切な気がする。


「で? 結局オッサンは誰なんだよ? どうしてこの村に来たんだ?」


 お、オッサン……傷つく。もうすぐ三十路とは言えそれは傷つくぞ。


 さて。子ども相手だからといい加減な作り話をするのはナシだ。特に初対面の上に不審者扱いされているからな、今後のことを考えても、できるだけ今この場で本当のことを話すべきだろう。……問題は、どこまで話すか、だが。


「俺の名前はノダ=イサミ。異界から来た。この村に来た理由は……たまたまだ。ひたすら歩いた先がこの村だった。この家も村長達が貸してくれた」


「い、異界から……!? あ、いえ、こちらから名乗らず失礼しました。僕はソラです。こっちにいるのは……ほら、リク。挨拶」


「わかってるよ! オレはリクだ! この秘密基地を守る隊長だ!」


「カイはカイだよ〜!」


「ソラくんにリクくんにカイくんだな。よろしくお願いします」


 頭を下げると「ホ、ホントなんなんだよこいつ……やりづらいなーもう」「異界人は礼儀正しいのか……? いや、演技の可能性も……?」それぞれ独り言を言ってた。カイくんは平常運転のようだ。


「……あ。しまった」


「ど、どうした!? オレたちの肉は美味しくないぞ!?」


「いや、すまん。村長達に、俺が異界から来たことはバラすなって言われてたんだ……ここだけの秘密ってことで頼む」


 また頭を下げると「クスッ」とソラくんの苦笑が聞こえてきた。


「……もういいですよ。僕は、僕たちはノダさんのことを信用します。ね? リク?」


「えええ〜? もう認めるのかよ……もうちょっと話が盛り上がってから……」


「リ・ク?」


「うっ。あー……悪者とか言って悪かった。大人達と違って、オレたちは最初からそこまでノダのこと疑ってたわけじゃないんだよ。だからってお前がオレたちの秘密基地を乗っ取ったことに代わりないけどな?」


 ……ふむ。力関係が見えてきたな。そしてここでまた頭を下げるのは悪手な気がする。今は攻めねば。


「ああ、わかってる。だから俺も仲間にしてくれないか? どのみち、ここを追い出されたら行くところがないんだ」


「な、仲間に!? オッサン、大人だよな!?」


「大人とか子どもとか関係ないぞ。リク達は他の人達と違って、最初から俺を信じてくれたからな。俺もリク達を対等な相手として信用する」


「ふむ……やはり他の大人とは一味違いますね……歓迎します、ノダさん」


「ちょっ、ソラ! 勝手に決めんなよ!? 隊長はオレだぞ!?」


「でも、リクも賛成だよね?」


「うっ。そりゃまあ、仲間になるってことは今まで通りこの秘密基地はオレらのものってことだし……大人が加われば色々都合がいいし……」


「はい、決定ね」


「うっ。よ、よろしく頼む、ノダ。でもノダは大人だけど、隊長はオレであることに変わりないからな!」


「ああ、わかってるよ、リク隊長。二人とも、これからよろしくお願いします」


「ところでノダさん。異界から来た黒髪ってことは、ノダさんは勇者様なんですか?」


「それは……「あー!きれいなおねーちゃんがいるー!!」



 ───カイくん、どっか行ったと思ってたら。俺はめまいを覚えた。




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