第2話 甘〜い?日常
なにおぅ? 俺は家に帰れば凛菜が待っているんだぞ?
………
「聞いてくれよ凛菜ぁ〜! 今日も会社で無茶振りされてさぁ〜!!」
凛菜お迎えから1ヶ月。等身大人形と暮らす生活にも慣れてきた。
以前のように、夜中トイレに立った際に人影にビビって漏らしそうになることも今はない。
ともかく。声をかけながら、椅子に座った凛菜の膝に縋り付くように甘える。
「……」
時折、ふと冷静になる。俺は何をやってるんだろう? いい年こいてお人形遊びか? 家族にも同僚にも恥ずかしくて言えない秘密の趣味。
凛菜は何も言わない。表情が違って見えることがあるが、きっとそれは俺の思い込み。わかってる。わかってるけど、それでも。
今は他に、縋るものがないんだ。生きていくために、必要なんだ。
凛菜お迎えから3ヶ月が過ぎた頃。
「じゃじゃ〜ん! 今日はいいもの買ってきたぞぉ!?」
カバンから取り出したものを凛菜に見せる。
「ピノキオの絵本だ! 人形が動き出す話でな? まぁ、晩飯食ったら読んであげましょ〜♪」
人形はきっと文字が読めない。だったら読み聞かせをしようと思いついたのだ。我ながらどんどん沼にハマっていってる気がする。
凛菜お迎えから半年が過ぎた。
「えーと、大事な話があります。実は俺、今日が誕生日で……29歳になりました。それで、ですな……」
この日、俺は初めて凛菜と肌を重ねた。
凛菜をお迎えして初めての大晦日がきた。
「クリスマスにはサンタ衣装着てくれてありがとうな! おかげでスマホの画像フォルダがパンパンだ! ってことで年越しはいつもの衣装の上から半纏だけで我慢してくれ!」
宝くじが当たった。
「凛菜! すごいぞ1万円当たったぞ! 一緒に踊ろう!!」
派手にダンスした結果、あやうく転倒させそうになって無理して庇って腰を痛めた。
「お兄ちゃん、今年で30歳になるんだよね? もうちょっと婚活に真剣になった方がいいんじゃないかな〜?」
突然の妹の襲来。凛菜は簡易クローゼットに吊るし保管しているので見られる心配はないが、万が一ということがあるのが怖過ぎて冷や汗が止まらない。
「う〜ん、真剣に話を聞いてくれてるのはわかるんだけど……ちゃんと行動しようよ〜」
すまん妹、真剣に不安なだけだ。
そして月日は流れ、凛菜お迎え1周年まであと1ヶ月を切った頃。
唐突に。
突然に。
何の予告もなく、日常は終わりを告げた。