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第21話 戦慄の赤い帽子


「行けっ! リクッ! 振り向くなっ! 全力でこげっ!!」


「絶対戻るからなっ!!」


「いいから早く行けぇーーーーーッ!!」



 どうしてこんなことになったのか。


 考えている暇などない。俺は両手に強化包丁を構え、叫ぶ。


「来やがれザコどもっ!! 勇者ノダ=イサミが、てめぇらを皆殺しにしてやるっ!!」


 ……………


 ………


 …


 チャリをこぎ、休憩し、またチャリをこぎ、また休憩する。


 既に辺りは真っ暗になっていた。日付が変わるのはまだまだ先のことだろうが。


「ノ、ノダ……村まで多分もう少しなんだろうけど、ここで一旦休もうぜ……」


「ああ。そうだな……」


 みんなもう、声を出す元気もないほどに疲れている。無理もない。今までほとんど村から出たことがない子ども達が、長時間チャリをこぎ、野宿し、初めての街ではしゃぎ、また長時間チャリをこいでいるのだ。疲れるなという方が無理だ。カイも含め、根を上げないだけ大したものだと思う。そのカイは街ではしゃいだため疲れ切って熟睡しているようだ。


かくいう俺も、結構バテているのだが。ちなみに、慣れない野宿は無茶苦茶疲れる。可能であれば、ぶっつけ本番は避けた方がいい……出発前に、村で野宿お泊まり会しとけばよかったか。


 しかし、そんなに長くは休めない。魔物が滅多に出ないとはいえ、野犬などがいないとは限らないのだから。今この状態で襲われたら、俺たちなどひとたまりもないだろう。『ガサガサッ』草むらの方から音がする。


「ん〜? トイレか〜? 何度も言ってるが、危ないから声かけてから言ってくれ〜。ムギちゃんも恥ずかしいだろうが、それは絶対だぞ〜?」


「ノダさぁ〜ん……私はここにいますよお〜……?」


「ありゃ、ごめん……じゃあ誰『ガサガサガサッ!』


「やばい! みんなすぐチャリに乗れっ!!」




『敵』はすぐには襲ってこなかった。その隙をついて俺達はチャリに乗り、この場を離れる……つもりだったのだが。


「……嘘だろ? 囲まれてるのかよ……」


 不幸中の幸いか、休憩していた俺達は夜目がきく。しかしそれは同時に、絶望の宣告でもあった。およそ10体もの魔物が俺達を円形に包囲していたのだ。体型は人間の子ども型。ゴブリンのようだが、何かが違う気もする。


「おいソラッ!」


「リクッ! ……点呼! ノダ! ムギ! カイッ!」


「おうっ!」


「はいっ!」


「ふぁ、ハイッ!」


「状況を説明する! 敵はゴブリン! 推定10体! 僕達を円形に囲み、ジリジリと範囲をせばめて来ている! 狙いは恐らく食料! どうする!? ノダッ!?」


 くっ。俺に振るのかよ! ……いや、落ち着け俺。ソラは11歳なんだぞ? 俺が頑張らないでどうすんだ!?


「みんなチャリは村の方に向いてるな! 正面突破だ! 5数えたら合図する! そしたら真ん中のゴブリンを一斉にライトで照らせ! 目潰しだ! 再度合図したら全力で村までチャリをこげ! 危険だから加速は使うな! いくぞ! 5・4・3・2・1・ライトッ!!」


 4つのライトが正面のゴブリンを照らし出した瞬間、ソラが叫んだ。


「待てっ! 動くなっ! ヤツらは赤い帽子(レッドキャップ)だっ!!」


 刺すような大声に、敵味方共々静止したのが気配でわかる。レッドキャップ? 確かゲームとかだと、最弱モンスターゴブリンの色違いで、ちょっと強いヤツ……か?


「聞けノダッ! 執念深い! 村に逃げる! 群れで襲ってくる! 指示をっ!」


 単語の羅列だが、言いたいことは伝わってきた。ヤツらをここで殺さなければ、更に多くの群れで村に襲撃をかけてくるのか。考えている暇はない、どうするっ!?


「合図をしたら全員加速を使え! レッドキャップを追い抜いたら横一列になってチャリで壁を作る! リクはそのまま村まで急げ! 応援を呼べ!」


「オレも戦う!」


 案の定の返事だ。が。


「馬鹿ッ! カイ連れてんだろっ! 合図するぞ! ……加速ッ!!」


 瞬間、4機のチャリが猛スピードで前進、レッドキャップを追い抜く。そして内3機のチャリは即座にカーブを描き、縦列駐車するがごとく停止すると、リク機を守る壁となった。人間、必死になると息ピッタリになるもんだな。こんな時なのに思わず感心してしまう。そして俺は一瞬だけ凛菜と目を合わせ、その足元から2本の強化包丁を取り出すと1人、壁の前に仁王立ちになる。リクは行ったか? 振り返らず声をかける。


「行けっ! リクッ! 振り向くなっ! 全力でこげっ!!」


「絶対戻るからなっ!!」


「いいから早く行けぇーーーーーッ!!」


 どうしてこんなことになったのか。


 考えている暇などない。俺は両手に強化包丁を構え、叫ぶ。


「来やがれザコどもっ!! 勇者ノダ=イサミが、てめぇらを皆殺しにしてやるっ!!」



 精一杯の虚勢はしかし、知能が優れているという伝説の魔物への挑発としては効果てきめんだったようだ。流石に予想し得なかったであろう『加速』からの『壁』出現にフリーズしていたレッドキャップ軍団は、隊列もクソもなく俺目掛けて襲いかかってきた。慌てたリーダー格が奇声をあげ、他の奴らは『ハッ』としてその場に立ち止まるが、1体だけ俺に近づきすぎたヤツがいた。俺は冷静に、ヤツの首目掛けて強化包丁を飛ばす。


「ヒュッ……」


 喉元に空いた穴から最期の吐息を漏らしたレッドキャップはその場に崩れ落ちる。強化包丁はそのまま、真後ろにいたリーダー格の右肩を貫通してどこかへ飛んでいったようだ。あいつ、怒りで顔を真っ赤にして震えてやがる。……しかしリーダー格はすぐに冷静さを取り戻したのか、ゆっくりと後ろに下がりながら、奇声を上げてレッドキャップ軍団に指示を出す。『未知の敵』相手に、一旦隊列を整えることにしたようだ。こちらとしても好都合。ソラとムギちゃんに指示を出さなきゃな。



 殺すべき敵は───あと、9体。




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