第1話 お迎えの儀
───あなたは異世界転移したことがあるか?
俺はある。これは、今現在なぜか見知らぬ異世界で大変な思いをしながら日々を送る俺の、異世界転移前の話だ。
あー。
あー。
あーあーあーあーあーーーっ!!!
フラれた。死にたい。フってくれただけいいのか?
結局1度もヤッてないけどな!!
まあ、それはいい。
相手がやりたくないって言ってんのに、無理矢理やるのはただの暴力だ。
これからどうすっかなー? 今年で俺29歳だぞ?
またゼロから新しい女と知り合って、時間をかけて関係を深めて、結婚、か。
「もう、いいかな?」
誰に言うともなく、1人呟く。元よりここは、1人暮らしのワンルームだが。
ず〜っと昔から気になっていたものがある。ある漫画でその存在を知り、検索しては画像に見惚れ、『お迎え』するところを夢想してはうっとりしていた。
【ラブドール】
主に等身大人形の中でも、性的な機能を有するものを指す。
で。
フリーになったことだし、思い切ってお迎えしちゃおっかなーっと!!
昔みたく家族同居でもないからな。『欲しいけど買えない』ってワケではないのだ。そうと決まれば情報収集だ!
→2週間後
あ、あとはこの『注文完了』ボタンを押すだけだ……ハァ、ハァ、ハァ。
やっべ、めちゃくちゃ緊張するんだけど!? と、とりあえず注文内容の確認!
顔、身長、体重、胸のサイズ、ヨシ!
髪の毛の色とデザイン、ヨシ!
目の色、ヨシ!
肌の色、ヨシ!
胸のタイプはゼリー胸、ヨシ!
自在可動型骨格、ヨシ!
自立可能加工、ヨシ!
ホール一体型、ヨシ!
支払いは銀行振り込み、ヨシ!
諸々込み込みで15万円、ヨシ!
いいんだよな!? 押すぞ? 押しちゃうぞ!? ポチッ
→それから1週間後
うわあああああ!? 俺はなんてことをしてしまったんだあああああ!?
なんかすっげー『やってはいけないこと』をやっちゃった気がするううう!?
どうしよう……今更キャンセル出来ないし……
→さらに1週間後
下着に衣装にベビーパウダー。吊るし保管用の簡易クローゼット。
ゴムにローション。あと何が必要だったっけ〜♪
→さらにさらに1週間後
おおおおお!? 完成品画像付きメールキタコレ!? ……あれ?
なんかちょっと……注文した時の画像に比べると幼くね?
一応確認しとくか……
→注文から大体1ヶ月後
「ありがとうございました〜!」
届いたよ。箱がめちゃくちゃ重いよ。玄関から動かして、いよいよ開封の儀!!
……ボディ重っ!! こんなん箱から出せるの!?
関節、固っ!! あと冷たっ!!
う、うわっ!! お、おっぱいがぷるんっぷるんだ!!
たまたま手がかすっただけでここまで揺れるか?
つーかこのコ、Bカップで注文したのにどう見てもDカップはあるよな。
大きいのはいいことだけど。
服、着せるの難しいいいいい!!!
ウィ、ウィッグの被せ方ってこれでいいのか?
「か、完成だ……。やっべ。めちゃくちゃかわいい……」
「……」
「あー、まずは名乗ろうか。俺の名前は野田勇美。そして君の名前は凛菜だ」
「えーっと……まぁ、アレだ。『そういう目的』でお迎えしたのは認める。が、すぐにヤッたりしないから! しばらく……1ヶ月くらい経ってから、とか? とにかくお互い、馴染んでからにしよう!」
「……」
「それとこれ、腕時計なんだが。奮発して高いの買っちゃったんだが、同じ時間を過ごすって意味で、プレゼントだ。受け取ってくれ」
カチャカチャ
「ってことで、凛菜。これから、よろしくお願いします」
「……」
「側から見たら人形相手にずっと独り言いってるヤバいやつだよなぁ〜」
「……ま、いいか」