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第18話 初めてのゴブリン戦


 もうそろそろ休憩しようかというタイミングでカイが呟いた。


「なんかへんなにおいがするよー?」


「においなんて……でもカイが言うなら……」


「みんな、警戒しろ」


 カイが何かを嗅ぎ取ったようだ。6歳の彼に出来ることは何もない、などと侮るなかれ。彼は大変に鼻が効くのだ。かくれんぼの鬼をやったら速攻で全員見つけてしまうくらいに。


「グルルルル……」


 緑色で、耳が尖っていて、小柄な、魔物がいた。しかも5匹。ゆっくりとこちらに近づいてくる。


 初めて目にする本物のモンスターの姿に一瞬、心臓をギュッと掴まれたような衝撃があったが、大丈夫だと言い聞かせる。俺がしっかりしなきゃ。


「ソラ、あの魔物は?」


「ゴブリンです。魔物としては最下級、油断しなければ僕らでも簡単に倒せる程度の相手ですが、1体でも逃すと仲間を呼んで報復にくる恐れがあるので、全滅させられそうにないなら今すぐ逃げましょう。ノダ、冷静な判断を」


 冷静な判断ってか。内心ビクビクもんだよ。足の震えを誤魔化すので精一杯だ。


「リク、魔物と戦ったことあるか?」


「ゴブリンなら年に1回くらい、村の近くで出くわすことがあるぞ。1対1でなら負けたことはないぜ」


 戦闘経験ありか。落ち着いているソラも戦力に数えていいだろう。


「ムギちゃん」


「は、はいっ!」


「カイと凛菜を頼む。あとの2人は強化包丁を1本づつ持て。俺たち3人でやるぞ」


「戦うんですね。わかりました」 


「おう。流石に5匹いっぺんに相手したことはないけどな!」


「わかりましたっ!」


 それぞれに動き出し、自分のなすべきことをする。


「ソラ! こっちから行くべきか、来るのを待つかどっちだ!?」


「ゴブリンは知能も低いです。一気に突っ込んでせん滅しましょう」


「了解!」


 返事と共に駆け出し、最寄りの1匹の胸をめがけて強化包丁を差し込む。微かな手応えのみで根元まで突き刺さる強化包丁を、ゴブリンの腹に足を掛けて引き抜く。


 ブシュワーッ!!


 鮮血が吹き出してきたので慌てて飛び退くと、他のゴブリンと背中合わせになったので振り返ってこれにも首元を狙って突き刺す。


「これで2匹! 次ッ!!」


「ノダ!」


 ソラの声が聞こえる。戦闘中だそ。話している暇は「ノダッ!!」


「もう終わってる。……大丈夫だから、ノダ」


 リクが伸ばしたままの俺の腕に優しく手を重ねて、おろしてくれる。


「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ」


「よく頑張ったな、ノダ」


 終わったのか。一瞬の出来事だった気がする。まだ気を抜いたら後ろから襲われる気がする。


 キョロキョロしていたら柔らかい光が視界に入ってきた。


「なんだこの光……」


 見ると、ソラの手にリクの手を重ねたところから発光していた。


「ああ、オレは簡単なヒールが使えるんだ。ソラがちょっと怪我したからな」


 リクはヒーラーだったのか。知らなかった。


「あくまで応急処置程度のレベルだけどな」


「いや、すごい能力だよ。それに何だか、見てると気が落ち着く不思議な光だな」


 こんな能力があるのなら、ボヤ騒ぎの時のやけども……あ、あの頃はまだ会うの禁止されてたか。


「もう大丈夫、ですよね……」


「みんなだいじょーぶー?」


 恐る恐るといった調子でムギちゃんとカイが近づいてくる。


「ああ、大丈夫だ」


 これが初戦。これが本物の戦い。


 正直、この世界に魔物がいると聞いてからも『いわゆるゴブリン程度の魔物なら余裕だろ』と舐めていたが、本物を目の前にするとヤバかった。俺1人だったら絶対逃げ出している。あるいは、殺されていたか。それほど恐ろしかった。今回は無我夢中でなんとかなっただけだ。


「念のため、もう少し移動して安全そうなところで野営をしよう。みんな疲れているだろうし、もう街まで行く元気はないだろう」


「一晩休んで、引き返すってことか?」


「それもいいと思ってる。正直あんなのが出てくるとは思わなかった。道中を甘く見ていた。すまない」


「何言ってんだ。ゴブリン程度で。ここで引き返したらそれこそ二度と街には行かせてくれなくなるぜ?」


「僕もリクに賛成です。ここで引き返すとあなたの責任を問われますし、今後の評判に関わりかねない」


「わ、私も……みんなに賛成、かな。何も出来なかったし怖かったけど、これも冒険! って感じがしてて……勝手なこと言ってごめんなさい」


「……みんな強いな。俺は大人なのに、情けない」


「そんなことねーよ。オレだって初めてゴブリン見た時はビビッて漏らしたし」


「それは初耳ですよ? リク」


「うるせーな。お前らに言えるわけねーだろこんなこと。まぁムギだけは知ってたけどな」


 なんだか和んだ空気になってきたので、改めて移動の指示を出す。本当に、どっちが大人かわからないな。


 ………


「ノダ、焚き木はこのくらいでいいですか?」


「ああ。それだけあったら充分だ。ありがとうソラ、ムギちゃん」


「でもどうやって火を着けるんですか? 火打石は持ってきてなかったと思うんですけど……」


「まぁ見ててくれ。……火炎破裂魔術(ファイア・バースト)」 


 焚き木に当てた右手のひらから一気に発火し、すぐに着火する。これは火魔術の応用、(オレ)ジナル魔術だ。普通の火魔術で着火してもいいのだが、詠唱が面倒だし絵的に地味なのでこの機会にお披露目させてもらった。


「すげっ! ノダはどんな魔術でも使えるのか?」


「まぁ初歩的なヤツばっかりだが、一通り習得したぞ。水魔術も使えるから、返り血を洗い流して焚き火で服を乾かそう」


「これが魔術の応用……正直、僕に魔術は不用だと思って知識のみに留めていたのですが、ノダを見ていると使い方次第だと思い知らされますね」


 ソラが魔術に興味を持ったようだ。村に帰ったら一緒に特訓するのもいいかもしれないな。互いに魔術の腕を高め合えそうだ。



 ───そしてなんとか無事に一晩を明かした俺たちは、翌朝とうとう街へと辿り着いたのだった。




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