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第15話 あなたと出会えて良かった


 自転車の製作。


 冷静になって考えてみれば、そんなもの作ったことないのだ。もちろんこの世界に資料なんてあるワケがない。……なんてことをリク、ソラ、カイに思わずボヤいたら、ものすごい勢いで食いついてきた。


「ノダ! オレらも手伝うからさ! 絶対に完成させようぜ!」


「自転車……1人用の人力馬車……動力源は自分自身なのでエサが不要な上、小回りがきく、か……そんなこと、考えたこともなかった……異界人の発想はなんてユニークなんだ……!!」


「カイのも〜! カイのもつくって〜!」


 もちろん動機はボカしておいたが。「ノダ、何難しい顔して考えこんでんだ?」と聞かれたのでつい「いや、街まで往復できる1人用の乗り物を作りたいんだけど、どうしたらいいものかと思ってな」と口を滑らせたのだ。


「すげーな! オレ達、一度も街に行ったことないんだ! みんなで行ったら楽しいだろうなー!!」


「待てよ? 何も1人乗りにこだわらなくても……リンナさんも乗せられるように……馬車のように荷台を牽引……動力補助に魔導機械を取り付けて……」


「え〜? リンナものれるの〜? カイ、リンナとのりたい〜!」


 しかし、子ども達の柔軟な発想には舌を巻く。ほんのわずかな時間に大きなヒントをもらえた。


「ノダ? 固まってどうしたんだ?」


「あ……1人用ということは、あまり僕たちが関わらない方がよかったですか……? 確かに、街まで行けばああいうお店もあるでしょうが……」


「ノダ〜! いつつくる? いつつくるの〜?」


「リク、ソラ、カイ! ありがとうな! お前らの発想力には驚かされるよ! そうだよ! 自転車(・・・)にこだわる必要なんてなかったんだよ!!」


 ポカーンとしている3人に思い付いたことを説明する。あとソラ、お前実はムッツリスケベだな?


「ってことでだ、まずは俺とソラで設計する。その間にリクとカイは、大人達の手伝いをしながら廃材をもらえるだけもらって集めといてくれ。もちろん危なくない物だけな。何が役に立つかわからんから、腐らない物ならなんでもいいぞ!」


「ノダ。別に嫌なワケじゃないけど、手伝わなくても廃材くらいみんなくれると思うぜ?」


「わかってませんね、リク。必ず『ノダがまた何か始めた。今度は子ども達を巻き込んで』と言われるようになるんですよ? まぁ、ノダの手伝い程度は黙認してくれるでしょうが。しかし、みんなで街に行くとなると必ず『危ないからお前達は駄目だ』と言われます。その時に『でも僕たち、このために毎日一生懸命みんなのお手伝いをして部品を集めたのに……』とか涙目で訴えれば、大人なんてイチコロですよ。加えて、引率の名目でダイアンさんの同行を取り付けられたら完璧ですね」


 ソラ、俺はお前が恐ろしいよ。手伝いの理由はドンピシャだが、ダイアンさんを巻き込む発想はなかった。あの人なら街にも詳しいだろうし、名案だな! ……俺は近い将来、ダイアンさんが右手で顔を覆って天を見上げる姿がありありと想像できた。



「カイはお留守番……というのはひどいから、今回はリンナさん同様『後部座席』に座ってもらいます」


「わ〜い! リンナといっしょだ〜!」


 えーとソラさん? アナタいつの間にか主導権を握ってません?


「では、今この時から開始です。自転車であって自転車ではない物を作るということで、異界での別名を拝借して『プロジェクト・チャリ』始動!」


「「お〜っ!!」」


 リクとカイが駆け出す。おいおい転ぶなよ〜? ……つーか完全にソラが仕切ってんな。俺いらなくね? スネるぞ?


「ノダ、出過ぎた真似をしてごめんなさい」


 突然振り返ったソラが深々と頭を下げてくる。へ?


「……自分で言うのもなんですが、僕は非常に頭がいい。しかし秘密基地のリーダーはリクだ。なぜだかわかりますか?」


 いや、全然? 内心では見下してる、ってこともなさそうだし。


「……リクは、僕が思いつかないことを思いつき、しかもそれを実行できるんです。発想、勇気、行動力が伴っている」


 羨ましい、小声だが確かにソラはそう言った。俺は沈黙を保ち、続きを待つ。


「ノダもそうです。逆境の中で数ヶ月、遂に村人達に自分を認めさせた。あなたを、尊敬しています」


 ソラは真顔だ。俺は今、どんな表情をしているのだろう?


「でも、だからこそなんです。だからこそ『発案者がノダであってはならない』のです。キッカケはあなただが、それを聞いた僕達が勝手に計画を立てて動き始めた、そういう筋書きでないとマズいんです!」


 言いたい事はわかった。街に出て、誰かが怪我でもしたら俺が責められ、せっかく築き上げた信用を失うことになるからだろう。


「……馬鹿」


 熱が入ってきたソラの頭にポンと手を載せ、ボソッとつぶやく。


「……馬鹿じゃないですよ。村一番、いえ、村長の次くらいには、頭がいいんですから。……これは客観的な事実ですからね?」


 珍しくスネた表情を見せるソラに、思わず頬が緩む。


「じゃ、俺はソラを『手伝えば』いいんだな? よろしく頼むぜ? 相棒!」


「……はいっ!」



 ───始めは、1人用だった。でも今は、5〜6人用の『チャリ』を作るべく、俺達は日が暮れるまでアイデアを出し合った。




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