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第13話/幕間 村長のため息


 心底うんざりしたような表情をしてダイアンがやってきた。


 これはまた、あの男が何かやったな?


 あの男ときたら、いつも我々の想像を超えたことをやらかしてくれる。


 対して、ダイアンの一言目は容易に想像がつく。『村長、ノダが今度は』だ。


「ふぅ……」


 村にあの男が来て以来、何度ため息をついたことやら。




 始まりは突然だった。ある日、もう夜に差し掛かろうかという時間にダイアンが訪ねてきたのだ。


『村長、とてもそうとは思えないのですが……予言の勇者、かもしれない男を連れてきました』


 あの男を一目見た瞬間、ワシは思わず叫んでおった。


『もしや、お主が勇者なのかっ!?』


 古の予言にはこうある。【 世に暗闇訪れし時、異界より勇者が現れる。その者、黒髪(こくはつ)にして四つの目を持ち、摩訶不思議な力を操りて、大いなる災いを退(しりぞ)けん 】 夕闇の中から現れた、珍しい黒髪の男。眼鏡をしており、精巧な人形を抱いている。どちらをとっても『四つ目』と言えよう。しかし……。


 この男がどのような人生を送ってきたのかはわからぬ。しかしすぐに気付いたことは『この男には覇気がない』だった。とても勇者の資格があるとは思えない……しかし、ダイアンの証言や男の話を聞くに、異界から来たというのは間違いなさそうだ。ダイアンほどに信用のおける男を他に知らんでな。そして男の奇妙な所持品の数々。特に『すまーとほん』なる道具から発せられる美麗な音楽には、立場も忘れて魅了されてしまった。まさに『摩訶不思議な力』だった。ともあれ、所持品をこちらで預かるのはかえって危険だと判断し、全て男に返却した。



『お主が異界から来たということは、ここにいる3人だけの秘密じゃぞ?』


 この男が勇者とは思えんが、ならば尚更、保護せねばなるまい。この世界の人間は黒髪に敏感だ。過敏と言ってもいいだろう。そのキッカケが例の予言であるというのも、なんとも皮肉な話だが。


『行くアテがないのなら、当分の間この村に住んだらいい』


 『保護する』などと格好をつけたものの、今のワシには何の力もない。異界から来たというのは本当のようだし、せめて本物の勇者が現れるまでの間、村で(かくま)うのが精一杯だ。それでも黒髪は目立つ。200年以上空き家だと伝わる、丘の上のボロ小屋に住んでもらうか。あそこなら多少は目立たずに済むし、近頃は子ども達が遊び場にしていて不安なので、それを追っ払う役割も担ってもらうとしよう。……まぁ、あまりのボロさに腰を抜かすかもしれんが。



『ところで気になってたんですが、この世界のゴーレムってどんなものなんですか?』


 覇気のない男だと思っていたが、突如として男の雰囲気が変わった。今ならわかる。奴は獣だ。知識を喰らい尽くす獣だったのだ。


『ああ、ゴーレムってのはまあ……人間を模した魔導機械というか……』


 ダイアンが言い淀む。……無理もあるまい。代わりにワシが説明することにした。


『魔力とはどういうものですか?』『魔術? それは俺も使えるようになりますか?』『話の腰を折って悪いですが、王宮とは?』『魔物に魔王! やはりいるのか……!!』『充填式魔力発生魔導機!? もっと! もっと詳しく!!』


 疲れた……あの夜は本当に、ダイアン共々くたびれ果てた。あれほど貪欲に知識を求めるとは。魔術書だらけのボロ小屋に引っ込んで、もう二度と出てこないで欲しい。男が満足するまで説明を続けたワシは、心底そう思った。男が去った後、家々を回って『王都の方から来た黒髪の流れ者を丘の上の小屋に住まわせた。長居はしないだろうが、悪いようにはしないでやってくれ』と頼みこむ。ふぅ、村長は大変だわい。なお、後で聞いた話だがダイアンはその後、丘の上まで道案内をさせられたそうだ。両手が人形で塞がっているとはいえ、疲労困憊しているダイアンをこき使うとは……あの男は鬼か!!



 翌日。あの男になんかすごい額のツケを作られていた。『ヒョエーッ!?』とか言いたいが、立場上、表情には出せない。その上、あの男は『デヘヘヘヘ、甘えついでに当面の生活費も……』ず、図々しすぎるのでは!? 『全額、ちゃんと働いて返すのじゃよ?』まぁ、この男ならキチンと返そうとするだろうが、こちらも懐事情があまりよろしいわけではない。毎月少しずつでも返してもらわんと割と本気で困る。



 ノダが毎朝、挨拶にくるようになった。最初は『あ、えと……おはようございますっ!』と言って去っていったが、村中に挨拶をしたあと『あの、えと、こんにちは……』となぜかまた挨拶に来た。そこでようやくピンと来た。この男、働き口を探しているのか。『仕事が欲しいのか?』問うと気まずそうにしている。まったく、プライドだけは一人前か。ともあれ、仕事を斡旋(あっせん)してやりたいのは山々だが、なにぶん小さな村のこと。得体の知れない流れ者を恒常的に雇ってくれる者はいまい。『ふぅ……』仕方がないので、小遣い稼ぎ程度の雑用を任せる。間違っても金額に文句は言うなよ? ワシの金欠は誰のせいだと思っているのだ! と怒鳴りたくなるからな。なお、ワシ1人の懐具合ではどうにもならんので、ダイアンにも『ノダに雑用を任せてやってくれ』と頼んでおいた。巻き込んですまんが、財政難が深刻なのだ。



 ダイアンには、ノダが妙な動きを見せ次第、報告するように言ってある。あの男を信用していないわけではないが、やはり異界人は異界人である。この村を預かる長として、警戒はすべきであろう。


『村長、ノダが今度は雑貨屋にあの人形を連れていきました』

 あの男は村人達から自分がどう見られておるかわかっとらんのか? なぜ火に油を注ぐ様な真似を!?


『村長、ノダが今度は子ども達を家に入れてしまいました。親達からものすごい苦情が……』

 知っとるわい。深夜になるまで怒鳴り声が止まらなかったからな。子ども達を叱った後は、お主の家から。


『村長、ノダが今度はボヤ騒ぎを起こしました。幸い大事には至らなかったのですが、文化遺産とも言えるあの家を燃やされるのは……』

 ノダアアアアァッ!!! ……しかし、あの家を貸したのはワシだ。藪をつついて蛇を出すには時期尚早、か。金銭的な意味で。


『村長、ノダが今度は商売を始めました。それだけならいいことなのですが、今回はムギをまきこんでいるようで……』

 ムギぃいい〜〜〜……。いつもつまらなそうな顔をしていたあの娘が、ノダが来て以来明るくなったのは良いことなのだが。歳の差を考えろ歳の差をぉ〜……。いくらヘタレとは言え、流石にジュンが哀れだわい。




 ハッと気付いて意識を目の前のダイアンに戻す。ダイアンは疲れ切った顔をしてゆっくりと口を開いた。


「村長、ノダが今度は、なんというか……妙な物を作り始めまして。しかも俺に……」



 ───そしてワシはまた、ため息をつくことになる。




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