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第12話 変わる関係、変わらない関係


【強化魔術で汚名返上大作戦】


 ムギちゃんの休日に我が家で相談することになった。『いや、独身三十路男の家に未成年女子が来るというのはちょっと……』とやんわり NO THANK YOU したら『リンナさんもいるから問題ないでしょう? それに、ノダさんのおうち以外で相談できる場所なんてありませんよ? 雑貨屋もどこも、四六時中誰が聞き耳立ててるかわかりませんし』と返された。村こわっ! ゆえにやむなく、ウチにムギちゃんを招くことに。



「お邪魔しま〜す……。わぁ〜! 中ってこんな風になってたんですね! 私も一度入ってみたかったんです! それこそ、子どもの頃から!」


「借り物の家だけど気楽に過ごしてね」


「はい、ありがとうございます! それで、リンナさんはどちらに?」


 はいきた〜……一応、寝室の椅子に座ってもらってはいるが。ええい、やましいことは何もないんだ! 案内する。


「あ! リンナさんだ〜! おひさしぶ……り……」


 ベッドを見てフリーズするムギちゃん。デスヨネー。


「あ、あ〜……これはアレだ。最初は知らずに使ってたし、その後は買い換える金もないし村には売ってないし、で……」


「べ、別にいいですよ? で、でも私が子どもの頃に使ってたお布団だから、ノダさんには小さくないですか?」


 うう、ほんのり頬を赤らめてるし。なんかもう大人として諸々すみません。


「い、いや、なんとか使えてる。ないよりマシだし、大いに助かってるよ」


「そ、それならいいんです、それなら……」


 流石に『毎晩凛菜と添い寝してるから超密着状態です』とまでは言う必要はあるまい。……ないよね?



「それで私、強化魔術の使い道を考えてみたんです」


 居間に戻る途中、照れを振り払うように真面目な顔になったムギちゃんが語り出す。「元々はリンナさんの耐久性を上げるために作ったんですよね? だったら刃物以外にも使えそうだなーって。例えば傘とか、農機具とか、食器類とか」なるほど。時々大雨が降ることを考えれば傘、農家が多いから農機具、割れたり欠ける恐れのある食器類か。その発想はなかった。「すごいねムギちゃん。俺は刃物にばかりとらわれていたよ」「へへっ♪ 毎日ずっと考えてましたから」照れ臭そうに笑うムギちゃんが頼もしかった。




 数日後の早朝、ムギちゃんの休日。


 雑貨屋の外の入り口脇に、我が家から運んできた机と椅子5脚を配置する。「こっちの椅子3つが私達の席、対面の2つがお客さんの席です」そう、5脚なのだ。あろうことかムギちゃんは『リンナさんにも手伝ってもらいますよ?』と、とんでもない提案をしてきたのだ。『はぁっ!?』これには俺も瞳孔がガン開きになった。紫外線どうこう以前に、なぜ凛菜まで?


『言い方は悪いですけど、客寄せのためです。リンナさんキレイだし、何よりこんなによくできたお人形、きっと王都でも珍しいと思うんです。前に一度、ノダさんが村の中に連れてきましたよね? 実はあの後1週間位、リンナさんの話題で持ちきりだったんですよ? だから、間近でじっくり見られる機会があれば、みんな飛びついてくると思うんです』もしかしなくてもムギちゃん、商才あるなぁ。


「ノダさんは真ん中に座ってくださいね。良かったですね、両手に花ですよ?」悪戯っぽく笑うムギちゃん。くっ、18歳に翻弄される30歳独身とか。「後は立て看板を置いて、っと」ムギちゃんは楽しそうに立ち回っている。その間に俺は凛菜を連れてくる手筈だ。


 俺手作りの看板には『【強化屋】 超激安! どんな道具も『強化』します!』という怪しすぎる謳い文句が。『これだけでいいの? もっと具体的な説明文とか……』と言うと『目的は目を引くことだからいいんです。リンナさんもそうですが、お客さんが椅子に座りやすいように言い訳を用意してあげるんですよ。『看板の言葉の意味が気になったから』 『人形が気になったから』 自分を納得させられるだけの理由があれば、お客さんはきっと椅子に座ってくれます!』ムギちゃんすげぇ。ホント味方になってくれてよかった。


『ちなみに、狭くてもこちらの椅子が3脚必要な理由は『私も一緒にやっている』と周知するためです。場所が雑貨屋の前だし、私がただ手伝ってるんだーって見られるより、強化屋の一員として働いていることを強調した方がお客さんが話しかけやすいですから。『どうしたんだいムギ? 強化屋って一体なんなんだい?』って。そしてそのまま椅子に座ってもらうんです。強化する道具? あはは、そんなの後から考えてもらえばいいんですよ。とにかく『座らせたら勝ち』ですから!』ああ、この時のムギちゃん、目が据わってたな。それにも理由があるのだが。


『雑貨屋の店先で商売するとか喧嘩売ってるようなもんだけど、よく家族が許可してくれたな? やっぱり事前に挨拶くらいしとこうか?』『挨拶なんて必要ありません。これは戦いですから』『は?』『父にノダさんの強化包丁を見せたんです。そして計画のために店先を貸して欲しいと伝えました。そしたらなんて言ったと思います?『お前は騙されているんだ。あと、商売を舐めるな』って。確かに、商売に対してまだまだ意識が甘いことは認めます。長いこと、いい加減な接客しかしてませんでしたし。


 でも、ノダさんを悪く言ったことは許せない。ノダさんのことを知りもしないで、ううん、知ろうともしないで(・・・・・・・・・)、騙されているなんて勝手に決めつけて! だから私言ったんです。『父さん、じゃあ勝負よ。私達に1日だけ店先を貸してちょうだい。そして売り上げがこの店の1週間分の売り上げを上回った時は、ノダさんに謝ってちょうだい。もし負けた時は、ノダさんはこの村を出ていくから』って』『……!?』『安心してください。絶対に負けませんから。万が一もし負けたとしても、約束通り私も一緒に村を出ますから』


……俺は「そんな約束してねーよ」と心の中でだけ呟いた。




 そして。


 結果から言おう。俺達は勝利した。正確に言えば『1日で雑貨屋の1週間分の売り上げを上回る』という無理ゲーな条件は満たしていないのだが。


 物珍しさとムギちゃんの呼び込みで、早朝から来てくれた何人かのお客さん達が噂を広めてくれて、朝食が終わる時間帯からお昼までは休みなく強化し続けることになった。毎回全力ではないものの、これほど長時間『強化』を連続使用したことがなかった俺は根をあげ、お昼からしばらく休ませてもらうことになった。なぜか雑貨屋さんで。


 意識朦朧としていたので記憶にないが、ムギちゃんパパが『もう俺の負けでいいからそれ以上無茶をしないでくれ! ウチで休めるようにしたから今すぐ横になってくれ!』と泣きそうな顔で絶叫していたそうだ。そしてしばらく休ませてもらい『ホントにもう大丈夫ですから』と引き留める手を振り払って外に出ると、村人総出で『強化屋』を取り囲んでいた。


『はいはい、今来たお客さん、こっちで整理券配ってるから! 多分1週間待ちとかになるけど勘弁な!』『はいそこ、それ以上リンナさんに近づかないように。僕らですら触れることを許されてないんですよ? 例えうっかりでも触ってしまったが最後……わかりますね?』『はいムギ、おみずどうぞ』子ども達が手伝ってくれていた。俺は必死に声を出そうとしたが、なぜか出てきたのは涙だった。




『強化屋』を始めて1ヶ月が過ぎた。村中の道具という道具を強化してしまったせいか、客足はすっかり途絶えたのだが。


「おはよう、ノダ。いい天気だね。今日、もし手が空いてたらでいいんだけどさ……庭の草むしり、頼めないかい? ほら、天気が良すぎてすぐ伸びちゃうからさ? こないだ頼んだばかりなのに悪いけど、頼めないかねぇ?」


「ありゃ、先を越されたか! じゃあ明日でいいや! ノダ、明日は俺の仕事を手伝ってくれ! 人手が欲しい時期に入ったんだ!」


 少しづつだが、村の人達が俺を受け入れてくれるようになってきた。


 もう誰も見咎める者がいない今、子ども達は今日も『秘密基地』に遊びにくる。


 ───もちろん、休日にはムギちゃんも。




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