第07話 ミィナと、かみさまの石【ミィナ視点】
――おかあさんは、もういない。
でも、おかあさんの声は、まだおぼえてる。
「ミィナ、いい子だね。じゃあ、この石はミィナのおまもりね」
そう言って、おかあさんがくれた、きれいな石。
まるくて、つるつるしていて、ほんのすこし、ひんやりしてる。
ミィナの小さな手に、ぴったりの大きさだった。
それを、ミィナはだいじにしてた。ポケットに入れて、おひるねのときもにぎってた。
この石があれば、おかあさんと、また会えるかもしれないって思ってた。
▽
その日、おにわで遊んでるときだった。
ティノに「ほら、バッタいるよ!」って言われて、ついつい走ってしまって。
ころんだ拍子に、ポケットから石が――ぽとんと、落ちた。
気づいたときには、もうなかった。
どこをさがしても、草の中にも、石のかげにも、なかった。
「……ない……」
ぽろぽろ、涙がこぼれてきた。
ティノが「どうしたの?」と聞いても、「ううん」って、首をふるしかなかった。
リゼルはおせんたく中で、いそがしそうだったし、言いたくなかった。
だから、ミィナはひとりで探しに出た。
でも、小さい足じゃ、庭じゅうをさがすだけでも、すごくつかれてしまう。
「……おかあさん……」
よわい声が、口からもれた。
▽
そのとき――カイおじちゃんが、そっとしゃがみこんで、ミィナの目線にあわせてくれた。
「……なにを、なくした?」
ミィナは、びっくりした。
なにも言ってないのに、ばれてた。
「……いし、なの」
しずかに、でもちゃんと話した。
そしたら、カイおじちゃんは、何も言わずに立ち上がって――
「……いっしょに、さがそう」
そう言って、手を出してくれた。
その手は、おかあさんとちがって、ごつごつしてて、大きくて。
でも、にぎったら、すぐにあったかくなった。
▽
ふたりで、庭のすみまで歩いた。
カイおじちゃんは、ひとつひとつ、石をどかして、草をわけてくれた。
しばらくして――
「……これか?」
手のひらに乗った、まるくて、つるつるした、ミィナの石。
「……!!」
ミィナは、目をおっきくして、声が出なかった。
でも、すぐに、うなずいて、ぎゅっと抱きついた。
「……ありがと、おじちゃん……!」
カイは黙っていたけど、ミィナの頭を、ぽんぽんとやさしく撫でてくれた。
▽
その日の夜、ミィナは石を小さな袋に入れて、おふとんの横に置いた。
そして、おやすみ前に、こっそり呟いた。
「……カイおじちゃん、かみさまみたいだったね」
リゼルがふきだして、「それは言いすぎだよ」って笑った。
でもティノは、まじめな顔でうなずいていた。
「うん。でも、おじちゃん、ほんとにすごいんだよ。困ってるとき、ちゃんと見ててくれるから」
「……『こえ』がなくても、わかってくれる」
「そうそう、それ」
ミィナは、ふとんの中で、あったかい気持ちに包まれて、そっと目を閉じた。
おかあさんの声はもう聞こえないけど――でも、今のミィナには、おじちゃんがいてくれる。
だから、もう少しだけ、泣かなくてもいい気がした。
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