第19話 手紙と過去の声【カイ視点】
ある日の昼下がり。
郵便を運ぶ村の青年が、珍しく手紙を持ってきた。
「カイさん宛て。お嬢さんの学舎からです」
リゼルの通う簡易学舎から届いた封筒には、丁寧な筆跡で
《リゼルさんのお父さまへ》と書かれていた。
家族のいない時間、カイはそれを一人、囲炉裏のそばで開いた。
▽
便箋は二枚。
一枚目は、教師からの報告。
「リゼルさんはとても賢く、皆に慕われています。特に読み書きと算術の理解が早く……」
『私たちの手助けを申し出てくれる優しい子です』――と、書かれていた。
カイは、それを読んで、そっと目を細めた。
そうかと、言葉にならない安堵が胸に満ちる。
そして、もう一枚――それは、おそらく……リゼルが触れた『過去』から託されたものだった。
便箋の上に書かれていた、あまりにも懐かしい名前。
――ライナの旧友より
カイは、膝の上に手紙を置いて、一度深く息を吐いた。
そして、読み始めた。
________________________________________
拝啓 カイさん
お元気ですか?
この手紙は、ほんの少しだけ昔の記憶を、あなたに届けたくて書いています。
あなたとライナさんが話していた日、彼女はよく、子どもたちの話をしていました。
「きっと、あの人なら――私の代わりに『生きてくれる』」と、そう言っていました。
彼女が、何を守りたかったのか。
それは、家族であり、あなたであり、そして『未来』でした。
無口で、不器用な人だけど、でも本当にまっすぐな人だと、ずっと信じていたと、言っていました。
彼女は、最後まであなたの背中を見ていました。
そして、安心して目を閉じることができたのです……もう、大丈夫です。
あなたが今、彼らのそばにいる限り。
ただ、それだけが、彼女の『願い』だったのですから。
________________________________________
手紙を読み終えたカイは、何も言わずに目を閉じた。
囲炉裏の火が、ぱち、と小さな音を立てる。
胸の奥が、静かに熱かった。
許されたいわけじゃない。
忘れたいわけでもない。
ただ――あの人が、笑っていたという事実だけで、今を歩いていける気がした。
その夜。
ミィナが眠る前、ふと聞いてきた。
「おとうさん、むかし、さみしかった?」
「……ああ。さみしかった。……でも、今は違う」
カイはミィナの小さな頭を撫でながら、静かに言葉を続けた。
「昔は、守れなかった。けれど今は――守れている」
「ふふ、じゃあ、よかった」
ミィナは満足そうに笑い、そのまま目を閉じた。
月の光が障子越しに差し込み、静かな影を落とす。
カイは天井を見つめたまま、ふっと息をついた。
(……ライナ。お前の言葉は、今でも俺の中にある)
だから、もう迷わない。
俺は、これからもずっと、君の家族と共に、ここにいる。
読んでいただきまして、本当にありがとうございます。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!




