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第18話 ティノ、大冒険の巻【ティノ視点+お父さん】


【ティノ視点】


 その日は、なーんとなく気分がよかった。

 空は晴れてるし、パンは焼きたてだし、ミィナはリゼルの手紙を読んでうるうるしてたから、ちょっとだけ静かだった。


「ティノ、パン屋さんに行ってきてくれる? ジャムパンと、牛乳、あと……これリストね」


 そう言ってお父さんが買い物袋を渡してきた。

 

 ――ついにきた。ひとりで!村まで!おつかいだ!


「まっかせなさーい!!」

 

   ▽

 

 しかし、村までの道は思ってたよりずっと長かった。

 石につまづき、犬に吠えられ、迷子のおばあちゃんに道を聞かれ――ようやくパン屋に着いた頃には、汗びっしょり。


「ジャムパンと、ミルク……あとなんだっけ……えーっと、ジャガ……イモ?」


 何か違う気もしたけど、気のせいだと思うことにした。

 

 買い物を済ませて、ちゃんと買い物が出来た事が嬉しくて、パン袋をぶんぶん振りながら帰る途中――事件は起きた。

 段差に気づかず、盛大につまずく。


「うわっ!?」


 ぼてっ。

 袋が宙を舞い、パンが草の上にダイブした。

 ――そして、運命のように、木陰から一匹の子犬が登場した。


「や、やめろ!?それはオレのジャムパンだー!!」


 ティノの叫びもむなしく、ジャムパンは無残にもかじられた。

 

 ――泣きたくなった。

 でも泣いたら、なんだかリゼルに笑われそうで、必死に唇を噛んだ。


「くそ……オレ、まだ『守る』とか、できないじゃんか……」


 ――いつか、お父さんのように、強い男になりたいのに。

 そのためには、ちゃんと、強くなって、誰かを『守る』ことが出来るようになりたいのに。

 

 そのときだった。


「……立てるか」


 低くて、静かな声かした。

 振り返ると、カイお父さんが立っていた。


「な、なんでここにいるの!?」

「……お前が帰りが遅いと、ミィナが泣きそうになるから」

「……うう」


 お父さんは黙って手を差し出した。

 ティノは、すこし恥ずかしそうにそれを握って、立ち上がった。


「パン……やられた……」

「……代わりを、買ってきた」

「まじで!?さすが、お父さん!」


 ティノはすぐ笑って、でもちょっとだけ顔をそむけた。


「……ごめん。オレ、強くなりたいんだけどな。まだぜんぜん……」

「……今のままでも、十分強い」

「……ほんとに?」

「ああ……本当だ」


 その言葉を聞いて、うれしくなってしまった。

 笑顔を見せる自分に、お父さんは優しく頭を撫でてくれた。

 

 帰り道、お父さんはティノをおんぶしてくれた。

 ティノは最初「歩けるし!」と抵抗したけど、途中でやっぱり甘えてしまった。


「ねえ、お父さん」

「……ん」

「オレ、大人になったら……お父さんみたいになれる?」

「……もっと立派になれる」

「……へへ。ありがと」

 

 おんぶの背中は、いつもより少しだけ近かった。

 歩くたびに揺れるけど、ぜんぜん怖くなかった。

 きっと、それはお父さんの事を信じているから、この人なら大丈夫だと思っているからだと――つい、嬉しくて、おんぶされたお父さんの背中に甘えるのだった。


読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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