第17話 リゼル、学校へ行く【リゼル視点】
春の終わり、風がぬるくなった頃。
近くの村にある簡易学舎――小さな学校が、数年ぶりに再開されることになった。
突然、カイお父さんが提案してきたんだ。
「行ってみないか?」
「……えっ、私が?」
「ああ。……お前が、望むなら」
まさかそのような事を言われるとは思っていなかったので、その時頷く事が出来なかった。
その夜、私は布団の中で、目を開いたままじっと天井を見ていた。
学校――実はすごく、行きたい。
でも、心のどこかで、怖いと思っていた。
だって私は、家族の『長女』だったから。
料理も掃除も、ミィナの歯みがきも、ティノの宿題も、ぜんぶ私の『仕事』だった。
私がいないと、この家は――なんて、思ってた。
でも、それはきっと違う。
次の朝、私はおとうさんに言った。
「行ってみる。……学校、行きたい」
おとうさんは、小さく頷いた。
「わかった」
おとうさんは、それしか言わなかった。
だけど、その一言に、背中を押してもらった気がした。
▽
今日から、学校が始まる。
出発の日は、早起きした。
ティノは変な顔をしている。
「へぇ、リゼルがいないとさみしいな」
なんて言っていた。
ミィナは
「さみしくないもん!」
と言って、そっぽを向いたまま怒っていた。
でも、声はふるえていた。
「ミィナ……」
「……これ、もってって」
ミィナは、小さな布の袋を渡してきた。
中には、あの『かみさまの石』が入っていた。
「えっ、これ……大事なやつじゃ――」
「だいじだから。リゼルが、もってって。かえってくるまで、まもってて」
「……うん。わかった。ぜったい返すからね」
おとうさんは、荷物を背負うのを手伝ってくれたあと、ふと背を向けた。
「……気をつけて行け」
「うん。……ありがとう、おとうさん」
カイおとうさんの背中は、やっぱり大きかった。
でも、前よりも近く感じたように、思えてならない。
(……うん、大丈夫。きっと)
この家を離れても、私たちはちゃんと家族――そう思えるから、私は前を向ける。
▽
簡易学舎への道を歩きながら、私は小さく呼吸を整えた。
知らない子たち、知らない先生、知らない毎日。
でも、それはわたしの未来のための一歩だと思えばいい。
カイおとうさんも、ティノも、ミィナも応援してくれている。
それだけで、頑張れる気がしてならない。
「……がんばろう」
小さくつぶやいて、歩幅を大きくした。
帰ってくる日には、またちゃんと「ただいま」って言うから。
そしたらきっと、みんな笑って「おかえり」って言ってくれる。
そう信じて、私は新しい扉を開けた。
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