第15話 約束の『おかえり』【リゼル視点】
傷が癒えるには、まだ時間がかかりそうだった。
でも、おじちゃん――ううん、カイお父さんは、今日もきちんと朝ごはんを作ってくれている。
怪我をしてしまったせいもあるので、利き腕が使えないから、野菜の切り方は不格好だし、ちょっと焦げた卵焼きだったけれど。
それでも、テーブルに並んだその皿を見て、ミィナはにこにこ笑っていたし、ティノは「これが戦士の料理だな!」と意味不明なことを言っていた。
私は、何も言わずにスープをすすって、こっそり、胸の奥があたたかくなるのを感じていた。
▽
あの夜から、何かが変わった。
家の中の空気が、やわらかくなった気がする。
前は、私たちが家族になろうと頑張って、カイお父さんに近づいていた。
けど今は、お父さんの方からも、私たちに歩み寄ってきてくれている。
言葉は少ないけど、手があたたかい。
無骨な指先が、お皿を洗ってくれる。
不器用だけど、たしかな優しさが、背中からにじみ出ていた。
そんなある日の夕方、私はふと、家の裏の納屋にしまっていた古い木箱を見つけた。
中には、お父さんが昔、戦いの頃に使っていた道具や、古い地図、錆びたコンパスが入っていた。
その隅に、少し色あせた小さな布の袋を見つけた。
少し、ドキドキしながら開くと、中には手紙が入っていた。
私の大好きな、死んだお母さんの字だった。
――カイへ
あなたはきっと、自分のことを責め続けて、子どもたちにふさわしくないと感じているでしょう。
でも、私はあなたがどんな人か、ちゃんと見ていました。
無口で、でも誰よりも誠実で、目の前の命を真っ直ぐに守ろうとする人。
だから私は、あなたに任せたいと思いました。
この子たちに、『帰る場所』を、残したかったの。
……ありがとう。もう、ありがとうしか言えないけれど。
私は、あなたに『おかえり』を言える人が、この子たちの中から生まれると信じています。
私は手紙をそっと閉じて、空を見上げた。
西の空は、夕焼けで淡く赤く染まっていり。
あの日、お父さんが傷だらけで帰ってきたとき、私たちはそろって『おかえり』と言った。
それは、母が遺した『願い』そのものだったんだ。
▽
夜、いつものように食事を終えて、洗い物をしながら私はぽつりと言った。
「……ねえ、お父さん」
「……ああ」
「またいつか、誰かにあの人は……お父さんはすごかったよって、言える気がする」
お父さんは何も言わなかったけど、背中が少しだけ揺れていた。
たぶん、笑っていた。
ミィナはその夜、布団に入るときに言った。
「おかえりって、あったかいね」
ティノは
「ただいまって言える場所があるって、強くなるってことなんだって思った」
と、えらそうに言っていた。
私は、それを聞いてから目を閉じる――おかえりって言える人がいてくれて、ただいまって帰ってきてくれる人がいて、それだけで、人はちゃんと強くなれる。
そんなふうに、今は本気で思える。
私たちは、距離が縮まり、家族になった。
それが、きっと、なによりの宝物なんだと、私は思った。
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