表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/20

第15話 約束の『おかえり』【リゼル視点】

 傷が癒えるには、まだ時間がかかりそうだった。

 でも、おじちゃん――ううん、カイお父さんは、今日もきちんと朝ごはんを作ってくれている。

 怪我をしてしまったせいもあるので、利き腕が使えないから、野菜の切り方は不格好だし、ちょっと焦げた卵焼きだったけれど。

 それでも、テーブルに並んだその皿を見て、ミィナはにこにこ笑っていたし、ティノは「これが戦士の料理だな!」と意味不明なことを言っていた。

 私は、何も言わずにスープをすすって、こっそり、胸の奥があたたかくなるのを感じていた。

 

    ▽

 

 あの夜から、何かが変わった。

 家の中の空気が、やわらかくなった気がする。

 前は、私たちが家族になろうと頑張って、カイお父さんに近づいていた。

 けど今は、お父さんの方からも、私たちに歩み寄ってきてくれている。

 言葉は少ないけど、手があたたかい。

 無骨な指先が、お皿を洗ってくれる。

 不器用だけど、たしかな優しさが、背中からにじみ出ていた。

 

 そんなある日の夕方、私はふと、家の裏の納屋にしまっていた古い木箱を見つけた。

 中には、お父さんが昔、戦いの頃に使っていた道具や、古い地図、錆びたコンパスが入っていた。

 その隅に、少し色あせた小さな布の袋を見つけた。

 少し、ドキドキしながら開くと、中には手紙が入っていた。

 私の大好きな、死んだお母さんの字だった。

 

 ――カイへ

 あなたはきっと、自分のことを責め続けて、子どもたちにふさわしくないと感じているでしょう。

 でも、私はあなたがどんな人か、ちゃんと見ていました。

 無口で、でも誰よりも誠実で、目の前の命を真っ直ぐに守ろうとする人。

 だから私は、あなたに任せたいと思いました。

 この子たちに、『帰る場所』を、残したかったの。

 ……ありがとう。もう、ありがとうしか言えないけれど。

 私は、あなたに『おかえり』を言える人が、この子たちの中から生まれると信じています。

 

 私は手紙をそっと閉じて、空を見上げた。

 西の空は、夕焼けで淡く赤く染まっていり。

 あの日、お父さんが傷だらけで帰ってきたとき、私たちはそろって『おかえり』と言った。

 それは、母が遺した『願い』そのものだったんだ。

 

   ▽

 

 夜、いつものように食事を終えて、洗い物をしながら私はぽつりと言った。


「……ねえ、お父さん」

「……ああ」

「またいつか、誰かにあの人は……お父さんはすごかったよって、言える気がする」


 お父さんは何も言わなかったけど、背中が少しだけ揺れていた。

 たぶん、笑っていた。

 

 ミィナはその夜、布団に入るときに言った。


「おかえりって、あったかいね」


 ティノは


「ただいまって言える場所があるって、強くなるってことなんだって思った」


 と、えらそうに言っていた。

 私は、それを聞いてから目を閉じる――おかえりって言える人がいてくれて、ただいまって帰ってきてくれる人がいて、それだけで、人はちゃんと強くなれる。

 そんなふうに、今は本気で思える。

 

 私たちは、距離が縮まり、家族になった。

 それが、きっと、なによりの宝物なんだと、私は思った。


読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ