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1話

 俺は、召喚バトルRPG「幻獣戦記アルカディア」のトッププレイヤーだ。

 このゲームは、召喚士となって幻獣と契約し、戦い、冒険するファンタジーRPG。

 PvPランキング1位、全ストーリー制覇、高難易度クエスト最速クリア称号――。

 やり尽くしたはずのゲームだった。


 ……あの「ガチャ」を引くまでは。


 その日も、いつものようにログインし、デイリークエストをこなしていた。

 すでに全コンテンツを制覇し、PvPランキング1位の座も維持している俺にとって、残されたのは日課の消化と気まぐれなプレイくらいだ。


 ログインすると、目に飛び込んできたのは、見慣れないイベントバナーだった。


 《ユニークガチャ:1回のみ・やり直し不可・幻魔石消費なし》

「運命の相棒を見つけよう!」


 ユニークガチャ? 聞いたことがないな。それに、1回のみ?

 これまでの「幻獣戦記アルカディア」では、課金アイテムを使って、何度もガチャを引き、最強の幻獣を厳選するのが基本だった。

 それなのに、このガチャは 「1回のみ・やり直し不可」 と明言されている。


 不審に思い、すぐにSNSで情報を確認する。

 だが、何もない。


 公式アカウントの告知なし。フォローしている仲間も、このガチャについて一切触れていない。

 トレンドにも、掲示板にも、「ユニークガチャ」についての書き込みはゼロ。


(……そんなことあるか?)


 このゲームの新要素は、すぐに話題になる。

 それどころか、運営が事前告知なしでこんな重大なガチャを実装すること自体、前代未聞だ。


 さらに違和感を覚え、詳細ボタンを押してみる。


 「詳細情報なし」


 排出確率の表示がない。

 ピックアップ幻獣のリストもない。

 (たった1回しか引けないガチャ……か)


 俺はすでに全幻獣をコンプリートしている。

 もはや欲しい幻獣なんてない。

 だが、俺はゲーマーだ。


 「出てきた幻獣でストーリー攻略でもしてみようかな」


 そう呟きながら、俺は迷わずガチャボタンを押した。


 ――その瞬間、俺は眩い光に包まれた。


 □■□■

 

 意識がゆっくりと浮上する。だが、違和感がひどい。

 体が重い。いや、違う――何かがズレている。

 自分の手を見下ろし、思わず息をのんだ。


 小さい。


 指が細く、腕が短い。視線の高さも違う。


 (待て、これは……子供の体……?)


 焦燥感が胸を満たす。心臓が早鐘のように鳴る。

 なんだこれ、俺はさっきまでゲームしてたはずなのに!?


 頭が混乱している中、目を上げると、巨大な魔法陣の上で祈りを捧げている少年がいた。


 どこかで見たことがある――いや、見覚えがありすぎる。


 これは「幻獣戦記アルカディア」の召喚士の契約の儀そのものだった。

 何100回と画面越しに見たイベントシーン。

 キャラクリ後に最初の幻獣と契約する、あの儀式が目の前で行われている。


 だが――これはムービーではない。


 俺は、ここにいる。

 ゲームの中に入り込んでしまった……?

 一体、何がおきた?

 

「契約成功だ。鑑定。ランクB、サーペント、水属性。次!」

 儀式を執り行っているのは、銀髪を後ろで束ねた壮年の男だった。

 藍色の法衣に金糸の刺繍が施され、その姿は威厳に満ちている。


「やったあ。ランクBだ!」

 祈りを捧げていた少年は無邪気な声を挙げていた。


 「リオン=エルネス。前へ」


 ――俺の名前が呼ばれた。


 いや、違う。

 俺は「リオン」なんて名前じゃない。

 でも、なぜだか、その名前を「自分のもの」だと頭が理解してしまう。


 なぜだ? 俺の本当の名前は……。


 思い出そうとするが、喉元まで出かかった俺の名前が、霧のように消えていく。

 まるで、最初から存在しなかったかのように。


 頭がぐらつく。

 寒気が背筋を駆け上がり、手のひらがじっとりと汗ばむ。


 リオン=エルネス。ゲーム内のストーリーで聞いたことが無い名前だった。

 主人公のデフォルトネームか?それとも、いわゆるモブキャラの名前なのか。


 混乱する頭の中で、考えが堂々巡りする。


 「早くしろ」


 儀式を執り行う男が冷たく告げる。

 俺は息を呑み、足を震わせながら、ゆっくりと前へ進んだ。


 その瞬間、魔法陣が光り、力が流れ込んでくる感覚がする。


 両手を胸の前で組むと、俺の目の前に光が弾けるように広がった。


 ――通常のガチャ演出なら、魔法陣の色で出てくるランクが予測できる。

 虹色ならSS、金ならS、紫ならA、青ならB……。


 俺は目を凝らした。


 魔法陣は……灰色。演出無し。


 くそっ、何がなんだかわからんこの状況。せめて強い幻獣の助けが欲しかったのに。


 いや、違う。

 俺は最強構築で無双が好きなわけじゃないだろ。

 弱キャラ使って、環境構築ぶっ倒した瞬間が最っ高に気持ちいんじゃねぇか!

 

 ならば、俺に文句を言う資格はない。


 俺は静かに息を吸い、次に現れる存在を待った。


 灰色演出なら、出てくる幻獣はほぼランクD。スライムや、ドスイノシシ、チビドラなど、基礎能力が低く、高ランクの幻獣と渡り合うのは難しい。だが、俺はトッププレイヤーだ。ランクDの幻獣での戦い方を知っている。


 さぁ誰でも来い!


 光の粒子が渦を巻き、魔法陣の中心で形を成していく。

 

 ――そして、現れたのは 大きさ約1メートルほどの動く鎧だった。関節部分からは黒い影が揺らめき、鎧全体は鏡のように周囲を映している。


 俺は反射的に息をのむ。


 (こいつは確か……ミラナイト。)


 見覚えがある。サービス開始1周年過ぎたエイプリルフールで実装されたネタキャラだ。

 主な能力は相手の幻獣のコピーと属性の変更。実装当時は相手の幻獣によって、戦い方が全く変わるせいで非常に扱いづらいキャラと評価されていた。しかし、その評価は使い手によってガラリと変わる。そう、すべての幻獣について、その戦い方を知っていればいいのだ。どの幻獣がどんな動きをするのか、どの技がどんな挙動をするのか。コピー能力を活かすには元の幻獣の特徴を知り尽くしている必要があるのだ。

 

 「扱いが難しいキャラ」なのではなく「扱えるプレイヤーがほとんどいなかったキャラ」だ。


 そして、俺は数少ないこいつを扱えるプレイヤーだった。俺を始めとした一部のプレイヤーがPVP戦で猛威をふるいすぎて、こいつミラナイトは対人戦で禁止になったのだ。


 「ミラナイトだ。めずらしいけど、はずれだね」

 「変な能力を持っているけど、基礎能力が低すぎて話にならないわね」


 周囲からひそひそと声が漏れる。


 「鑑定。ランクD、ミラナイト。属性は光。リオン=エルネス、下がりなさい」


 形式的な召喚結果の通達。

 俺は視線を落とし、目の前の幻獣をまじまじと見つめる。


 (もしこの世界でも同じ性能なら……俺はこいつを、誰よりも使いこなせる)


 面白いじゃないか。


 理由もわからないまま、気づけばゲームの世界に放り込まれ、相棒はピーキーすぎて運営にも見放されたミラナイト。


 俄然、楽しみになってきた。


 さっきまでの焦燥は、どこかへ消えていた。


 俺がどうしてこの世界に来たのか、俺がここで何をしなければならないのか全くわからない。

 はたして、俺が知っている「幻獣戦記アルカディア」と同じなのか、違うのか。

 だが、それがどうした。


 どんな状況だろうと、俺はやれる。こいつと一緒になら何でもできる気がする。


 「……行こうぜ、お前と俺で。」

2/24 主人公の名前を「リオン=エルネス」に修正

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