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三題噺もどき3

観覧車

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくじゅうなな。

 

 ゴウンーという低い音が鳴る。


 空中に浮かぶ箱の中。

 ガラス張りの底からは、遠く離れたように感じる地上が見える。

 今が観覧車のどのあたりに居るのか全く分からないが、相当高い位置までは来ているはずだ。分からないけど。

「……」

 高所恐怖症とまではいかないが、あまり高い所は得意ではないので、正直これには乗りたくなかった。

 回っている箱のすべてがガラス張りというわけではなく、数個ランダムにこういう仕様になっているらしい。よりにもよって、順番のタイミングでそれが回ってきたと言うわけだ。

「……」

 断ればよかったが、一緒に乗っている奴が乗り気だったせいで、断り損ねた。

 しかも、存外高くて怖かったのか、あまり楽しそうに見えない。

 というか……いや、うん。

「……」

 なぜだか。

 目の前に向かい合って座っていて、観覧車にこうして一緒に乗る仲なのに。

 そのはずなのに。

 顔は分かるんだけど。

「……」

 名前が分からない。

「……」

 普段生活しているなかで、人ごみの中で、あの顔を見たことがあるし同級生だということは分かるんだけど名前が分からないということが多々ある。だから、あるあるではあるんだけど、観覧車にまで乗っているのに名前が分からないは……おかしいことくらいはなんとなくわかる。

 でも、今更気づいたところで、何かがどうにかなるわけでもないので。

 大人しく、外の景色を眺めつつ、さっさと一周しないかなと思っていることにした。

「……ん?」

 そう思い始めた矢先に、何か口を開いた。

 思っている以上に恐怖を感じているのか、かなり声が小さくて全く何を言っているのか聞こえもしない。そんなに怯えるなら、そもそも観覧車に向いていないんじゃないか……。

 でも、ぼそぼそと聞こえたその声にも聞き覚えはあった。

 ただやっぱり。

 名前が出てこない。

「……?」

 口を開いてから、何かをずっと言っているんだが。

 ホントに、何を話しているのか分からない。

 口が動いていることは分かるんだけど、何の話だろう。

「……ね―」

 もう一度最初から話して―と、そう言おうとした瞬間。

「―ちょっ―――」

 突然立ち上がり、隣に座ってきた。

 箱がかなり上の方まで来ていたせいか、少し動いただけだったのにかなり大きく揺れた。

 風も強いんだろうか、視界の隅に入り込んできた木々が大きく揺れているように見えた。

 気のせいかもしれないけど。

 それよりも、突然隣に座ってきたことへの驚きばかりが、胸中を占めていた。

「……なに」

 そういえば、言及するのを忘れていたが、一緒に乗っている奴とは性別的には男である。

 その点でも、なんで一緒に乗っているのかが謎で仕方ないのだけど。

 そんな仲の男友達なんてものは、いないはずだし、小学生の頃にちょっとそういったことがあって、異性というものに対しての耐性があまりできていない。顔見知りでも異性は異性だ。

「……?」

 必要以上に近づかれると、動機がしてくる。

 これが恋愛とかに発展するほうのドキドキなら何かしら救いはあったかもしれないけど、現在進行形で心臓がうるさくなりだした原因は、隣に座ってきた異性に対する恐怖によるものだ。

 できれば離れて欲しいし、そこに座るなら話しかけてこないで―――

「―――――!?!??」

 気づかれないよう距離を取ろうとした矢先に。

 何を勘違いしたのか、何を勘付いたのか、何を考えているのか。

 柔らかな何かに触れるように、落ち込んでいる人を慰めるように、愛しいものを慈しむように。

「―――?!」

 そっと。

 腕を回された。

「――」

 訳が分からない。

 何をどうしたら、そういう行動に移るのか全く分からない。

 しかも、帰ってきた感触はとても人のモノとは思えない。生ぬるい、ただひたすらに気持ちが悪いもので。

 動機が激しくなって、不愉快にすら思えてくる。

「――やめ」

 腕が完全に繋がれる前に、咄嗟に腕を振りほどき。

 勢いのままに立ち上がる。

 箱は大きく揺れる。

「――は」

 そこにあるはずの底がなくなっていた

 ガラス張りだと思っていたそこは、何もなくなっていた。

 立ち上がったはずの私は。




 ―――――――――――!!」

 びくりと体が跳ね、目が覚める。

 心臓がドクドクと言っている。

 こういう夢は寝起きに悪い。







 お題:慰める・不愉快・観覧車


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