永遠の答え
永い陶酔に恍惚としていた。
何度も、何度も繰り返し襲ってくる酔いに、唯意識を遠のかせていた。
――いや、そうじゃない。
“陶酔”がよかったんじゃない。
私が酔ったのは、もっと違うもの。
遠い昔に失ったそれを追い求める感情。
遠い感覚が探す。
適切な言葉を必死に追う。
一時的な永遠は未だ存在し続けている。
でも、気が気じゃない。
この永遠は現実の時間で、1時間かもしれない、10分かもしれない…もしかしたら1秒にも満たないかもしれない?
ある日、目覚めた時には30分だった。
…私が遠い昔追い求めていた、“それ”は、……そうだ、これ。
刹那に過ぎゆく、欺瞞に満ちた“永遠”。
永遠の答え
脳の置くまでとろけるような底の無い陶酔。
それは永遠を思わず望むほど愚かで、消えゆくも知る哀しい響き。
永遠に続くほどになれば苦痛で、切れた時には全身の苦痛が襲う。
いっそ知らなければよかった、と舌打ちした回数なんてもう数え切れない。でも、勝てない。
プラスチックの使用済みの…空の容器がくすんだフローリングに転がる。
いつからだろう、依存し始めたのは。
壁にかかった埃っぽいカレンダーは何も教えてくれない。
よく見ると青白い腕は不気味で、常に震えている。
寒いのではない、暑いのではない、微かな白い粉のせい。
紅い痕がたくさん鬱血した腕で私は何を抱けるのだろう、何を追い求めるのが許されてるんだろう。
何も許されちゃ居ない、あの日の自分から。
それ以上の罪悪感なんていらないのに、気付けば新しい粉の袋。
微かな重さは、前回よりも重い。
なんでだろう、お金なんて払ってない。事実財布は触った形跡の一切無い気に入っていた鞄の中のはず。
私はあの白い粉のせいで魔法使いにでもなったのかしらん?
…なんちゃって。
結局体内に溶けてゆく白い粉たちのせいなのかそうではないのか、とりあえず機嫌がいい。
数少ない機嫌のいい日、この間に新しい話を書いてしまおうと思ったのに。
アイデアは浮かぶ、紙もペンもある、なのに文字が読めない。
これでも人より上手い自信のあった字、本人すら読めない。
そのせいでせっかくのアイデアたちも消えていく。
生きる為のお金すらない。
また貯金を崩さなきゃいけない。どうしよう、収入なんて無いのに。
毎日の生活の答えすら見つからない。
何が悪いのか、それはわかっているのに。
それを生活から失くす考えが浮かばない。
なんでそれなしで生きていけるのだろう?
生活の出口が見つからない。
扉なんてもう閉ざされてしまった。
私の手なんかじゃ開かない。
せっかく今頃見つけた開かない出口の扉の前で、唯私は崩れ行く身体に脱出を阻まれ、ひれ伏し、朽ちてゆく。
誰も来ないはずの部屋、3回1セットのノックを2回繰り返される。
面倒なはずなのに身体は勝手に玄関に向かう。
今までもめんどくさい考え事を捨てて、私はマリオネットのように従順に玄関の扉を開けた。
疑いなんてもう持つことすら出来ない。
見慣れた風景の中、出した手に白い粉がのる。
私は狂喜して扉を閉める。
誰が渡した?
そんなの、どうだっていい。
粉が手に入るのなら。
永い陶酔の前に、身体は悲鳴をあげる。
もう陶酔に追いつけない、無闇な永遠は苦しい。
抜け出したい、けどあのプラスチックから離れられない。
欺瞞に絡まりもう抜けられない。
ただ、小さい頃に望んだ“永遠の幸せ”に触れたかった。きっとそれだけなんだと思う。